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進め!魔法学園2  作者: 木こる
未来を切り拓く意志
74/83

思い出

7月30日。

安土は京都の地を歩いていた。

東京の生まれだが、引っ越してからは

こちらで過ごした時間の方が長い。

だが特に思い入れは無い。

この土地は好きでも嫌いでもない。

他人に自慢したくなるような思い出は何も無い。


安土は元から暗い性格の奴ではあるが、

その日は一段と暗い表情をしていた。

いや、1週間ほど前からそんな感じだった。

神楽に自分の暗い過去を知られてしまった……

というより、彼女がその映像を観てしまったことに

精神的なショックを受けていたのかもしれない。


「あれ、もしかして桃太郎君かい?」


「えっ?」


街中で突然話しかけられ、振り向くとそこには

全く見覚えの無い知らないおっさんが立っていた。


「ああ、やっぱりそうだ!

 久しぶりじゃないか!

 こっちに戻ってきてたんだね!」


「いえ、人違いです」


そう言ってやり過ごそうとするが、

知らないおっさんは素早く進行方向に回り込むと

今にも泣きそうな顔になりながら話を続けた。


「うんうん、わかってるよ

 こんな人通りの多い所じゃ話しにくいよね

 君の消えた記憶についての話題なんて、

 誰かに聞かれたくないもんね」


「消えた記憶……」


そのキーワードには反応せざるを得ない。

安土には約半年間に亘り、頭からすっぽりと

記憶が抜け落ちている時期があったのだ。

それは偶然にも例の映像が撮影された日から始まり、

記憶が再開されたのは5歳の誕生日からであった。

伯父から聞いた話によると、

『心の平穏を保つために自ら嫌な記憶を封印した』

とのことだが、どうにも胡散臭い話だと思っていた。


父親から殺されかけたのはあれが初めてではないし、

母親が死んだ程度でトラウマを抱えるだろうか?

答えは否だ。

あの女は息子を心配するそぶりを見せておきながら、

自分の子供を守るためにするべきことをしなかった。

クズ男と縁を切ればよかったのだ。

それどころかクズ男から聞いた根拠の無い民間療法を

信じて疑わず、率先して息子にアレルゲンを食わせて

救急車を呼ぶという愚行を繰り返していた。


まあ、どちらの親も敵だったのだ。

敵がいなくなったところで悲しむ奴はいない。

よって、母の死が最後の引き金となって

記憶を封印したという説は信じていなかった。


まるで誰かに魔法で記憶を消されたような、

あまりにも不可解な記憶の喪失。

まあ実際そうなのだろう。心当たりがある。

他人の記憶をどうこうできる一族を知っている。


「もしかして、あなたは鬼島神社の方ですか?」


「ああ、そうだよ!

 ……って、思い出したわけじゃないのかい?

 え、あれ……?

 じゃあなんでこんな所に……?」


おっさんは困惑している。




2人は衆目を避けるために場所を移した。

観光街から離れた位置に構えるシケた喫茶店である。

昼時だというのに他に客は誰もおらず、

ここならば込み入った話ができようというものだ。

メロディアスな昭和歌謡のBGMが流れる中、

前髪の生え際が頭頂部より後退している中年男性が

注文を取りにやってくる。

安土はおっさん2人に挟まれて居心地が悪そうだ。


「えっと、じゃあアイスコーヒーで

 ……桃太郎君は何にする?」


「水だけで結構です」


冷やかしだろうか?

店員は露骨に嫌そうな顔をしながら席を離れた。


「さて、鬼島さん

 俺の記憶を消したのはあなたですね?

 その件は今まで特に気にしてこなかったのですが、

 せっかくなので詳しく聞かせてもらいましょう」


「え!?

 記憶を消すだなんて、そんなこと俺には──」


「とぼけても無駄ですよ

 あなたは京都生まれ京都育ちの京都人でありながら

 3年間だけ埼玉に住んでいた時期がある

 関東魔法学園に通うためだ

 当時は国内で唯一の天才教育を施していた機関で、

 特異能力を持つ者のみが通えるとされていた

 そして安土家に伝わる資料によれば、

 鬼島家の血族には記憶に関する能力を持つ者が

 過去に何人か存在したんだとか……」


おっさんは目を泳がせていたが、

しばらくすると観念して白状することにした。


「ああ、たしかに君の記憶を消したのは俺だよ

 あれから10年以上経って京都に戻ってきたのは、

 てっきり何かの拍子で当時の記憶を思い出して、

 再び消してもらうよう頼みに来たのかと……」


「いや、今も昔も忘れたい記憶なんて何も無い

 おそらくあなたは当時の俺の境遇に同情して

 辛い記憶を消してやったつもりなんでしょうが、

 残念ながら俺は悪い出来事も覚えていたい

 いわゆる反面教師というやつだ

 そういう意味なら両親は最高の手本でしたよ」


「昔の君も同じようなことを言っていたよ……

 だけどね、桃太郎君

 記憶の消去を望んだのは君なんだ

 それも悪い思い出を消すためではなく、

 良い思い出を消すためにね……」


「は?

