狂い出す歯車
3学期になり、全校生徒に通達があった。
それは大半の生徒にとってはあまり重要ではない、
単なる連絡事項の1つでしかなかった。
だが興味を示した者もいる。
真剣に冒険活動に取り組んでいる者たちだ。
「おいおい、マジかよ
もうすぐ調査隊の人たち引き上げちゃうのかよ
せっかく大先輩たちが近くにいたってのに、
俺たちなんにも教えてもらってねえよ!」
「まあ仕方ないだろ、鳩中
あの人たちは任務でここに来てたわけだし、
余裕のある時は安土に付きっきりだったからな
俺たちのような凡人に構うだけ時間の無駄なんだ」
「私たちもプロの戦いを間近で見てみたかったよねぇ
特にリーダーの進道さんのファイヤーストーム!
ビデオで観たことあるけど、ありゃ完全に別格だよ
普通のバージョンはただ火炎放射するだけだけど、
進道さんのは螺旋ビームって感じなんだよね」
「あら、リーダーは並木さんよ?
秩父防衛戦の最終決戦メンバーに抜擢されて
そこでもリーダーを務めたそうだし、
彼女は相当な切れ者なのでしょうね」
そういう先輩冒険者の話題で盛り上がれる事実こそ、
彼らが優秀な冒険者の卵であることを物語っていた。
まあ学業成績はとても褒められたものではないが、
ひとたび現場に出てしまえばそれは問題ではない。
冒険者に必要なのは魔物と戦うための力だけである。
後日、鳩中は昼食中の進道氏に話しかけてみた。
「あの、飯食ってるとこすいません
俺は1年1組の鳩中って者なんですが……」
「ん、ああ、鳩中剣か
お前んとこのパーティーも頑張ってるそうだな
最近のひよっこにしちゃあ、いい線行ってるぜ」
「えっ、俺のこと知ってるんですか!?
光栄です! ありがとうございます!
さすがは進道さんです!
俺たちのような凡人にも目をかけてくれるなんて、
嬉しさのあまり涙が出てきちゃいそうですよ!」
「まあまあ、おべっかはそのへんにしとけ
つうか知ってるも何も、半年くらい前に顔合わせて
少しだけ会話したことがあんだろうよ
そんで、おれになんの用だ?
悪りいがあんまり時間は取れねえぞ
あと3分でこのラーメンを食い終わらなきゃ、
今後の予定に響いちまうからな……」
「あ、はい!
俺たちも裏ダンジョンに行かせてください!
まだまだレベル不足なのは重々承知してますが、
この機会を逃したら次はいつになるかわからないし
もしかしたら一生行けないかもしれません!
それに今のメンバーと一緒という保証は無いし、
試せるうちに試してみたいことがあるんです!」
「ん、つまり……
お前は友人たちとの思い出作りをしたいがために、
仮免冒険者には分不相応だとわかっていながら
死ぬ危険がある場所へ仲間を連れていきたいのか?
もう少しマシな奴だと思ってたんだがな……」
「そうゆうことになっちゃいますが、
無限ループ区間を利用した実験ができるのは
今しかないと思ってます!」
「実験だと……?」
翌日、鳩中パーティーは進道氏に呼び出され、
ダンジョン前に集合した。
そこには進道氏だけでなく黒岩氏と並木氏もおり、
3人共しっかりと装備を整えていることから
願いは聞き届けられたのだと察する。
「おれは反対したんだがな……
多数決の結果、お前らを連れていくことになった
まあこれが民主主義の欠点だ、よく覚えとけよ」
「そこまで心配しなくても大丈夫だよ、センリ!
あたしたちがついてるんだし、問題無いって!
