合流
7月31日。
犬亀豚の3名は安土製菓の社長に呼び出され、
はるばる京都までやってきた。
そこには鬼島神楽の姿があり、彼女は社長に対して
物怖じせずに自分の意見を堂々と述べていた。
それが終わると社長室に緊急の連絡が入り、
我らがリーダー安土桃太郎が単独でダンジョンに潜り
ラスボス安土桃之進に挑戦する気なのだと知る。
まあそれは社長安土桜夜による勘違いなのだが、
結果的にラストバトルは行われる運命にある。
一行は現場に急行する車内で準備を整える。
犬飼杏子は剣と盾を装備しているが前衛ではない。
回復と強化以外やることがない彼女は手が空きやすく
自衛目的、あるいは味方の武具に不具合が出た場合の
予備として持たされているにすぎない。
それよりも彼女が確認するべきは、救急箱の中身や
飲料水が人数分揃っているかなどの項目である。
いわゆる荷物持ちがメインの仕事だからだ。
呼び方を変えれば補給係。そっちの方がカッコいい。
今回は弁当を用意する余裕などない。
亀山千歳は鞭を持っているのだが、
その武器で敵を倒せたことは一度も無い。
ただなんとなく雰囲気で持っているだけであり、
ボンデージ衣装との組み合わせが気に入っている。
魔法使いにはそういう気分のノリも大事なのだ。
性能度外視でお気に入りの武具を使った方が、
魔法効果が向上する場合が多いのである。
一方、猪瀬牡丹は気分の乗らない鎧を着ていた。
世界一硬い鉱石を素材にした、黒い髑髏の重鎧。
まあ仕方ない。彼女はパーティーの盾なのだ。
最前線に立って踏ん張るのが最大の役目であり、
そのためには優れた防具を身に纏う必要がある。
リーダーからは好きに改造してもよいと言われたが、
結局ダイヤモンド製のそれをいじる気にはなれない。
鬼島神楽は手間取っていた。
初めて装備する防具ということもあるが、
さすがに御所被衣を着るのは初めてなのだ。
どうやらマニュアルが付属していなかったようで、
安土製菓の女性社員から数名の手伝いを借りて
着付け方をネットで検索しながら悪戦苦闘している。
「え、何あの着物……」
「前の装備が気に入らなかったんでしょうね」
「自腹で買うたんやろか?」
神楽は今まで魔法使い向けの衣装である
“ブラックサバス”を装備していたのだが、
それはパツパツのミニスカワンピースなので
ボディーラインが強調される作りだった。
貧乳の神楽にとっては公開処刑も同然であり、
新しい装備が欲しくなるのも当然だろう。
神楽の新装備は前述の通り和装タイプの衣装であり
色とりどりの花々が咲き乱れる柄がとても美しく、
それは鬼島輝夜が着ていた物と同じデザインである。
何よりも彼女の寸胴体型にはよく似合っていた。
“千紫万紅”──この周回で解禁された最終装備だ。
神楽がもたついている間に、無間ダンジョンの前には
緊急召集に応じてくれた近隣の野良冒険者たちと、
かろうじて戦える安土製菓社員たちが集結していた。
彼らの役目はチームブラックのメンバー4名を
無事にリーダーの元へと送り届けることであり、
それと同時に退路の確保に尽力することだ。
その野良冒険者の中の1人から提案があった。
「社長さん
日本魔法学園に救援要請は出しましたか?
隣の県ですし、呼べばすぐに来てくれますよ」
「えっ、いや……
一般人がダンジョンに紛れ込んだのならともかく、
今回は冒険者が単独潜入しただけだからね
それが原因で何か混乱が起きてるわけでもないし、
救援要請を出せる基準を満たしていないよ」
「実は私、そこの卒業生でしてね
しかも母校では英雄的な扱いをされているので、
私が助けを求めているということにすれば
ガイドラインをすっ飛ばして協力するはずです」
「おおっ、それはありがたい……!
じゃあ是非お言葉に甘えるとするよ!