 俺が望んだ……?」






──幼い桃太郎は高級温泉宿・桃之湯での事件後、

経過観察のため数日間の入院生活を余儀無くされた。

それは大半の人間にとって好ましい状況ではないが、

少なくとも彼には安心できる場所であった。


ここには自分を殺そうとする大人ではなく、

命を救おうとしてくれる大人たちがいるのだ。

それに皆アレルギーをちゃんと理解しているので、

毎日安全な食事を提供してくれるのである。


そんなわけで桃太郎は病院が好きだった。

ただし、医者は嫌いだった。


当時はまだ冒険者バッシングを行うカルト集団が

表立って倫理に反する活動をしていた時代であり、

魔法能力者を迫害する者が医師の中にもいたのだ。

というか国内の医療機関を統括する立場の者が

完全にそちら側の人間だったため、魔法能力者たちは

適切な医療行為を受けることができなかった。


義務教育期間が終了する前までならば、

たとえ魔力を持っていようが“普通の人間”として

扱わねばならないという法律が存在していたが、

それを守らない輩も一定数生息していた。


桃太郎は病院でも殺されかけたことがある。

コップの内側に苺ジャムを塗られたのだ。

駆けつけた看護師が適切な処置を施したおかげで

一命を取り留めたが、なぜかその看護師は解雇され、

殺人未遂犯は今ものうのうと医師を続けている。


桃太郎の人間不信が加速したのは言うまでもない。

親ではなく、信頼していた相手から裏切られたのだ。

もう自分以外の何を信じればいいというのか。




1週間後、桃太郎は退院した。

どうやら入院中に諸々の手続きが済んだそうで、

今日から伯父の家で暮らすことになったらしい。

しかし病院まで迎えに来たのは伯父の部下であり、

社長はとても忙しい身分の人なのだと聞かされた。

子供の世話を焼く時間なんて取れないのだろう。


それは都合が良い。


桃太郎は孤独を望んでいた。

周りに誰かがいるだけでストレスなのだ。

他人との関わりを断って生きたかったのだ。


だがそんな桃太郎の願い虚しく、伯父の家には毎日

安土製菓の社員たちが交代でやってきては、

「絵本を読んであげる」だの「一緒に遊ぼう」だのと

ストレスの種を撒き散らしてゆくのだった。


まあ仕方ない。

両親から虐待を受けていた4歳児を

独りにしておくのは可哀想だとでも思ったのだろう。

他ならぬ本人がそれを強く望んでいようと、

まともな大人たちが子供を守ろうと頑張るせいで

善意による悪循環が発生してしまっているのである。




我慢しながら新生活を送っていたある日、

東京の元住所で母が死んだと知らされた。

餓死だそうだ。

金が無かったわけではない。

電気、ガス、水道の料金は滞納しておらず、

ただ食べる物だけが家に無かったのだという。

彼女は誰かに助けを求めるでもなく、

せめて宅配サービスで食料を調達すればよいものを、

それすらせず孤独に死んでいった。


この奇妙な死は“兄に見捨てられたショックで自殺”

