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進め!魔法学園2  作者: 木こる
未来を切り拓く意志
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ボーイミーツガール

それは金子(かねこ)正数(まさかず)が入学した直後の出来事であった。

まだ本格的な戦闘訓練が始まる前の時期であり、

放課後を持て余していた彼は、学園の敷地を歩き回り

どこにどんな施設があるのかを覚えようとしていた。

学園案内アプリを利用すればわざわざ現地まで

足を運ばなくてもよいのだが、それは主義に反する。


彼は迷子になるのが好きなのだ。

少々変わった趣味ではあるが、知らない駅で下車して

線路から遠く離れた位置まで移動した後、

そこをスタート地点として家まで帰るという遊びを

昔からよくやっていた。

そのおかげなのか彼は方向感覚に優れており、

初見の場所でもどこにどんな施設があるのかを

なんとなく予測できるまでになっていた。

ある意味、彼は探索のスペシャリストなのである。


さておき、芸術棟の裏を歩いていると

女子生徒が1人、何かを撮影しているではないか。

三つ編みのおさげ髪に丸眼鏡の組み合わせであり、

ステレオタイプに当てはめれば古き良き文学少女、

図書委員、学級委員など、真面目な性格の優等生を

連想させる風貌をしていた。

青いリボンタイなので、彼女は2年生の先輩だ。


「何を撮ってるんですか?」


「しっ!

 そのまま動かないで!」


注意されてしまった。

とりあえず彼女がスマホを向けている先を

見上げると、木の枝にリスがいるではないか。

しかも2匹ときた。実に微笑ましい光景である。


「あいつら交尾するわ」


「えっ」


「しかも雄同士よ」


「ええっ!?」


そんなまさか、と疑いながらリスを観察してみると、

なんと彼女が予告した通りの展開になったのだ。

困惑する金子に対して彼女は補足する。


「ご覧の通り、ホモは人間だけの特権じゃないの

 動物界にも同性愛が存在する……というより、

 これが本来あるべき自然の姿なのよ」


「へえ、全然知りませんでした

 先輩は動物の観察が趣味なんですか?」


「いいえ、私の趣味はホモの観察よ」


「そうですか

 では、僕は失礼しますね」


金子は速やかにその場から立ち去った。

すると速やかに先輩が後をついてきた。


「ちょ、なんでついてくるんですか!?

 ホモリスの観察を続けてればいいでしょう!?」


「ホモ人間の観察の方が楽しいから」


「いやいやいや、僕は違いますよ!?

 いくらナヨナヨした見た目だからって、

 勝手に決めつけないでください!!

 僕はノンケです!!」


「彼女いる?」


「いません」


「じゃあホモだ」


「違います!!

 初対面だというのに、なんて失礼な先輩だ!!

 そんなことばかり言ってると嫌われますよ!?」


「まあ、そうでしょうね

 でも私のセンサーに狂いは無いわ

 あなた最近、男絡みのイザコザを体験してるでしょ

 そしてその件を未だに引きずって悩んでる……

 隠そうったって無駄よ

 だって男のことを考えてる男の顔をしているもの」


「ええぇ、なんだこの人……

 たしかにイザコザはあったけども……

 未だに引きずって悩んでるけども……」


「さあほら、お姉さんに話してごらんなさい

 悩みは打ち明けるためにあるのよ

 あなたはスッキリするし、私は満足できる

 まさに一石二鳥だわ」


「僕は変な人に目をつけられてしまった」






──中学1年の春、僕は(たち)君と出会いました。

彼は笑顔の似合う男子……と言っても、子供らしい

無邪気な笑顔というわけではなく、なんというか、

マダムを魅了するダンディーな笑顔の持ち主でした。

男らしさとは程遠い僕からすれば羨ましい限りでも、

彼は自分自身を『老け顔』と評して悩んでいました。


「もっと自分に自信を持って舘君!

 君はとっても男らしくて素敵じゃないか!

 僕は、そんな君の笑顔が大好きだよ!」


そして僕たちは友達になりました。



舘君は気が利く方で、一緒に遊びに出かけた帰りに

僕が飲み終えたジュースの空き缶を回収しては、

自分のバッグに仕舞うことがよくありました。


「あはは、いつもごめんね

 今度から僕もゴミ袋持ち歩こうかなぁ」


「いや、いいっていいって!

 俺はこう見えて片付けとか得意なんだ

 これくらい大した労力じゃないし、

 是非やらせてくれよ」


「う〜ん、君がそう言うのなら……

 あ、ゴミ箱発見!