君の名前を教えてくれ!」
「斎藤満月です
夫と共に秩父防衛戦で活躍した実績があります」
その場には斎藤夫妻だけでなく宮本&佐々木コンビ、
そしてあの藤原兄弟といった強豪が揃っており、
彼らはいずれも国内史上最大の魔物流出事件である
秩父防衛戦を生き抜いた歴戦の猛者であった。
「すごいな、名だたる英雄たちがこんなにも……
これはもしかしてビッグチャンスなんじゃないか?
今なら実現できるかもしれないぞ……
安土家500年の悲願……安土桃之進の討伐を……!」
安土桜夜は正直、チームブラックのメンバーに
安土桃之進の討伐など期待していなかった。
今まで送り込んできた挑戦者たちと同じように、
どうせ途中で引き返してくるのだろう。
そんな軽い気持ちだった。
わざわざ京都までお越しいただいたのは、
誰がヒロインなのかを見定めたかったからである。
まあ最初から勝負は見えていたが、
それを確認できて満足はしていたのだ。
しかしその直後に状況が変わってしまい、
目の前の冒険者たちを本気にさせる必要があった。
ただ10億円という破格の報酬で釣ってはみたものの、
彼女らには甥っ子を連れ戻してくれればそれでいい。
やはりラスボス撃破は視野に入れてなかった。
が、また状況が変わったのだ。
この流れなら倒せるかもしれない。
500年間無敗を誇る歴代最強の剣士を──。
そんな期待感で身震いする安土桜夜に、
更なる朗報がもたらされる。
「事後報告になって申し訳ないのですが、
関東魔法学園からも助っ人を呼んであります
彼らはラスボスの討伐が目的ではなく
安土桃太郎を保護するために動かす予定ですが、
その方向で構いませんね?」
「ああっ、本当に助かります!
……ところであなたはどちら様で?」
「関東魔法学園の落合と申します
まあ、ヘリを飛ばす際に必要な保護者ですよ」
「なるほど、関東の訓練官さんでしたか
……って関東のヘリは今、京都にあるんですよね?
たしか陸路だと6時間くらいだったような……」
「いえ、心配には及びません
彼らはもう京都に来ています」
「え、そんなまさか……
いやいや、埼玉から京都ですよ!?
一体どれだけ離れていると……!!」
「あの3人が呼び出された時点で何か怪しいと思い、
念のため別働隊を編成しておいたまでのことです
まあ、この事態は予測できませんでしたがね」
この訓練官はデキる男だ。
何か怪しいと思われたのは心外だが、
彼の備えは無駄ではなかった。
その別働隊とやらは学園で上位の実力者なはずだ。
戦力不明な女の子たちよりは信用できるだろう。
落合訓練官は犬飼杏子に確認を行なった。
「じきに援軍が到着することだし、
お前は外で待機しててもいいんだぞ?
安土抜きで魔物と戦った経験なんてないだろう
奴を連れ戻す役目は他の連中に任せりゃいい」
「え、あの、なんで私だけ?
カメちゃんも似たようなもんなのに……
それに回復役は多い方がいいんじゃないですか?」
「お前のスペックに不安があるからだ
身体能力が低いのは目を瞑るにしても、
支援役として重要なMPの管理が下手なんだよ
報告書によると味方が少しダメージを受ける度に
バカスカとヒールを撃ちまくってるようだが、
そんなペースでMPを無駄遣いしてたら
安土と合流する前にガス欠になるぞ」
「うっ、それは……
安土君からそうしろって言われてるからです!