として処理されたのだが、現在の安土桃太郎は

サイコメトリーのおかげで本当の原因を知っている。


母は言いつけ通り、ドアを開けなかったのだ。

そして心配した伯父からの電話にも応答せず、

ただひたすらクズ男の帰りを待ち続けたのである。

近所の住民から異臭の通報が殺到したことにより

彼女の死は明るみとなったが、その原因を作った

池澤輝彦はなんのお咎めも受けていない。


まあ、どうでもいい話だ。


血の繋がった他人がどうなろうと自分には関係無い。

クズ女がクズ男の言いなりになって自滅しただけだ。

いずれ池澤輝彦も何かやらかして自滅するのだろう。

クズとはそういう生き物なのだから。




夏休みに入り、桃太郎はようやく独りになれた。

「友達と遊ぶ約束をした」と嘘をついて外出し、

近所の神社でひっそりと過ごすことにしたのだ。


どうもそこは恋愛成就の御利益があると有名であり、

カップルで訪れる観光客も多いそうだ。

ただし人通りが多いのは参道だけであり、

裏手の林は滅多に人が出入りしない楽園なのだ。


監視カメラの位置は覚えた。

小さな体は目立たず忍び込むのにちょうどいい。


こうして桃太郎は安息の地を得たのである。



翌日、桃太郎は再び林に忍び込もうとして

神社の関係者に現場を取り押さえられた。

だが大人ではない。

それは桃太郎とさほど年齢の違わない少女であった。


「確保ーーー!!」


いきなり抱きつかれて困惑する桃太郎をよそに、

おかっぱ頭の少女はいかにも楽しげに笑い、

聞かれてもいないのに自己紹介をする始末だ。


「あたし神楽!

 ここ、あたしん家ね!

 あんた名前は?

 迷子? 家出?」


彼女とは初対面だというのに、

グイグイと来られて戸惑うしかない。

まったくこれだから子供というやつは……

まあ、桃太郎自身も子供なのだが。


「安土桃太郎……

 べつに迷子になったわけでも、

 家出をしたわけでもない……です」


「えっ、“ももたろう”!?

 あんたまさか男の子だったりする!?

 こんな可愛い顔してるのに!?」


彼女はその名前を聞いて大層驚いていた。

まあ勘違いされても仕方ない。

当時の桃太郎は他人と目を合わせるのが嫌で、

わざと髪を長く伸ばして顔全体を覆っていたのだ。

そこに儚げな美少女のような瞳が見え隠れするので、

女の子だと思われても文句は言えなかった。


「おちんちんがついてるなんて信じられない!!

 ちょっと確かめたいからズボン脱いで!!」


「やっ」


「大丈夫、ちょっとだから!!

 ちょっとだけだから!!」


「やだ!!

 やめて!!」


「よいではないか、よいではないか!!」


「いやだ、いやだ!!」


それが鬼島神楽との出会いだった。



すぐに駆けつけた神主によって桃太郎は助けられ、

神楽はこってり絞られて不貞腐れていた。

なぜこうも颯爽と現場に登場できたのかといえば、

鬼島親子が物陰に隠れて待機していたからである。

桃太郎の行動は最初から筒抜けだったのだ。


「うちにはカップルで来る参拝客が多いからね

 人目につかない場所を探したいと思うのは、

 なにも君だけじゃないということさ

 そういう人たちが迷惑なことをしないように

 いっぱい監視カメラを仕掛けてるわけだけど、

 ほとんどは行き先を誘導するためのダミーなんだ

 本物はバレないように、巧妙に設置してあるよ

 まあ君はおとなしく本を読んでるだけだったから

 初回は見逃してあげたけど、さすがに二度目はね」


「あんたはまんまと罠に引っ掛かったってわけ!」


なんとも悔しい敗北だが、悪いのは完全にこちらだ。

立ち入り禁止だとわかっていながら侵入したのだ。

この人たちを恨むのはお門違いというものである。


「ごめんなさい」


悪いことをした時に言うべき言葉だ。

親の口から一度も聞いたことはないが、

幼稚園の先生からそう教わった。

それに、伯父の部下がよく電話越しに

頭を下げながら言っているので間違いないだろう。


「うん、よく言えたね

 もうこんなことをしてはいけないよ

 さて、じゃあ神楽も謝ろうか」


「え、あたしも?

 もう怒られたじゃんあたし」


「罰を受けたかどうかは関係無いの!

 嫌な思いをさせた相手に悪いと感じてるなら、

 ちゃんと言葉にしないと伝わらないでしょ!」


神楽はまた叱られて不服そうだったが、

桃太郎の前まで歩くと素直に頭を下げた。


「おちんちん見ようとしてごめんなさい」


そして頭を上げると同時に下から手を伸ばし、

桃太郎の股間を鷲掴みにしたのだった。


「本当に男の子だ!!」



3人は鬼島親子の自宅へと場所を移し、

今度は神主が深々と土下座する番だ。


「うちの娘が馬鹿でごめんなさい」


「あ、いえ

 どうかお気になさらず

 子供のしたことですから……」


そのとても子供らしからぬ奇妙な言い回しに

若干の違和感を覚えつつも、神主は質問する。


「その、君の顔を一目見てピンと来たんだけど、

 もしかして安土さんの親族だったりするのかな?

