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進め!魔法学園2  作者: 木こる
未来を切り拓く意志
73/83

観測者

魔物は組み込まれたプログラム通りにしか動かず、

状況に応じてその行動パターンを決定する。

極稀に特例個体(イレギュラー)と呼ばれる者が発生して

通常個体とは違う性質を見せつける場合もあるが、

プログラム通りに動くという原則自体は変わらない。


今回、裏ダンジョンで発見されたラスボスも

原則に従って機械的に行動しているようだが、

その行動パターンに大きな問題があった。


『何が起こるかわからない』魔法を使ってくるのだ。


その効果は完全にランダムとなっており、

どんな結果が訪れるのかは誰にも予測できない。

それと同じ魔法を使用可能な唯一の人間さえも

全容を把握することは不可能だとして諦めており、

よほど追い詰められた局面でもない限りは

使用を解禁しないつもりだそうだ。


“バタフライエフェクト”。

世界のどこかで必ず何かが起こる謎魔法である。


「今回はそれの効果を検証するのが目的だ

 味方の杉田に使ってもらった方が安心できるが、

 全MP消費の大技を連発させるのは忍びない

 そこで、敢えてラスボスに使わせることにした

 魔物ならいくらMPを使おうがバテねえからな」


調査隊の進道千里が本日の活動目標を告げるが、

相手はいつもの鳩中パーティーではなかった。

安土桃太郎と鬼島神楽。

最後に活動を共にしたのはもう3ヶ月以上前になる。

イケ好かないメンズと手を組むのは正直不本意だが、

安全策で行くならば彼らの協力は必須であった。


「安土には例のわけわかんねえ剣術で

 味方のMPを回復し続けてもらう

 わざわざ言うまでもねえが、MPは生命線だ

 特に緊急離脱できる杉田がガス欠になると困る」


「進道さん、勘違いしてますよ

 例の剣術はMPを回復させるのではなく

 自然回復速度を高めるという効果なので、

 回復量は本人の自然回復力に左右されます」


「細けえこたぁいいんだよ

 どのみち回復を補助する技には変わりねえんだろ?

 それに状態異常対策にもなる

 どんな原理でそんなことになんのか知んねえが、

 あらゆる状態異常を治療できるらしいからな」


彼らは“朝焼けの雲”について話している。

こっちもこっちで謎仕様の戦技なのだが、

当の本人は特に気にしていないようだ。


「鬼島にはサンクチュアリを設置してもらう

 他にも回復魔法の使い手はいるが、

 一番魔力が高いのはお前だ

 HPが満タンでも常に張り続けろよ?

 防具のバリア機能が無くなっちまったら、

 おれらの耐久力なんざ一般人と大差ねえからな」


「回復は他の人に任せて、

 あたしがアタッカーになるのはどうですか?」


「いや、検証が目的だって言ってんだろ……

 それに学園ダンジョンのラスボス倒しちまったら

 修行場が消滅して、困るのはお前らだぞ

 おれらもまだ名倉の手掛かりを掴めてねえんだ

 下手なことして今の環境を変えるつもりはねえよ」


「あ、はい……」




一行はテレポートでラスボス部屋まで直行した。

……のだが、早速トラブル発生。

あるべきモノが無いのだ。


そのフロアにいるはずのラスボスがいないのである。


「おい、杉田

 このフィールドの広さは実質無限なんだよな?

 ただおれらの視界から外れてるだけじゃねえか?」


「ううん、違う

 対象の座標はこのフロアに存在してない

 今は……第7層を飛び回ってるみたい

 もちろんテレポートで」


「はああっ!?

 そんなんありかよ!?

 ボスはボスらしく最後の部屋で待ち構えてろよ!!

 とことんセオリー通りにいかねえ奴だな!!」


「お母さんは人間だった頃、

 じっとしてるのが苦手だったからねぇ

 その性格が反映されてるんだと思う

 それで隠し通路を解禁しちゃったもんだから、

 ダンジョン内を自由にうろつけるように……」


「おいおいおい……

 どうすんだ並木?