使った分のMPはすぐに回復してもらえるので!」
「そんな雑な戦い方に慣れてるのが問題なんだよ
まあどうしても行きたいのなら止めはしないが、
普段よりMPを節約することを頭に入れておけよ」
「はい!」
冒険者たちが続々と無間ダンジョンに入場してゆき、
神楽がモタついた影響でチームブラックは出遅れて
最後に入場する運びとなった。
まあ、この後に援軍が駆けつける予定ではあるが、
今見えている範囲内では彼女たちが最後だった。
そしていざ出陣──という段階になって
安土桜夜から待ったの声が掛かり、出鼻を挫かれる。
「その、依頼内容を変更しようと思う
君たちには安土桃之進の討伐を命じたけど、
その件はもう忘れちゃっていいよ
討伐は他の人に任せるべきだと考え直してね
それよりモモ君を無事に連れ戻してほしいんだ」
「えっ、報酬は!?」
「真っ先にお金の心配をするのね」
「わんこちゃんは浅ましいやっちゃな〜」
「だって借金チャラにできるし重要でしょ!?」
「まあ、それはそうだけど……」
「言い方とタイミングがね……」
「ああ、報酬については心配しなくてもいい
君たちがモモ君の保護を完了したら、
1人につき100万円の報酬を支払うと約束しよう」
「え、たった100万……」
「いや、大金でしょうに」
「たしかに10億と比べると見劣りしはるけどなぁ」
「もしも今回の戦いで誰かが安土桃之進を倒せたら、
その時には君たちにも討伐に協力したお礼として、
1人につき1000万円の報酬を出すつもりだ」
「たったの1000万……!」
「それやめなさいよ」
「わんこちゃんの金銭感覚が狂いよった」
そんな女子たちの反応など意に介さず、
安土桜夜はどこか遠い所を見つめながら語り出す。
「苦節500年……
とうとう成し遂げられるかもしれない
今日こそ終わらせられるかもしれない
安土桃之進の自殺を止められるかもしれない」
「へ?」
「今、自殺って言った?」
「どうゆうこっちゃろ?」
「安土家に伝わる資料によれば、
安土桃之進は一定周期で自滅行動をする魔物らしい
そのまま倒れてくれればいいんだけど、
どうやら自分の攻撃では死に切れないらしいんだ
一時的にダンジョンは消滅するけど後日復活……
まあ、ただリセットされるだけだね
その自殺……いや、自殺未遂か
それが次でちょうど12000回になる
なんだか運命的なものを感じずにはいられないよ」
「『ちょうど』なのかなあ」
「数字の区切り方は人それぞれね」
「その自滅行動ってどんなのですか?」
「残念ながら詳しい内容はわからないんだ
資料の肝心な部分が焼け落ちてしまっていてね……
どうも隣国との戦争で屋敷が燃やされ……って、
今は歴史のお勉強なんてしてる場合じゃないな
とりあえず仕切り直そう
君たちの任務は安土桃太郎の保護だ
それ以外のことは考えなくていい」
「最大で1100万の儲けかぁ……」
「儲けとか言ったわよこの女」
「はい、安土君を無事に連れ戻してきます」
「それから、もしモモ君と合流する前に
ダンジョンの崩壊が始まってしまった場合、
その時は任務を放棄してすぐに引き上げるんだ
残念だけどモモ君の保護は諦めるしか……」
「ああ、社長さん
その点は彼女たちも理解してますよ
生徒には『自分の命を最優先に動け』と
常日頃から教え込んでますからね
全員がそれを徹底することで、
結果的に被害を最小限に抑えることができます」
と、落合訓練官が横槍を入れるが……
「えっ、諦めちゃうんですか!?」
「彼を助けられなかったら意味が無いじゃない」
「自分の甥っ子なのに……」
お馬鹿トリオは1年目で習ったはずの、
基本中の基本が身についていなかった。
第1層はスライムや精霊3種が徘徊するフロアである。
ただの通過点のような場所だが、ラスボス撃破を
視野に入れている場合は退路の確保が重要なので、
戦闘要員を配置しておく必要がある。
今回突入した冒険者の人数はチームブラックを除いて
54名なので、各層につき7名程度の配置にすると
バランスが取れるように思うだろう。
だが、単純な割り算で決定してはならない。
よほど変わった作りのダンジョンでもない限り
奥へ進むほど強い魔物と遭遇するのが定番であり、