 安土製菓の社長さんとは小学校が一緒でね、

 君はその兄妹の若い頃にそっくりなんだ」


「ええ、はい

 僕は安土小梅の息子ですが、

 今は安土桜夜の家で暮らしています」


「えっ、それってどういう……」


「母は死にました」


それから桃太郎は己の置かれている境遇を説明し、

なぜ独りになれる場所を探していたのかを

神主に理解させたのだった。




翌日から本殿を利用してもいいことになった。

本来そこは神が鎮座する神聖な場所であり

一般人の立ち入りは固く禁じられているのだが、

ここ鬼島神社はぶっちゃけノリで作られた神社なので

何かしらの神様が住み着いているとは思えない。

まあ第三者からは神聖な場所だと思われているため、

本殿に忍び込もうなどと考える輩は滅多に現れない。


桃太郎はとうとう本当に安息の地を得たのである。


ただし、条件付きではあるが。


「あーそーぼっ!!」


神楽の遊び相手になってほしいとのことだ。

どうやら彼女は問題児であり、同じ園に通う女子の

スカートをめくる悪戯などを繰り返してきたせいで、

園児はおろか保護者たちからも嫌われているらしい。


そんなふうに女子しか標的にしてこなかった彼女が、

勘違いとはいえ男子の桃太郎に興味を持ったのだ。

これは何か変わろうとしている兆しなのではないかと

考えた両親は、この機を逃したくなかったのだろう。


桃太郎は厄介者を押しつけられたのである。


これでは独りになれないではないか。

何を考えているんだあの人たちは。



賢い桃太郎は、他人から嫌われる方法を知っていた。

それは神楽自身が既に証明しているのだ。


「キャーッ!!」


桃太郎は神楽のスカートをめくった。

死角から、素早く、正確に、それは行われた。

だが、結果は芳しくなかった。


「あんたもやるじゃない!

 もう1回やってみて!

 今度は避けてやるから!」


神楽は楽しんでいた。

スカートをめくられて喜んでいたのだ。


ああ、そうか。

この女は自分がされて楽しいと思えることを

他の人間にもやっているだけなのだ。

そこに悪意は無い。

善意によるセクハラなのだ。


変態の思考を学習した桃太郎であった。




ある日、神楽が箱を持ってやってきた。


なんだろう。

またナメクジがぎっしりと詰まっているのだろうか?

それともカエルの卵……箱一杯のテントウムシ……

あるいはカマキリの卵がぎっしり……考えたくない。


「おみくじしよっ、おみくじ!

 あんたの運勢占ってあげる!

 これうちの神社で売られてるやつ!」


「勝手に持ち出したの?

 あとで怒られるよ」


「うん、持ってきちゃった!

 あとで一緒に怒られよ!」


「やだよ

 完全にとばっちりじゃないか……

 それに僕はくじ運が悪いんだ

 絶対に悪い結果が出ると思う」


「大丈夫だよ!

 うちのおみくじには凶と大凶が入ってないからね!

 お客さんをガッカリさせたくないんだって!」


「それはインチキだよ」


「いいから引いてみて!」


何がいいのかは不明だが、このまま続けても

埒が明かないので結局1枚引いてみることにした。


「ほら、やっぱり」


と、桃太郎は今引いたはずれくじの結果を見せる。

その紙には本当に“はずれ”と書かれていたのだ。


「え、何これ!?

 “はずれ”なんてあり得ない!!

 なんでこんなもんがあんの!?」


ご存じ、おみくじの結果が7種類の場合は

大吉、吉、中吉、小吉、末吉、凶、大凶が一般的で、

“はずれ”などというふざけた運勢は存在しない。

しかもそれは明らかにサインペンで書かれており、

汚い字なので何者かの悪戯だとすぐにわかる。


「きっと近所の悪ガキの仕業ね!!

 商売の邪魔なんかして許せない!!

 絶対に犯人突き止めてやるんだから!!」


神楽は憤りながら、はずれくじを強く握り締めた。



「──えっ?」


気づけばそこは本殿ではなく、

おみくじやお守りを販売しているブースの中だった。

それに時間帯もおかしい。

つい先程まで昼だったのに、夜になっていたのだ。


「え、お姉ちゃん!?

 何これ!?