今日もいつもみたいに何も起きないはずだよ!」
「あ〜あ、フラグ立てちゃった
はてさて、誰が最初の犠牲者になるのかな〜……
やっぱやめとくなら今のうちだけど、どうする?」
並木氏は意地悪そうな笑みを浮かべながら
4人のひよっこたちを見定めた。
すると彼らは強張った表情で背筋をピンと伸ばし、
脅しには屈しないという意志を表明する。
まあ、その態度こそ脅しが効いている証拠なのだが。
一行は第1〜3層を素通りして第4層へと到達。
途中でコボルト4匹の群れとの戦闘があったものの、
鳩中パーティーの4人がそれぞれ1匹ずつ相手をして
特に苦戦することなく撃破。
彼らがさすがにこの程度のザコに手こずるような
レベルではないことに、調査隊の3人は安心した。
第4層にて柿沼美和子がエクリプスを発動。
防御力上昇の効果だが、魔物から発見されにくくなる
という副作用があり不要な戦闘を避けるのに役立つ。
尚、基本的に鳩中パーティーが使ってもいい魔法は
その1つだけとなっている。
未熟な彼らよりベテランが魔法を使う方が効率良く、
今後の計画に備えて余計な消耗は避けねばならない。
もし万が一調査隊3人のMPが尽きてしまった場合、
鳩中パーティーのMPが重要になってくる。
MPを奪ったり与えたりする魔法……ソウルゲイン。
それが存在するからこそ機能する役割がある。
鳩中たちは調査隊にとっての“MPタンク”なのだ。
「そういや安土もソウルゲインの使い手でよぉ
こっそりあいつのMPを吸ってみたら、
仕返しでそれ以上のMPを奪ってきやがった
戦技主体の戦闘スタイルでMP余ってんだから、
ちょっとくらい分けてくれてもいいじゃねえか……
こちとら魔法使いだぞ、わかってんのか?」
「それってセンリが悪いよねぇ
相手の許可得ずにやらかしたんだし、
反撃されて当然だと思う」
「あの不毛な争いは笑えたわね
ソウルゲインの発動にもMP使用するし、
天使の取り分があるから100%還元できないわで
ダンジョン出る頃にはお互いすっからかんに……」
「へえ、安土にも負けず嫌いな一面があったんだな」
「クールな奴だが熱くなる時もある、と……」
「誰だって勝手にMP吸われたら怒るんじゃない?」
「なんにせよ敵に回したらいけない人ね」
第5〜6層は鳩中たちにとって未知の領域であり、
出現する魔物はどれも初見の相手ばかりだった。
『あの敵には自分ならどう対処しよう』
などとシミュレーションする間も無く、
調査隊トリオがいとも簡単に蹴散らしてゆく。
彼らは強敵ドラゴンでさえも秒殺してしまうので、
このフロアは難易度が低いと錯覚してしまうほどだ。
そして第7層。一行は目的のフロアへと到着した。
だが本格的に進軍する前に最終確認が行われる。
「さて、事前にも知らせておいたが、
こっから先は本当に危険だからもう一度言うぞ
裏ダンジョンは出入りする度にMAPの構造が
まるっきり変わっちまう性質を持ってるんだ
いわゆるランダムMAP生成ってやつだな
ハクスラ系のゲームでは定番のシステムだが、
それを現実世界でやられると厄介極まりない」
「前回作成した地図が全然役に立たないんだよねぇ
だからって地図を描かなくていいわけじゃなくて、
ワープ床の位置を正確に把握しとかないと
何度もフロア内を飛ばされまくって大変なんよ」
「そのせいで初回の探索は地獄だったらしいわ
私たちの上司が現役だった頃の話なんだけど、
迷子になった仲間たちと合流するために
3日間もフロア内を駆けずり回ったそうで、
一度補給のために学園へ帰還してみたら
そいつらがビール飲んで待ってたっていうね……
まあ、もしも君たちがワープ床を踏んじゃったら、
絶対に飛ばされた先で待機しててちょうだいね
魔物から逃げなきゃいけない状況なら仕方ないけど
取り乱してあちこち動き回られると後続が困るのよ
でもまあ、ましろに先頭を歩かせるから、
君たちがどこかに飛ばされる可能性は低いけどね」
改めて裏ダンジョンの怖さを心に留め、
一行は気を引き締めて先へと進む。
そして最初の通路であっけなく目的のモノを発見。
肩透かしもいいところだが、これは幸運なことだ。
鳩中たちはこの場所へ戦いに来たのではない。
ある実験を行うためにやってきたのだ。
「おっ、おいみんな後ろを見ろ!!」
「前を歩いてるはずの黒岩さんがいるぞ!?」
「こりゃ怪奇現象だね!!」
「とにかく無事に辿り着けて何よりだわ!」
無限ループ区間。
その名の通り永遠に終わらないゾーンであり、
A点からB点に進むとA点に戻される仕様だ。
どうやらこの仕掛けは通路にしか存在しないようで、
何分か歩き続ければ自然と罠に気づくことできる。
それにA方向へ引き返せば無事に脱出できるので、
無駄足を踏まされて気分が萎える以外に
デメリットが無い、比較的安全な仕掛けである。
「よし、そんじゃ早速やるぞ!!」
鳩中は荷物の中からロープを取り出し、
端っこを猿渡に握らせてその場に立たせた。
そして鳩中はロープを持ちB点に向かって進み出す。
危険なゾーンでないとはいえ、ダンジョンでは
何が起こるかわからないので念のため護衛付きだ。
数秒後、A方向からやってきた鳩中は
自身の持っているロープを猿渡に手渡し、
ピンと張った状態にして結ばせた。
「これでよし……っと!