できれば後半に人員を集中させるべきなのだ。
その基本を理解しているのかしていないのか、
第1層には誰一人として冒険者の姿が見えなかった。
「あれ? 退路の確保は?」
「迷子になったのかしら?」
「一本道でそれはないやろ」
困惑する一行は魔物溜まりを発見する。
どうやらそれは自然に出来上がったものではなく、
奥へと進む冒険者たちの後を魔物たちが追いかけて
第1層の終点で渋滞を起こしてしまったようだ。
「退路どころか進路の確保が……」
「どうしてこんなことに……」
「とりあえずウチらで処理せなあかんか〜」
そして早速、犬飼杏子がシングルミスを犯す。
「ライジングフォース!」
味方の攻撃力を上昇させる必要は無かったのだ。
精霊系の魔物は弱点属性に対して滅茶苦茶弱いので、
素の状態でも1発で倒すことが可能なのである。
まさしくMPの無駄遣い。
落合訓練官との約束をのっけから破ってしまった。
しかも味方全体の魔力を高めてしまったせいで、
魔物から発見されやすくなるというデメリットを
いかんなく発揮する結果となったのだ。
そして犬飼杏子と猪瀬牡丹によるダブルミスが発生。
「サンダーボール!」「ファイヤーボール!」
敵は複数だというのに単発攻撃魔法を放ったのだ。
まとめて倒せばいいものを、チマチマと1匹ずつ
片付けるのは非効率的としか言いようがない。
彼女らは範囲攻撃魔法を使えないわけではない。
ただ単に考えが足りなかっただけである。
Wでアホなのだ。
そしてトリプルミスが発生。
「デッドエンド!」
亀山千歳が氷属性の攻撃魔法を放ったことにより、
炎氷雷の3属性が揃ってしまった。
それは本来喜ばしい状況なのだが、
使い分けができていなければ全くの無意味である。
むしろ逆効果だ。
炎無効のジェリーにファイヤーボールは効かないし、
雷属性を吸収する性質なので、サンダーボールは
ただ相手を回復させるだけの無駄行動なのだ。
そして氷無効のジャックに対して氷属性+凍結効果の
デッドエンドがノーダメージなのは言うまでもない。
凍結は有効だが、フリーズの方がコスパが良い。
そしてクアドラプルミスが発生。
後輩3人がなんか馬鹿なことをやっているのを見て、
痺れを切らした神楽は新技を閃いた。
“トリコロール”──
炎氷雷の3属性の攻撃魔法を同時に放つという、
真の天才にしか実現不可能な変態技術である。
しかしその『同時に』の部分が足を引っ張り、
精霊系に与えるダメージと吸収量が相殺されてしまい
結局1匹も倒すことができなかったのだ。
むしろ自分を中心とした超広範囲攻撃の性質により、
味方を巻き込んでしまうという大失態を招いた。
これのせいで回復魔法も使用しなければならない。
リーダー不在というだけでこのザマである。
プロの免許を持っている4人が集まっていながら、
仮免冒険者が余裕で突破できるレベルのフロアで
全滅寸前のところまで追い込まれるという始末。
結局彼女たちはチマチマと1匹ずつ倒すことにして、
多くの時間と労力を無駄にしながら先へと進んだ。
事後になるが、この局面での最適解は
・ファイヤーストーム(ジンを処理)
・アイスストーム(ジェリーを処理)
・サンダーストーム(ジャックを処理)
を時間差で撃ち込めばいいだけである。順不同。
本来はたった3手で終わる戦いであった。
第2層でも道中は比較的平和であり、
終点に魔物溜まりが出来上がっていた。
どうも先行した冒険者たちは退路の確保など
全く考えていないような気配がしてならない。
さておき、敵は復活持ちのスケルトン系だ。
先に最適解を伝えてしまうが、
ファイヤーストームで焼き払うのが正解である。
その使い手である猪瀬牡丹は敵陣に突っ込み、
大盾を構えながら防御に徹している。
犬飼杏子と亀山千歳は遠方から単発攻撃魔法を放ち、
神楽は先程の失敗で怖気付いたのか、魔法を使わずに
先祖の遺骨で作られた杖で骨の魔物を叩いている。
この場にはアホが4人いた。
彼女たちのポテンシャルは決して悪くない。
むしろカタログスペックは高い方なのだ。
ただ落合訓練官が先程仰っていたように、
雑な戦い方に慣れてしまっているのが問題だ。