 どうなってるの!?」


突然の出来事に、桃太郎は混乱するしかなかった。


「あたしもわかんない!!」


そして神楽はもっと混乱していた。

サイコメトリーを発動した張本人だというのに、

魔法を使ったという自覚が無かったのである。


そうやって2人してあたふたしていると、

何者かがブースの中へと入ってきたではないか。

その人物は明かりも点けず、足音を忍ばせながら

ニタニタといやらしい笑みを浮かべて、

おみくじ箱に1枚の紙を入れて掻き混ぜるのだった。


「お姉ちゃんがもう1人いる!?」

「犯人はあたしだった!?」


その直後に2人は現実世界へと戻ったのだが、

どうせ誰かに話しても信じてもらえないと思い、

この件は黙っていようと約束した。


まあ、神楽は叱られたくなかっただけだろうが。




またある日、神楽がお洒落をしてきたことがあった。

おそらく母親のタンスから拝借したのだろう、

本来は首に巻くべきスカーフを腰に巻いていたり、

ぶかぶかのハイヒールのせいで転びそうになるわで、

とても見ていられない酷い出来栄えであった。


が、桃太郎的にはOKだった。

神楽は夏用のストッキングではなく

冬用の黒タイツを着用しており、

そこに何か惹かれるものを感じたのだ。


「ねっ、桃太郎!

 強盗ごっこしよ!

 これ被ってストッキング強盗やるの!」


「違うよお姉ちゃん

 それは黒タイツだよ

 ストッキングとは別物なんだ

 それと、頭に被る物じゃないよ」


「そんなのどっちもでもいいじゃない!

 ほら、桃太郎の分!」


「だめだよお姉ちゃん

 黒タイツは脚に履く物なんだ

 脚に履く物なんだ……

 それに、両方が強盗役だと店員役はどうするのさ?

 奪う者と奪われる者がいないと成立しないよ」


「じゃああたし強盗やる!

 ストッキングをよこせ〜〜〜!!」


「ストッキング強盗だーーー!!」




そんなこんなで楽しい日々は過ぎてゆき、

2人はどんどん仲良くなっていった。


桃太郎はよく笑うようになったし、

神楽と一緒に風呂に入るのを嫌がらなくなった。

髪を切った影響で男らしさを意識し始めたのか、

いつのまにか一人称が『俺』へと変わった。


神楽は相変わらず悪ガキのままだったが、

桃太郎がちょくちょく密告してくれたおかげで

いくつかの悪戯は事前に食い止めることができた。




夏が終わる頃、神主はいつになく真剣な表情で

桃太郎に重大な決断を迫った。


「桃太郎君

 もしよければ、うちの子にならないか?

 実は君の伯父さんとは連絡を取り合っていてね、

 そういう話をこれまで何度もしてきたんだ

 うちは安土家ほどではないけど裕福な方だし、

 家族が1人増えたところで負担にはならない

 それに、子育ての経験があるのが強みだ

 何かトラブルが発生しても対処の仕方を知っている

 その点では安土家に勝っているという自負がある

 ……まあ、決めるのは君だ

 どちらの家を選択しようと君の意見を尊重する

 そういう取り決めを交わしてあるんだ」


桃太郎は即答した。

まるでその話をされることが

事前にわかっていたかのように、

なんの迷いも無くはっきりと答えたのだ。


「申し出はありがたいのですが、お断りします」


「そう、か……

 もし差し支えなければ理由を教えてもらいたい」


すると今度は即答せず、

少し口籠もってから頬を赤らめて答えた。


「あなたの子になってしまったら、

 お姉ちゃんと結婚できなくなる」


なるほど、それならば仕方ない。

神主はそれ以上何も言わなかった。




9月5日。

その日は桃太郎の誕生日の前日だった。

神主は桃太郎から大事な話があると呼び出され、

今度は重大な決断を迫られる番となった。

その場には安土桜夜も同席していたが、

主役はあくまで甥っ子の方である。


「あなたの経歴は調べてあります

 なんでも他人の記憶を消去できるんだとか

 是非その能力を使っていただきたい」


「えっ、いや、なんの話だか……」


「とぼけても無駄ですよ

 証拠は押さえてあります」


と、神主の手に封筒が渡され、

中を見ると何枚かの写真が入っていた。

それは夜の繁華街を写した物であり、

彼が妻ではない女性と歩く姿が映っている。


「あなたはその能力を悪用していますね?」


桃太郎は神主に対して心を許してはいなかった。

というか自分以外全ての人間を信用していない。

彼が善人であることは理解していたが、

きっと裏の顔があるのだろうと疑い、

伯父の部下を使って探りを入れておいたのだ。


ガッカリはしていない。

ああ、やっぱり……という安心感である。


「あなたに消してもらいたいのは、

 この夏、鬼島神社で過ごした日々の記憶です」


神主は冷や汗を垂らしながら答える。


「んっ……?

