裏ダンジョン
「おい、喜べ安土
おれたちの調査期間が延長された
名倉の捜索が続行されることになってな
しかも無期限ときた
例の件、まだ協力してやれるぞ」
「また首切姫を預かってもらえるんですか?」
「いや、それはパスだ
今は裏ダンジョンでの調査に集中したいからな
前にも言ったが、呪いのアイテム抱えながらの
冒険活動は正直きつすぎる」
「そうですか
名倉が見つかるといいですね」
安土桃太郎はそれだけ言い残して、
ミーティングルームから立ち去った。
「本当になんなんだあいつ……クソ野郎が」
後日、修了式を終えた鳩中パーティーの面々は
調査隊からの嬉しいサプライズを受け取った。
新しい防具である。
斬り込み隊の鳩中剣には軽装戦士御用達の“阿修羅”。
安土桃太郎が着ている物と同じ軽鎧である。
リーダー兼防御役の猿渡豪には重鎧の“鉄巨人”。
少年心をくすぐるメカメカしいデザインだ。
短剣使いの高梨りんごには“フラッシュダンス”。
非常に軽量で回避性能に優れる作りをしている。
薙刀使いの柿沼美和子には“花鳥風月”。
和風の得物には和風の装いがよく似合う。
「えっ、本当に貰っちゃっていいんですか!?
しかも無料で!?」
「ああ、こっちで勝手に用意させてもらったが、
いつまでも戦士の鎧のままじゃ不安だったんでな
まあ無事に進級できた祝いだと思ってくれ
もし使い心地が悪かったら遠慮無く申告しろよ
体に合わない状態で使い続けるのは危険だからな」
どうやらアフターサービスも充実しているようだ。
なんと素晴らしい好待遇であろうか。
まあ、それもそのはず。
本来この時期の生徒がダンジョンで活動できる範囲は
第4層までとされているが、その基準を大幅に超えて
彼らを第7層での調査に協力させているのだ。
今までは大先輩たちが全力でフォローしてきたが、
これからはその負担を軽減すべきであり、
自分の面倒は自分で見てもらわねばならない。
彼らはもう仮免のひよっこではない。
正式な免許を取得した冒険者なのだ。
鳩中パーティー+調査隊+協力者の計9名は、
1週間にも満たない短い春休みをフルに利用して
裏ダンジョンでの調査に明け暮れていた。
協力者たちには仕事以外にも大事な予定があるので、
活動限界時間は午後5時までという条件での参加だ。
それだけは絶対に譲れないラインなんだそうで、
その時が来たら強制的に帰還すると取り決めてある。
「北北東、274m先」
第6層まで出番の無かった杉田雪だが、
このフロアでは空間魔法の使い手として大活躍する。
彼女はマークした対象の座標を正確に捕捉できるので
ワープ床を踏んだ仲間がどこへ飛ばされたのか、
瞬時に割り出すことが可能なのである。
これにより難関だった地図作成が飛躍的に簡易化し、
フロア全体の構造を把握できるようになったのだ。
「こりゃあ本当に助かるぜ……
今までは飛ばされた先で仮の地図を描いて、
他のピースと組み合わせるパズルだったからな
信用できる全体図が完成したことなんて、
この1年で10回くらいしかなかったぜ」
ゲーム風に言えば『オートマッピング』だろうか。
ランダムMAP生成されるこの環境において、
最も欲しい能力を彼女は持っているのだ。
道中、ワープ先に魔物溜まりが出来上がっていたので
一行は3班に分かれて戦闘を行なった。
北はタンク猿渡、アタッカー森川と柿沼。
東はタンク黒岩、アタッカー高梨と進道。
西はタンク並木、アタッカー鳩中と杉田。
猿渡は初めてミノタウロスと正面からやり合うので
緊張していたが、新しい鎧の性能を信じて突っ込み、
仲間の盾となる役割を見事に果たす。
森川はミノタウロスを弱体化させた後に、
やけに素早いオークとの一騎討ちに取り掛かる。
柿沼は猿渡に群がるゴブリンの処理に当たった。
黒岩がドラゴンを押さえている間に進道が解析完了。
第6層に出現する個体よりもだいぶ弱いと判明し、
タンクを交代して黒岩がメインアタッカーとなり、
高梨は投げナイフを駆使しながら小物を狩ってゆく。
並木は槌でスケルトンナイトの攻撃を受け止めつつ、
反撃でその頭蓋骨を破壊して着実に総数を減らす。
鳩中はババヤガという老婆のような魔物と対峙し、
接地時と飛行時で行動パターンが変化する特性に
苦しめられながらもなんとか撃破。
杉田はやけに巨大なゴーレムを天井まで打ち上げ、
落下時の自重ダメージで自滅させることに成功。
一行は魔物の群れをやっつけた!