『指示通りに動け』というリーダーの功罪により、
自分の頭で状況判断する力が身についていないのだ。
その中でも神楽はマシな方だった。
なんだかんだで国内トップクラスの実力者たちの
戦いを間近で見てきたし、なんならその数々の戦いで
アタッカーとして大いに貢献してきた実績がある。
ただリーダー不在の状況に慣れていなかっただけだ。
「グランドクロス!」
神楽を中心にして地面に巨大な十字が描かれ、
その交差する2本の直線から光の壁が競り上がる。
巻き込まれた魔物たちは空中へと放り出され、
分解された無数の骨が雨となって降り注ぐ。
神楽の大技で9割以上の敵を蹴散らすことに成功し、
それまで防御一辺倒だった猪瀬牡丹は攻勢に転じて
体当たりとシールドバッシュを繰り出すようになる。
彼女もまた他パーティーでの活動経験があるので、
お馬鹿トリオの中では一番動ける存在であった。
亀山千歳はリーダーの指示通りにしか動けないが、
攻撃+状態異常、攻撃+弱体などの高等技術を
平然と使いこなせる天才なので非常に価値が高い。
攻撃力とアシスト性能を兼ね備えた逸材なのだ。
犬飼杏子はどうしようもなかった。
まだダンジョン序盤のエリアだというのに、
もうMP切れを起こしてしまったのである。
後方支援が彼女の役割であるにもかかわらず、
『自分も加勢しなきゃ』という無用なやる気を出して
バカスカと攻撃魔法を撃ちまくった結果がこれだ。
事前にMPを節約するように言われていたが、
いざ戦いが始まると頭から抜け落ちてしまったのだ。
そんなお荷物確定の彼女をどうするべきか迷ったが、
「荷物持ちを頑張る」という本人のやる気を尊重して
一行は先へと進んだのだった。
第3層にて、ようやく他の冒険者と出会えた。
この先の戦いについていけなかった者たちであり、
彼らは全員安土製菓の社員であった。
まあ現役から退いた者たちならこの辺が限界……
いや、やはり何かがおかしい。
このフロアは第1層と同じく精霊系が出現するので、
年齢的に魔法能力を失っているであろう彼らが
こんな場所に留まっているのは不自然なのだ。
「いやあ、だってねえ……
おじさんたちは諦めたくないんだよ
なんとかして先に進めればいいんだけど……」
「すごいやる気だ……!」
「安土君を助けたいという気持ちはみんな一緒ね」
「なんだかんだで愛されとるんやなあ、安土君」
「う〜ん……
いや、ガッカリさせて申し訳ないんだけど、
おじさんたちは討伐報酬が欲しいだけなんだ
なにせラスボスを倒したチームには10億円だからね
このBIGなチャンスを逃す手は無いよ」
「そんな……お金が目当てなんですか!?」
「あんたが言うんかい」
「え、倒せると思ってはるんですか?」
「まあ、まともにやり合って勝てるとは思ってないよ
でもここのラスボスは自滅行動をするらしいからね
その隙を突ければワンチャンあるかなって……」
「なんか卑怯な感じがする……」
「まあ勝てればいいんじゃない?
この人には絶対無理だろうけど」
「素直に引き返した方がええんとちゃう?
おっちゃん、魔法使えへんのやろ?」
「昔は使えたんだけどねえ
やっぱりもうおじさんには無理なのかなあ
でも10億円のボーナスは捨て難いしなあ
そのお金があれば家のローンとか車のローンとか、
色々煩わしい思いしなくて済むんだけどねえ
でももう若くないからなあ……」
一行は燻り続けるおっさんを置いて先へと進んだ。
第4層にはごく普通の石人形シリーズの他に、
3分の2スケールのゴーレムの姿が見られた。
それは学園の物より幾分か速い動きをしているので、
初見の者たちにとっては強化版としか思えない。
まあ実際はサイズに比例してパワーダウンした
弱体版なのだが、よほど研究熱心な者でもない限りは
その真相を究明しようとは思わないだろう。
そして、それを強敵だと思い込んでいる者たちは
通常時よりも高出力で攻撃魔法を放っていたため、
余計な消耗のせいで疲弊しているようだった。
彼らは無名の野良冒険者と若い安土製菓社員という
構成であり、戦闘能力はあるが知識と経験に乏しく、
間違った直感に従って行動していたのである。
「あっ、ちょうどいいところに!