 間違った多数決の結果がこれだぞ

 その場のノリで封印を解いたせいで、

 いつどこでラスボスと遭遇するかもわかんねえ、

 危なっかしい環境に変わっちまったんだってよ

 この落とし前はどうつけてくれんだよ?」


リーダーは内心やっちまった……と思いつつも、

平静を装いながらその場凌ぎの指示を出すのだった。


「とりあえず第7層の様子を確認しましょう!」




第7層。

ランダムMAPの煩わしさから解放されたはずが、

結局またこのフロアをうろつかねばならない。

そして首尾良くラスボスと遭遇できたとしても、

ランダム効果の魔法を使われるという恐怖。


この場所はもう、かつての裏ダンジョンではない。

否、これが真の姿なのだろう。

攻略難易度が跳ね上がった現在の環境こそが、

関東魔法学園ダンジョンの最終形態なのだ。


「あ……

 私たちが7層に入った途端、

 あちこち飛び回るのをやめたみたい

 今は南西116m先の位置にいるよ」


「結構近いな

 ワープ床を踏まなきゃすぐに会えそうだが……

 まあ、そうすんなりとはいかねえよな」


とにかく警戒を怠ってはならない。

リーダーは全員の防御力強化&エンカウント率低下、

安土はリフレクトでその効果を増幅させた。



そして30mほど進んだ地点でワープ床に引っ掛かる。

地形的に踏まざるを得ない位置に配置されており、

実質一方通行のようなものだ。


ここで1つ疑問が思い浮かぶ。

正攻法で第6層方面からやってきた場合、

第8層へと進めるルートが存在しない。

テレポートで罠を回避しない限り不可能である。

そもそも隠し通路の封印を解除しない限り、

その場所へは辿り着けない作りになっていた。


ここのラスボスは戦う気が無いのか?


「あの、悲報なんだけど……

 最後の1人がワープ床を踏んだタイミングで、

 向こうもワープしちゃったんだよね

 行き先は7層出口……から歩いて8層へ……」


「逃げられたか……

 って、それなら好都合じゃねえか

 杉田のテレポート登録地点がまさにそこだしな」


と、一行はテレポートで第8層に引き返した。

しかし、そこに天城宙の姿は無い。

彼女も同時に第7層へとワープしたからである。



「クソッ!!

 逃げてんじゃねえええ!!」


「どう、どう、落ち着いてセンリ

 本来の目的とは違うけど、一応調査にはなってるよ

 まだサンプル不足で断言はできないけど、

 ユキちゃんママはこっちの特定行動に連動して

 ワープする仕様なんだろうね」


「そうそう、冷静さを見失ってはだめよ

 もしこれが世にも珍しい“逃げ回るラスボス”なら、

 その性質を利用して追い込めばいいだけでしょ」


と簡単そうに言うが、それは不可能に思える。

相手はルール無用のテレポート使いであり、

人間の杉田雪よりも圧倒的に有利な条件で

その力を行使することが可能なのだ。

おそらく全階層の地形を知り尽くしているだろうし、

たとえ飛んだ先に障害物が存在していようと

魔物の肉体ならば致命傷にはならない。

射程が無限ということはどこへでも飛べるはずで、

ダンジョンの外へ逃げるという選択肢もあり得る。

もし首尾良く追いつくことができたとしても、

例のランダム効果の魔法で何が起こるかわからない。

そんな理不尽な相手をどう追い込もうというのか。


「私が思うに、テレポートで第8層に入場すると

 ユキママが第7層に避難しちゃうのよ

 前回は普通に歩いて入場したから対面できた……

 結構有力な仮説なんだけど、どう?」


「どう、と言われてもな……

 まあたしかに今回おれたちが活動開始するまでは、

 奴の座標はボス部屋から動いてなかったそうだ

 杉田のテレポートにしろワープ床にしろ、

 瞬間移動がトリガーになってんのは間違いねえな」


「とにかくもう一度第7層に行ってみようよ!

 そんで、入ったとこのすぐ近くで

 テレポを繰り返して様子を見てみよう!

 上手くいけば向こうから来てくれるかもよ!」



一行は第7層へと引き返し、魔物がいない玄室の中で

何度もテレポートを繰り返してみた。

するとその度に天城宙もテレポートを発動し、

同フロア内を縦横無尽に飛び回る。


100回、200回と繰り返してみるが、

今のところ移動先の座標に規則性を見出せない。

もしかして、それさえもランダムなのではないか?

そう不安になりながらも試行は続けられる。

そしてもう100回テレポートを繰り返した一行は

休憩を挟みつつ、100回、100回と検証を重ねた。


計500回の検証で判明したのは、

第7層の終点でいくら待ち伏せをしたところで

天城宙はやってこないという事実だけであった。

彼女はこちらのテレポートに合わせて

同フロア内を無軌道に飛び回ってはいたのだが、

絶対に冒険者たちには近づこうとしなかった。


「やっぱり避けられてるみてえだな……」

「でもまあ、他のフロアには逃げなかったね」

「ダンジョンの外に漏れる可能性は低い、と」


待ち伏せを諦めた一行はワープ床を踏んでみる。

すると天城宙は当然のように終点へとワープし、

そのまま歩いて第8層へと戻っていったのだ。


その後、第7層で何度テレポートしようが

天城宙の座標はボス部屋から動くことはなかった。


どうやら仮説は正しかったようだ。


「つまり奴と対面するには、

 毎回ワープ床を踏まなきゃなんねえわけだな?