おい猿渡、仕上げといこうや」
「おう!」
猿渡はゆっくりとロープを持つ手を離した。
すると……
「うおお……よっしゃあああ!!!」
「実験成功だ!!」
「どうなってんのこれ!?」
「とても不思議なことが起こってるのは確かね……」
歓喜する4人の目の前にはロープがある。
それはなんの変哲もないただのロープではあるが、
今この瞬間、ただのロープではなくなったのだ。
それは誰が支えているでもなく、
空中に1本の線を描いているのである。
ロープが宙に浮いている。
まさに怪奇現象だ。
「ほう、そうきたか……
おれはてっきり失敗するもんだと思ってたが、
現物を見せられちゃあ受け入れるしかねえな
しかし、本当にどうなってんだこれ……???」
調査隊トリオは困惑しながらその現象を眺め、
上から力を加えた場合どうなるかを試してみた。
するとロープはその圧力によってたわんだものの、
手を離すと元の形へと戻るではないか。弾力である。
「おそらくA点とB点の繋ぎ目が支点なんだろうな」
「それがどこにあるのかがわかればいいんだが……」
「始点と終点がはっきりすればねえ……」
「なんにせよ、これは大発見よね!」
「お前ら全員物理のテストで赤点取ってる癖に、
なかなか科学的な好奇心が旺盛じゃねえか
少なくともおれたちには思いつかなかったぞ」
「あたしとセンリも毎回赤点取ってたけどね」
「私は3回だけよ
……物理ではね」
先輩たちの学力も大したことないという事実を知り、
鳩中たちは少し安心感を覚えるのだった。
とりあえず一行は他の場所でも試そうと思い立ち、
ロープを回収して通路から引き返した。
予備のロープは用意してあるが、それを残しておくと
ダンジョンに変な影響を与えないかが心配だったので
念のため回収しておくことにしたのだ。
そして2箇所目、3箇所目でも怪奇現象を確認し、
全く同じ結果を得られたので彼らは満足していた。
だがその後、アクシデントが発生する。
柿沼美和子がつまづきそうになり、よろめいた先が
よりにもよってワープ床という不幸な事故が
起きてしまったのである。
ちなみにジャンプで飛び越えようとしても無駄で、
そのマスに入った瞬間に転送される仕様だ。
「か、カッキーーー!!!」
「待って!!
私たちが先に合流する!!
あんたたちは30秒後についてきて!!」
調査隊トリオがワープ床を踏み、その場から消えた。
そして30秒……永遠にも思える30秒が訪れる。
なぜ待たなければならないのか?
まあ、ワープ先に魔物がいるかもしれないからだ。
ひよっこの自分たちの力が通用するはずもなく、
現場に同席すれば足手まといになりかねない。
今はただ信じて待つしかないのである。
そしてきっちり30秒後、鳩中たちはワープした。
柿沼美和子は無事であった。
調査隊トリオもダメージを受けた様子は無い。
仲間が全員無事で何よりである。
続いて地面に転がるデカブツが視界に入る。
それは鳩中たちが初めて生で見るミノタウロス……
その特例個体の死体であった。
「まあ、今回のは対処しやすい相手だったぜ
通常のミノタウロスには炎が通じねえが、
この個体は炎属性が弱点だったからな」
そう言う進道氏は余裕の笑みを浮かべており、
ボロボロに泣いている鳩中を落ち着かせるため
一旦休憩することを提案したのだ。
「仲間思いなのは結構だが、あんまり泣くなよ?
脱水症状になられても困るからな
とりあえずお前ら全員一口だけ水飲んどけ
これからしばらく彷徨うことになる」
「目指すは第7層の入り口なんだけど、
10分で着く時もあれば8時間かかる時もあるんよ
これがランダムMAP生成の怖さってやつだね
でもフロア全体の広さは変わらないみたいだし、
いつかはゴールに辿り着けるから安心してね」
「今日はすんなり帰れると思いかけてたけど、
やっぱりそう上手くはいかないもんねえ
まあ、なんにせよ……ようこそ裏ダンジョンへ!」
改めて恐ろしい場所である。
それから予告通り、一行はしばらく彷徨った。
道中で分裂するスライム、剣を投げてくるコボルト、
自分の尻尾を追いかけて回り続けるキラーウルフ、
泥のように柔らかいストーンナイトなど、
妙な魔物を退治しながらゴールを目指して突き進む。
一風変わった魔物たちに恐れをなす鳩中たちだが、
調査隊トリオは余裕綽々といった雰囲気で
次々と初見の敵を屠ってゆく。
「なんかいつもと違うな……
今日の敵はやけに弱っちいのばっかだ
全然歯応えがねえっつうか……」
「もしかしてアレだったりして!