君たちは後から来たし、まだMP余ってるよね?
安土君の救出は俺たちがやっておくから、
この場は君たちに任せてもいいよね?」
「え、いや、困ります」
「こいつも10億円が目当てなんでしょうね」
「こんな所で苦戦してるようなレベルの人間が
この先やってけるとは思えへんけどな」
「おいおい、舐めないでもらえるかなぁ?
こちとら冒険生活10年目のベテランだし、
秩父防衛戦にも参加した実績があるんだぜ?
免許取り立ての君たちこそやってけないだろう」
「秩父防衛戦って何?」
「そもそも秩父ってどこ?」
「たしか山のあるとこや」
お馬鹿トリオは揃って地理の成績が悪かった。
それに冒険者史にも疎く、興味も無い。
地元埼玉で起きた有名な事件を知らないのだ。
これには自称ベテラン冒険者も苦笑いである。
「君たち本当に関東の生徒なの……?」
と呆れ返る彼の背後にミニゴーレムが発生し、
神楽は咄嗟に最適解を導き出した。
“スーパーノヴァ”──
敵の体内で爆発を起こす炎属性の攻撃魔法。
対象の魔法防御力を無視するので非常に強力だが、
発動までに時間がかかるのがネックである。
……が、神楽はこれをノータイムで放ったのだ。
それを実現できたのは、調査隊の活動に協力した際に
スーパーノヴァの開発秘話を聞いたからだろう。
その開発者は“解析”に強い適性を持っており、
当時は残念な適性だと思われていたそれを
どうにか実用化できないかと試行錯誤したらしい。
その結果生み出されたのがスーパーノヴァなのだが、
神楽は最初から感覚だけでそれを習得していた。
そこに理論が加わることで進化を果たしたのだ。
今ここに究極のスーパーノヴァが完成したのである。
「うっそおおお!?
何が起こったの今!?
一撃って、そりゃないよ!?」
正真正銘の天才と自称ベテラン冒険者、
その実力の差は歴然だった。
何もしていない犬亀豚は勝者の笑みを浮かべ、
こうしてまた一行は先へと進む。
ちなみに秩父防衛戦についてだが、
関わった全ての冒険者が活躍したわけではない。
報奨金目当てで現地まで足を運んではみたものの
何もせずにすぐ引き返した者が数万人存在しており、
そういう輩が『俺はあの戦いに参加した』と
ホラを吹いているケースも多いのだ。
自称ベテランの彼もその中の1人だ。
第5層ではまともな冒険者が戦っていた。
彼らは強敵ドラゴン相手に一歩も退かず、
MPの使い道は強化魔法だけに留めて
洗練された剣技で善戦していた。
まあ斬撃を飛ばしたりはできないが、
その近接戦闘能力の高さは本物だった。
剛腕で二刀流を操るチョンマゲ男は宮本正志、
やたら長い刀を振るうサラサラヘアーの糸目男は
佐々木小司郎と言い、2人は関東魔法学園の卒業生だ。
前述した秩父防衛戦でちゃんと働いた実績があり、
その時もドラゴン相手に立ち回っていたらしい。
「すごい……もしかしたら安土君以上かも……」
「使ってる武器が違うからなんとも言えないわ」
「先輩らはラスボス狙わないんですか?」
「んぁ?
いやいや、俺たちゃ身の程を弁えるからな
無茶して怪我でもしたら元も子もないぜ」
「とか言って本当は狙ってるんだろ?
今は最前線の連中が撤退するのを待ってるんだ
ラスボスのHPを削ってくれたのを期待してな……」
いわゆる漁夫の利というやつだろうか?