 微妙に面倒な手順まで踏ませやがって……」


「まあ、そしたら終点にテレポすればいいだけだし、

 正攻法で第1層から来るよりかはずっとマシだよね」


「テレポートで引き返すのは危険かもね

 例えばワープ床を踏んだ先で戦闘したとして、

 倒した魔物が終点でリポップしたら

 障害物になっちゃうでしょ?

 もしテレポート先に障害物があった場合、

 それと融合して“モノ人間”になるらしいよ……」


となると、ボス部屋で天城宙と会う手順としては

ワープ床を踏んだ後に歩いて終点付近まで戻り、

移動予定先に障害物が無いことを目視で確認してから

テレポートで罠マスを回避するのが最も安全である。


面倒だからといってこの手順をすっ飛ばせば、

モノ人間になってしまうリスクを抱えることになる。

安全第一を信条とする彼らにその選択肢は無い。






──というわけで5時間後、第7層を1周した一行は

ヘトヘトになりながらも無事終点へと戻ってきた。

しかし残念ながら、ここがゴールではない。

これでようやく本日の目的に取り掛かれるという、

そのスタートラインに立てただけの話である。


一行は30分の休息後、各自装備を確認してから

味方へのバフ撒きと最後の打ち合わせを済ませた。


そして、いざ出陣──!



安土桃太郎は朝焼けの雲を展開!

鬼島神楽はサンクチュアリを展開!


進道千里はアナライズを発動!

しかし、届かなかった!

並木美奈はフリーズを発動!

しかし、届かなかった!

森川早苗はヴェクサシオンを発動!

しかし、届かなかった!


杉田雪は困惑しながら解説を試みる!

「こっちの魔法が相手に届かないのは、

 対象までの距離が無限に設定されてるからだよ」


黒岩真白は困惑しながらツッコむ!

「意味わかんない!!」


天城宙は膨大な量の魔力を解き放った!

本日1回目のバタフライエフェクト!

しかし、何も起こらなかった!



森川早苗は敵に向かって駆け出した!

しかし、いくら走っても全く近づけない!

なんかその場で足踏みしているだけにしか見えない!

「何これランニングマシン!?」


仲間たちは困惑している!

「まさか、無限ループを利用して防御してんのか?」

「ユキちゃんママはすぐそこに見えてるのに……」

「なんでもありね……」


杉田雪はセブンスサインを発動!

無属性の攻撃魔法を敵の座標へと直接ぶち込む!

しかし、天城宙はテレポートで回避!

同じ場所から動いていないように見えるが、

現在の座標情報は書き換えられている!


天城宙は本日2回目のバタフライエフェクトを発動!

その場にいる全ての者が凍結状態になった!


天城宙も凍結している!


「えっ」

「マジ?」

「効くの!?」


味方の凍結状態はすぐに解除された!

安土桃太郎が刀を突き立てたまま凍結したおかげで、

朝焼けの雲による状態異常回復効果が発動したのだ!


反撃のチャンス!

……なのだが、本日の目的はラスボス討伐ではない。


ここでリーダーが挙手して発言。

「はいはい、みんな注目〜!!