プレイヤーのレベルに応じて敵も強くなるやつ!
それならこの状況の説明がつくよ!」
「つくづく変わった環境よねえ
ま、理由がなんであれ難易度が下がるなら良し!
あの子たちを連れてきて正解ね!
今日は新発見の連続だったし、もしかしたら
撤退命令が取り消されて学園に残れるかもね!」
だが残念。
このやり取りは何千回も繰り返されており、
調査隊が学園に残った周回は存在しないのだ。
彼らは3学期の終了と共に次の任務先へと向かう。
それがこのルートに定められた運命であった。
……これまでは。
帰還を目指す調査隊は敵の弱さを確信し、
これなら自分たちだけで頑張る必要は無いと判断して
鳩中たちにも活躍の場を与えることにした。
鳩中には斬り込み隊として動いてもらい、
戦技だけで倒せる相手ならばそのまま倒して良し。
無理そうなら防御に徹する、という指示を出した。
前衛が活躍するほど後衛の手が空くので、
そのぶんMPの消耗を抑えられるため重要な役割だ。
猿渡はサブの防御役として最後尾を歩き、
背後からの奇襲に備えさせた。
又、彼は味方の攻撃力を強化できるので、
そのためにMPを使ってもよいとした。
同じ理由で柿沼美和子には防御バフ、
名倉には攻撃デバフ、高梨りんごには防御デバフ、と
それぞれの支援系補助魔法を解禁したのである。
果たしてその作戦は見事に上手く噛み合い、
ベテランたちが手を貸さなくても、彼らの力だけで
ほとんどの魔物を処理することができたのだ。
もちろん彼らには無理そうな敵が相手の場合は
調査隊が加勢したが、それでも快挙である。
役割分担の徹底。
パーティープレイの基本である。
その基本に忠実であれば、仮免のひよっこたちでも
裏ダンジョンで戦うことは可能なのだ。
その事実が証明できたのは非常に大きい。
──6時間後、彼らはようやくゴールに辿り着いた。
否、第7層の入り口なので本当のゴールではないが、
とりあえず死の危険がある領域からは抜け出せた。
あとは無事に学園へ帰還するのが最後の仕事である。
「さて、こっからはまたMP節約の時間だ
バフは柿沼のエクリプスだけで突っ切るぞ
もし敵に囲まれた場合は、攻撃力を下げるために
ヴェクサシオンを使うのも許可する
まあどっちの魔法も並木が使用可能とはいえ、
おれらのMPはなるべく攻撃用に残しておきたい
そんじゃあお前ら、準備はいいな?」
全員準備OK。
色々と収穫のあった一行は今日の冒険を──
「ん……あれ?
ちょっと待ってください進道さん
俺らの中に攻撃デバフの使い手はいませんよ?
そういう状況の時は並木さんがどうにかするって、
事前に打ち合わせてあったじゃないですか」
「んっ…………
お、おう そうだった、そうだった
おれは一体何を言ってんだろうな
きっと疲れてるんだ、今の指示は忘れてくれ
今度焼肉奢ってやるから忘れろ……いいな?」
「えっ、マジっすか!?
是非ゴチになります!!
みんな、進道さんが焼肉奢ってくれるってよ!!」
「さすがは大先輩だぜ!!」
「いよっ、太っ腹!!」
「楽しみにしてます!」
「ふう、やれやれ……」
食欲旺盛な若者たちに焼肉を奢る約束をしてしまい、
困り顔をしながらもどこか楽しげな進道氏であった。
基本情報
氏名:黒岩 真白 (くろいわ ましろ)
性別:女
サイズ:I
年齢:24歳 (3月14日生まれ)
身長:144cm
体重:69kg
血液型:A型
アルカナ:戦車
属性:雷
武器:ニューレジェンド (片手剣)
防具:クロスロード2 (盾)
防具:ピンクドルフィン (衣装)
アクセサリー:アー君キーホルダー
アクセサリー:調査隊員バッジ
能力評価 (7段階)
P:10
S:8
T:5
F:7
C:5
登録魔法
・キュア
・アポカリプス
・ラスオブゴッド
・ディヴォーション
未登録魔法
・デウスエクスマキナ