賢いというか、セコいというか……
だがまあ、ラスボスを倒せるならなんでもいい。
その場合10億円は彼らの手に渡ってしまうが、
こちらは1000万円を受け取ることができる。
何も得られないよりは遥かにマシなのだ。
第6層ではあの藤原兄弟が奮闘しているそうだが、
一行はそちらへは進まず、先輩たちから紹介された
落とし穴から先へと進めるルートを選択した。
その方が早くリーダーと合流できるだろう、と
先輩たちの優しさが心に沁みる出来事であった。
第7層。いよいよラスボス直前のフロアだ。
ここまで合流を果たせなかったということは、
リーダーはここか次のフロアにいるはずである。
「安土君はここまで1人で来れたんだよね……」
「どんだけ化け物じみてんだか……」
「他に真似できる人なんておらへんやろな」
と、ここで神楽が先輩らしく仕切ってみる。
「さて、敵から見つからないようにしなきゃね
ブタちゃん、エクリプスお願い」
「ブヒ」
味方全体の防御力上昇&エンカウント抑制。
不要な戦闘を避けたい時の常套手段である。
「じゃあ次に亀山さん
みんなにヴェクサシオンをかけてくれる?」
「……は?
何言ってるんですか先輩?
味方の攻撃力を下げてどうするんですか?」
まあ普通はそうなる。
味方にデバフをかけるなど愚行の極み。
……というわけでもない。
「安土がいればエンカ抑制の効果を増幅できるけど、
今はそれができないから、その代わりよ
ほら、魔法攻撃力が下がった状態なら
魔物から感知されにくくなるでしょ?
この先少しでも安全に行きたいのなら、
使えるもんはどんどん使っていきましょ」
「え、何それ知らない」
「聞いたことないわ」
後輩たちから疑われてしまっているが、
まあ、神楽の日頃の行いのせいだろう。
彼女たちにとって神楽はただの変態なのだ。
しかし、完全に信用が無いわけではない。
「ホンマやで
わんこちゃんとカメちゃんは
他んパーティーの事情知らへんようやけど、
ウチらが特殊なだけや
そもそも増幅魔法使える人間少ないもんな
それに慣れてると変に思うかもしれへんが、
エンカ抑制目的で味方に攻撃デバフかけるんは
隠密行動したい時の有効手段なんやで」
「へえ、そうなんだ」
「知らなかったわ……」
猪瀬牡丹の援護射撃により、神楽の案は採用された。
念のため全員のHPとMPを全快させておき、
一行は慎重に周囲を警戒しながら歩き出した。
それから一行は不要な戦闘することなく順調に進む。
隠密作戦が上手く機能しているというのもあるが、
神楽のサイコメトリーで“場の記憶”を読み取ることで
リーダーや残りの冒険者たちがどの方向へ進んだのか
正確に知ることができるというのが大きい。
おかげで第6層以降の地図が存在していなくとも、
彼女たちは迷わずに最短ルートを突き進めたのだ。
そして、ある人物を発見……と言っても、
お目当てのリーダーではなく先行した冒険者たちだ。
難敵であるメタルウォリアーを相手に
雷属性を付与したハルバードで応戦する斎藤将太と、
彼の援護に徹する斎藤満月。
緊急召集に応じてくれた野良冒険者たちの中で
最強候補筆頭の斎藤夫妻である。
「やあ、よくここまで無事に来れたね
安土君ならこの先の玄室で待機してるから、
早く顔を見せて安心させてやるといい」
「安土君が私たちの心配をしてたんですか!?」
「やっぱりツンデレなのよあいつ」
「なんにせよ安土君も無事みたいで何よりやわぁ」
神楽は少し悔しかった。
彼を引き止める役目は自分がやりたかったのに、
知らない人に先を越されてしまったのだ。
まあ自分がモタついたせいで出遅れた自覚はあるし、
どのみちこの人たちの協力が無ければ
この場所まで辿り着けなかったのだろうが……。
「とにかく早く合流しましょう
あいつがおとなしく待ってるかどうか怪しいし」