鳩中は肩で息をしながら周囲を見渡し、
激戦を乗り切ったのだと理解して感想を述べる。
「すっげえ……
結構な数との戦闘だったのに、
ほとんど魔法使わずに全滅させちゃったよ」
「まあ、おれらの世代はこういう戦いに慣れてんだ
魔物の流出事件に何度も立ち会ってきたからな
適材適所を意識すれば、こんくらい朝飯前よ」
「すっげえ……」
改めて経験の差を思い知る鳩中であった。
そんな充実した日々はあっという間に過ぎてゆき、
春休み5日目にして事件は起こった。
第7層の中心地点にて、一行は大発見をしたのだ。
「あ、ここ……
隠し通路がある」
「え、おい杉田
それってまさか……」
「うん、次のフロアに繋がってる
気配からして最深層で間違いないよ」
「最深層ってことは、つまり……」
「この先にラスボスがいるんだね!」
「とうとう感動の再会ってわけか……」
裏ダンジョンのラスボス……
それは人間だった頃の名を天城宙と言い、
杉田雪の産みの親にして空間魔法の使い手である。
記録上、この2名以外に使い手は確認されておらず、
世界で最も激レアな親子と言っても過言ではない。
「おおお、ラスボスとのご対面かあ!!」
「いや待て鳩中、ここは慎重になるべきだろう」
「まずは上の人に報告だろうね」
「私たちがいたら足手まといになるかもしれないし」
後輩たちは概ね正しい判断ができている。
「どうするユキ?
お母さんに会ってく?
魔物になっちゃったけど……」
「ううん、やめとく
あの時と同じで座標情報がデタラメなんだよね
下手にいじくったら何が起こるかわからないよ
前回はそれで大変な目に遭ったし、
正しい情報に修正するまで3ヶ月かかったし……」
娘も乗り気ではないようだ。
ちなみに『あの時』というのは、
この第7層を開通させた時のことである。
「ま、引き返すのが正解だわな」
「みんなでドバイ行きも楽しそうだけどね」
大先輩がふと漏らした言葉に後輩たちがざわめく。
「え、今ドバイ行きって言ったか?」
「どういう意味だ……?」
「座標修正とやらに失敗するとそうなるのかな?」
「それはたしかに楽しそうね」
後輩たちが密かに盛り上がる中、
リーダーはある確認をしなければならなかった。
「ユキちゃん
私たちは今までこの地点を何度か通ってるけど、
その時に座標情報の乱れは感じてなかったの?」
「うん、今回が初めてだね
今はたまたまフロアの中心に隠し通路があるけど、
たぶん次に来た時には別の場所へ移動してるはず」
「そっかあ……」
とても悩ましい状況である。
ただでさえランダムで地形が変わる環境だというのに
次のエリアへの入り口までランダム配置となると、
今後また隠し通路を発見できるという保証は無い。
現在は名倉友紀の捜索に全力を尽くしているが、
ラスボスに関する調査も重要任務の1つなのだ。
最深層を解禁することで何か起こるかもしれないが、
現在それを実行できるのは杉田雪しかいない。
魔法能力者は30歳前後でその力を失うとされており、
通例に従うならば、彼女はあと5年ほどで
魔法を使えなくなる可能性が高い。
それまでに最深層を解禁しておかないと、
ラスボスと対峙する機会を永遠に失うかもしれない。
かなり特殊な環境なので確信は持てないものの、
他のダンジョンの最深層は決戦専用のフロアなので
ここも同じ仕様である可能性は大いにある。
ランダムMAP生成される第7層とは違い、
地形や座標が固定されているかもしれないのだ。
『かもしれない』ばかりだが、重要な考察である。
第8層に入ってすぐの地点を登録さえしておけば、
次回からはテレポートで直行できるのだから。
「──と考えてるんだけど、みんなはどう思う?」
リーダー1人では決断できない問題だ。
こういう時には仲間の声を聞くのが大事である。
その結果、進道、杉田、猿渡、高梨の4名が反対し、
黒岩、森川、鳩中、柿沼、並木の5名が賛成したので
4対5の多数決で隠し通路が解禁されることになった。
「これだから民主主義ってやつはよぉ!!」
「どう、どう、落ち着いてセンリ」
「私の独裁でいいならそうするけど?」
いつも多数決が正しいとは限らない。
果たして今回はどちらに転ぶのか……。
──第8層。
ドバイへのワープを期待していた5名には残念だが、
杉田雪は一発で座標情報の修正を成功させたのだ。
前回失敗した経験があるからこその勝利である。
そして幸運にもこの地点の座標は固定されており、
次回からテレポートで直行できるとのことだった。
「ほら、上手くいったでしょ?
時には大胆な選択も必要なわけよ」
「ドヤ顔すんじゃねえよアホ
たまたま成功したからよかったものの、
失敗したらどうなってたかわかったもんじゃねえ」
「まあまあセンリ、お説教はあとにしよ!
せっかく無事にここまで来れたんだし、
ラスボスの御尊顔をチラ見してこうよ!
今日はお土産いっぱいだね!」
進道千里はまだ文句を言いたそうにしていたが、
ここでゴネたところで状況は変わりそうにないので、
渋々ラスボスの待つ最奥部へと向かうことにした。
そして──いた。
天城宙。
杉田雪の母親を媒体にして生み出された魔物。
この裏ダンジョン、ひいては学園ダンジョンの
ラスボスがそこにはいたのだ。
そして、彼女は異様な姿をしていた。
「なんだありゃ……
羽…………だと?」
天城宙は失踪した日の服装で白衣を着ているのだが、
頭から緩やかな曲線を持つ細い触角が伸びており、
背中には虹色に煌めく鮮やかな鱗翅が生えていた。
「まるでニシキオオツバメガみたい……
いいなあ、あの触角……私も欲しい」
「ユキは昆虫好きだもんね
……って、触角かい!!