 あ、安土君は瞑想続けといてね

 ……どうやらあのラスボスは

 こっちからの攻撃に対しては無敵だけど、

 自分自身の行動が招いた結果は受け入れるみたい

 つまり自滅もあり得る……ってか、

 それ以外に倒す方法が見当たらないのよね」


仲間たちは困惑している。

「逆を言えば、倒し方が見つかったってことだな」

「自滅するまで……“待つ”!!」

「完全に運ゲーじゃん」

「何が起こるかわからないvs何もしない」




仲間たちは困惑しつつも、このボーナスタイムを

無駄にしないために色々と試してみた。


魔法は届かないし、近づこうとしても無理。

それは天城宙が行動不能の状態であっても変わらず、

こちらからの攻撃は通用しない事実を示していた。

きっとフィールド自体がそういう仕組みなのだろう。


杉田雪は第8層内でのテレポートを試みた。

また第7層に逃げられてしまう不安はあったが、

どうやらそれは杞憂に終わってくれたようだ。

あまりにも型破りすぎるラスボスではあれど、

行動不能中に行動するような意地悪はしないらしい。


「今なら座標攻撃が可能だろうけど、

 それやっちゃうと凍結解除しちゃうよね」


「ああ、やめとけ

 あくまで調査が目的で来てんだし、

 奴が身動き取れねえうちに

 なるべく多くの情報を集めておきたいからな

 ……とはいえ、他に何か検証しようにも

 魔法が届かないんじゃあな」


できれば敵のステータスを解析しておきたいが、

無限ループの壁に阻まれてそれは不可能である。

他の魔法も同様に一切通用しないため、

味方全員のMPが満タンであっても何もできない。


ふとリーダーは妙案を思いつき、

鬼島神楽に耳打ちをした。


「神楽ちゃんはサイコメトリーの能力で

 前周の記憶を読み取れるんだったわよね?

 次のバタフライエフェクトで何が起こるのか、

 あなたなら把握できるんじゃない?」


その手があったか、と感心する。

彼女はいつも安全な場所で能力を使用していたため、

ダンジョン内、それも戦闘中にサイコメトリーを

使おうなどと考えたことは一度も無かった。

能力に目覚めてから日が浅い頃は

完全に現実世界から意識が離れてしまっていたが、

最近ではある程度の意識を残すことが可能になり、

ごく短時間のビジョンを観るだけならば

立ったままでも実行できるまでに成長していた。


この瞬間、鬼島神楽はレベルアップして

サイコメトリーを戦闘に応用する術を編み出した。



……のだが。


「あ、あれ?

 おっかしいな……

 あの魔物と戦ってる映像が見つかりません」


味方の荷物から過去の記憶を読み取ろうとするも、

天城宙との戦闘はおろか、第8層にいる光景すら

1件もヒットしなかったのだ。

出てくるのは調査隊の3名が静岡での任務中に

お茶を飲みながらまったり駄弁っている様子や、

港区女子の2名が部屋で遊んでいる風景など、

どう考えても今回の活動とは無縁なものばかりだ。


それもそのはず。

誰も経験していない記憶は存在しないのだから。


「う〜ん、もしかしてアレかしらね?

 ほら、第7層以降はボディーカメラも通信装置も

 映像が乱れて撮影どころじゃなくなるから、

 神楽ちゃんの“過去の映像を観る”能力にも

 なんらかの影響を及ぼしてるのかもね」


「はえ〜、そんなもんですかね?」


そして、この大天才はどこか抜けていた。




それから一行は1時間ほど様子見を続けたが、

これ以上得られるものは特に無いと判断して

今日のところは引き上げることにした。


「ほらユキ、もっと笑って笑って!

 せっかくの親子ツーショットなんだからさ!」


「私のお母さん氷漬けなんだけど……」


とりあえず記念撮影……でもあるが、

調査隊にとっては資料集めの一環である。

動画を残すのが無理ならば静画でも構わない。

そう考えて写真を撮りまくっているのだが、

これがなかなか上手くいかない。


やはり裏ダンジョンの特異な空間が機材に影響し、

撮影した画像はグニャグニャに歪んでいたり、

目に痛いサイケデリックな色調だったりと、

それはそれで芸術的な価値がありそうではあるが、

他者に視覚情報を伝える手段としては不合格だ。


「仕方ない、スケッチで我慢しましょう!」


リーダーの提案でメンバー全員にノートが手渡され、

それぞれ真剣にラスボスの姿を描き込んだ。

大半の者は見た物そのままを模写するが、

特に絵心があるわけではないのでパースが狂い、

どこかしら違和感のある不安定な作品が出来上がる。


そんな中、賞賛を浴びる者が1人現れた。


「へえ、結構上手く描けてんじゃねえか森川」

「そういえば授業中に漫画描いてた時あったよね」

「アニメ調だけど、まあこれを提出しましょう」


「やっ、ちょっと待って!!

 それは恥ずかしいからやめて!!

 描き直す!! すぐに描き直すからぁ!!」


「でも早苗、もう時間無いよ

 そろそろ定時だし、この後の予定どうすんの?」


必死の抵抗虚しく、その少女漫画タッチの作品は

貴重な資料として上層部へ提出されることとなった。


「それに比べて安土よぉ……そりゃなんだ?」

「クスリをやってるとしか思えない」

「前衛芸術と言えなくもないわね」

「写真を撮っただけかもしれないよ?」

「この子には何が見えてるんだろう?」

「ヘタクソが」


酷評の嵐を受けた安土桃太郎は、

二度と調査に協力しないと誓うのだった。

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