と提案するが、後輩3人はなぜか足を止め、
なんだか微妙な顔でモジモジとしている。
このためにここまで来たというのに、
今更何を迷うことがあろうか。
「あの、その前にちょっとトイレ……」
「あ、私もです」
「社長室でお茶がぶ飲みしたせいやね」
それに加えて、先程MPを回復させるために
ポーションを飲んだ影響で膀胱に限界が来たのだ。
とりあえず彼女たちの護衛は斎藤夫妻に任せ、
神楽は一足先に安土との合流を果たすことにした。
そして──いた。
金銀宝石を散りばめた悪趣味な着物を身に纏い、
涼しい顔をしながら佇む雅な剣士……
神楽は思わず攻撃を仕掛けそうになった。
「待て、俺だ」
人間の言葉を喋った。
よく似ているが、ラスボスではない。
安土桃之進と同じ衣装を装備しているが、
あれは我らがリーダーの安土桃太郎なのだ。
「紛らわしいのよ!!」
そう、とても紛らわしい。
それは、安土桃之進の姿に感銘を受けた安土桃太郎が
腕利きの職人に作らせた最高性能の超一級品である。
現在神楽が着ている衣装も同時に作られた物であり、
完成したのはつい昨日のことである。
“雅”──安土桃太郎の最終装備が解禁されたのだ。
ギンギラギンに輝くその悪趣味な着物を
500年前の人々はどのように思っていたのだろう?
きっと今の神楽と同じく呆れた顔で見ていたはずだ。
「しかしまあ、あたしの方はまともでよかったわ
その衣装みたいに勝手に光る機能とか付いてたら、
迷わず返品してるとこだったわ……」
「ん……?
いや、勝手に光ったりなんてしてないぞ
これはただの反射だ……あっちを見ろ」
と指差した方向に顔を向けると、
たしかに何かが光っている。
懐中電灯……にしては、やけに眩しい。
そしてそれはブォン、ブォンと音を立てながら
すごい速さでこちらに向かってくるではないか。
「え、ちょっと待って
この音ってまさか……!!」
「マジかよ……」
それは驚く2人の前まで来ると停止し、
前に乗っていたヘルメットの男がギアを操作する間に
後ろに乗っていたヘルメットの女が降車したのだが、
彼女はすぐに正体を明かそうとはしなかった。
どうやら男が乗り物を停めるのを待っていたようで、
その2人は同時にヘルメットを取って素顔を晒した。
「大上……」
「サクラ……!!」
大上隼斗&佐倉香織、自動二輪車にて参上である。
それだけではない。
その2人に続いてまたバイク乗りがやってきたのだ。
それも1台ではなく2台、3台……と、
不安定な地形のダンジョンを乗り物で特攻するという
常識破りな連中が勢揃いしたのだ。
「まったく無茶な作戦思いつくよねぇ、彼は」
生徒会長、金子正数。
「また男のこと考えてる……それでいいのよ金子」
元生徒会長、白鳥飛鳥。
「さ〜て、思いきり暴れさせてもらうとしますかね」
電撃番長、関東アロエ。
そして──
「はいどうも〜
モノクル運送から荷物のお届けで〜す」
「えっ」
「業者さん!?」
関東魔法学園からの援軍5名+運送業者1名が、
最終決戦の開始前に到着したのだ。
このタイミングで彼らと合流を果たせたのは
今周回が初めてである。
これまで何千周と犬飼杏子を救出してきたチームが、
とうとう間に合ったのである……!!
基本情報
氏名:鬼島 神楽 (きじま かぐら)
性別:女
サイズ:AAA
年齢:17歳 (3月30日生まれ)
身長:151cm
体重:44kg
血液型:O型
アルカナ:運命の輪
属性:無
武器:ニルヴァーナ (杖)
防具:ブラックサバス (衣装)
アクセサリー:黒タイツ
能力評価 (7段階)
P:4
S:3
T:3
F:15
C:5
登録魔法
・スーパーノヴァ
・アブソリュートゼロ
・グランドクロス
・サンクチュアリ
・マナストック
未登録魔法
・ステイゴールド
・トリコロール