 いや、何を言ってるんだ

 そうじゃないだろう

 君が忘れるべきは、それ以前の記憶だろう

 残すべきは楽しい記憶……幸せな思い出だろう」


道理だ。

それが正しい選択のはずである。

だが、孤独を望んでいる安土桃太郎にとっては、

他人から見れば間違った選択こそが正しい道なのだ。


「この先歩むことになる長い人生において、

 楽しかった思い出なんて足枷にしかならない

 俺にも幸せな時期があっただなんて思いたくない

 それを覚えているせいでもっと辛くなるはずだ

 だからお願いします、鬼島さん

 俺を1人の人間として認めているのなら、

 大事な息子だと思ってくれているのなら、

 どうかこのわがままを聞き届けてください」


深々と頭を下げる4歳児を前に、

神主はただ黙っていることしかできなかった。



沈黙する2人に代わり、安土桜夜が口を開く。


「鬼島さん

 僕はあなたが羨ましいですよ

 モモ君がわがままを言うのなんて、

 これが初めてですからね

 そしてあなたにはそれができる

 ずっと我慢して生きてきた彼の願いを、

 どうか叶えてあげてやってくれませんか?」


「いや、しかし……

 脅迫されているのだし従うしかないのだろうが、

 記憶の消去が完全に成功するという保証は無い

 1日や2日程度の量なら上手く調整できるが、

 丸1ヶ月分ともなると結果がどうなるかわからない

 下手したら今まで生きてきた全ての記憶を

 忘れ去ってしまう可能性だってある」


「それはそれで好都合じゃないですか

 クソ親との思い出を全部忘れられるんですから

 それに、彼は明日で5歳になります

 これまでの記憶が全て吹き飛んだとしても、

 たった5年の喪失で済むのなら安いものでしょう」


「たった5年って……

 あんたは他人(ひと)の人生をなんだと思ってるんだ!?」


と憤る神主だが、彼は彼で能力を悪用して

他人の人生をちょこちょこと弄んでいるのだ。

このように、許せるラインと許せないラインの

線引きというものは実に難しい問題なのである。


「鬼島さん

 小切手に好きな数字を書いてください」


「あ、はい」


そして、そのラインはいともたやすく変動するのだ。






──場面は現在のシケた喫茶店へと戻る。

時代遅れのシケたBGMが流れる中、

水とコーヒーだけで何時間も粘るシケた客を

シケた風貌の店員が睨んでいる。

どうりで客が来ないわけだ。


さておき、長々と昔話を聞かされた安土は

率直な感想を述べるのであった。


「記憶にございません」


当然だ。

その記憶を消してもらったという話なのだから。

だが、なぜだかそんな記憶が薄っすらとあるような、

やっぱり無いような、なんとも不安な気持ちになる。


「本殿でどんな遊びをしてたかは知らないけど、

 君たちがお互いに好き合っていたのは事実だよ

 なんたって初めての友達同士だったからね

 特別な感情を抱かないはずがない」


「それはそれとして、1つはっきりさせておきたい

 消すのは俺の記憶だけでよかったのに、

 どうして自分の娘の記憶まで消したんですか?

 あなたが余計なことをしなければ、神楽との再会は

 もっと友好的なものになっていたはずです」


すると神主は眉をしかめ、苦笑いしながら答えた。


「いやいや、神楽の記憶は消しちゃいないよ

 あいつはただ単にド忘れしてるだけだろう」


「マジかよ….…」


「我が家から君がいなくなってからは

 『桃太郎以外の男の子とは遊ばない!』

 とか、しばらく言い続けてたんだけどね

 それがいつのまにか君の存在を忘れてしまい、

 男を遠ざけたいという気持ちだけが残った……

 まあ、あいつの男嫌いに拍車がかかったのは

 桃太郎君のせいだろうな」


「親の教育が悪かったんじゃないですかね」


「ははは、言うねえ」


その後も彼らはシケた喫茶店で談笑を続けた。

基本情報

氏名:安土 桃太郎 (あづち ももたろう)

性別:男

年齢:16歳 (9月6日生まれ)

身長:165cm

体重:58kg

血液型:O型

アルカナ:死神

属性:無

武器:首切姫 (妖刀)

防具:阿修羅 (軽鎧)


能力評価 (7段階)

P:9

S:9

T:9

F:8

C:10


登録魔法

・ディスペル

・リフレクト

・マジックアーマー

・ディヴォーション

・ソウルゲイン

・マナストック

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