羽を欲しがるのならばまだしも!!」
このように人間と他の生物が融合した形状の魔物が
観測されたケースは、これが世界初である。
一行は新種のラスボスと遭遇したのだ……!
その初めて目の当たりにする光景に驚かされるが、
目に見えない光景にも注意を向けなければならない。
「おい……
ドーム状の設計なら壁がカーブしてるもんだが、
ここのはほぼ垂直じゃねえか
どこまで壁が続いてるかもわかんねえし、
天井までの高さも計測できねえ……
とにかくやべえほど広いフィールドなのは確かだ」
ダンジョン最深層、決戦フィールドの広さは
ラスボスのステータスによって変化し、
フロアの直径=魔力攻撃の射程と考えられている。
それはつまり、天城宙の攻撃が届く距離が
恐ろしく長いことを意味していた。
「もし私の空間魔法と同じ仕様なら、
理論上の射程は無限にあるんだと思う
私は視界範囲外への座標攻撃なんてしないけどね」
「なっ……!?
そんな情報初めて聞いたぞ!?
先に教えとけよクソッ!!
とにかくチラ見はもう終わりだ!!
おれたちの手に負える相手じゃねえ!!」
魔法のスペシャリストが大慌てする様子から判断し、
リーダーは迅速に仲間たちへの指示を出す。
「ユキちゃんの周りに全員集合!!
今すぐ学園に帰るよ!!」
そして通信装置を確認するが……画面は砂嵐だ。
第7層から常にその状態だが、会話なら可能である。
「OKOKOKOKOKOKOKOK!?!?」
『……K……K…………OKO……O…………』
酷いノイズ混じりで全部は聞き取れないが、
どうやら帰還地点の安全は確保できているようだ。
「それじゃあユキちゃ──」
テレポート直前にそれは起こった。
天城宙が膨大な量の魔力を解き放ったのだ……!!
…………。
……。
しかし、味方に被害は出ていない。
誰一人としてダメージを受けてはいなかった。
「え、今のはなんだったんだ……?」
「ただ光っただけ……なわけがねえよな?」
「デバフかけられた感じはしないし……」
「でも何かしたのは確実よね?」
と困惑中に、天城宙が再び膨大な魔力を解き放つ!
すると今度は本気で洒落にならない効果が発動した!
「げえっ!!
MP全部持っていきやがった!!」
「どうすんのこれ!?
やばいよやばいよマジでやばいよ!?」
「ポーション!!
とにかくユキちゃんポーション飲んで!!」
と次の瞬間、またもや膨大な魔力が解き放たれる!
「あ、MP回復……全快した!?
ユキ!!
今がチャンス!!」
「テレポート!!!」
こうして一行はラスボスから逃げ切ることができた。
──彼らは無事学園に帰還できたものの、
あの場所で何が起きたのかわからずに困惑していた。
天城宙が取った謎の魔法行動……。
1回目は何も起こらず、2回目は全員のMPが0になり、
3回目は逆に全員のMPがMAXまで回復したのだ。
魔物が人類に対してMP回復を行うなど前代未聞だ。
例えばマジックアーマー状態で魔力攻撃を喰らえば
MPを回復することは可能だが、それとは訳が違う。
考えれば考えるほどわけがわからない。
ただし、1人だけはなんとなく察しがついていた。
彼女もまた天城宙と同じく空間魔法の使い手であり、
同じ効果の魔法を使用することができるのだから。
「あのね、私が登録してる魔法の中に
“バタフライエフェクト”ってのがあるんだけど、
その効果は『何が起こるかわからない』んだよね
たぶんお母さんはその魔法を使ったんだと思う」
一同は絶句するしかなかった。
ようやくランダムMAPから解放されたかと思えば、
完全にランダムな効果の魔法を使用するラスボスが
ダンジョンの最奥部で待ち受けているという事実。
まったく何もかもが常識を覆すふざけた環境である。
基本情報
氏名:並木 美奈 (なみき みな)
性別:女
サイズ:D
年齢:25歳 (6月9日生まれ)
身長:164cm
体重:57kg
血液型:O型
アルカナ:女教皇
属性:氷
武器:女子力(物理) (槌)
防具:ブルーローズ (衣装)
アクセサリー:星型の髪飾り
アクセサリー:調査隊員バッジ
能力評価 (7段階)
P:7
S:6
T:10
F:4
C:8
登録魔法
・魔女の一撃
・アイスストーム
・アブソリュートゼロ
・フローズンレイ
・フロストスパイク
・フリーズ
・マジックシールド
・マジックアーマー
・エクリプス
・ヴェクサシオン
・リフレクト
・ディスペル
・ヒール
・サンクチュアリ
・マナストック