 ……って、捨てないの?」


「いや、まあ……

 ここらへんは人通りが多いからな

 今俺がこの空き缶を捨てちゃったら、

 そのぶんゴミ箱のスペースが無くなるだろ?

 そうするとあとでゴミを捨てたい人たちが困る

 俺ん家の近くにちょうどいいゴミ箱があるからさ、

 この空き缶はそっちに捨てることにするよ」


「ふ〜ん、そうなんだ

 それにしても、そこまで考えてるなんて

 やっぱり舘君は偉いよ!」


「へへっ、そうだろ?」



舘君は顔だけでなく体も男らしかったです。

元から背の高かった彼は成長期ブーストで更に伸び、

日毎にたくましくなってゆくのがわかりました。

まさに男の中の男といった感じで、僕の憧れでした。


「いいなあ、君にはそんなに筋肉があって

 僕も毎日腕立て伏せとかしてるんだけど、

 全然太くならないのが悩みなんだよねぇ」


「べつにお前は今のままでいいだろ

 余計な贅肉が付いてるわけじゃないんだし、

 そのお上品な顔でムキムキになられても怖いぞ?」


「え〜、そうかなあ?

 ところでちょっと腕を触ってみたいんだけど」


「えっ!?

 お、おう是非触れよ!

 俺の鍛え上げられた上腕二頭筋をな!」


「うわあ……すっごく硬い

 それにぶっといし、なんだか熱いね

 やっぱり同じ男としてこういうのに憧れちゃうよ」


「へへっ、そうかそうか……

 せっかくだし大胸筋も触ってみるか?

 あと腹筋とか大腿筋とか大臀筋とか……」


「だいでんきん?

 それってどこの筋肉?」


「ケツだ」


「あはは、お尻か〜!

 いやいや、そこはやめとくよ」


「そう、か……」



舘君と2人で海に行ったことがあります。

やっぱり彼は夏が似合う男で、小麦色に焼けた肌と

ブーメランパンツの組み合わせが映えていました。


「うわ、それってサーフボード!?

 舘君はサーフィンもできるんだね!?」


「あ、いや

 これは海の家でレンタルしてきたやつで、

 サーフィンなんてやったことないぜ」


「そうなんだ

 じゃあ今日がデビュー初日なんだね!」


「まあ、そういうことになるな

 とりあえず早速練習だ

 金子、ボードの上でうつ伏せになってくれ」


「うん……って、僕が?」


「まあいいからいいから」


「う〜ん……?」


僕は言われた通りボードの上でうつ伏せになり、

そのままの体勢で指示を待ちました。

でも10秒くらい待っても何も無かったので、

こちらから指示を仰いだのです。


「それで、次は?」


「……」


「ねえ、舘君!

 この後どうすればいいの!?」


すると次の瞬間、全身にずっしりとした重みを感じ、

舘君が覆い被さってきたのだと理解しました。


「やっ、舘君やめて!!

 重い重い!! 潰れちゃうよ!!

 洒落にならないって!!」


「へへっ、固いこと言うなよ

 俺とお前の仲じゃねえか……

 それともお前が上になるか?」


「二人乗りは危険だよ!!」


その後すぐに監視員さんがやってきて、

『そういうことはやめろ』ときつく注意されました。

急にのしかかられてちょっと怖かったけど、

舘君のお茶目な一面を知ることができました。



冬になり、舘君から登山に誘われたことがあります。

でも僕は寒いのが苦手だし、山に興味が無かったので

それが実現することはありませんでした。


「そういや雪山で遭難した時ってよう、

 裸になって肌と肌を擦り合わせるといいらしいぜ」


「ああ、聞いたことあるね

 でも基本的には服を着たまま密着した方がいいよ

 服がビショビショに濡れてる場合は別だけど、

 とにかく低体温症になるのを防ぐのが第一だね

 肌の露出は凍傷を招くから極力避けるべきだ

 どうしても裸にならざるを得ない状況ってのは、

 本当に最後の最後……追い詰められてる時だよ」


「へえ、そうだったのか

 じゃあその時に備えて練習しとこうぜ」


「えっ、ん……?

 何が『じゃあ』なの?

 僕は登山なんてしないって言ったよね?

 それに、なんで舘君は制服を脱いでるのかな?

 今は冬だよ? 寒いからやめなよ」


「まあいいからいいから」


「よくないよ

 それに、今は授業中だよ?

 私語は慎むべきじゃないかな?」


「じゃあ休み時間ならいいんだな!?」


「何が『じゃあ』なの!?

 全然よくないよ!!

 最後の最後を想定した練習なんてしたくない!!

 僕は寒いの苦手だって言ってるでしょ!?」


舘君は即座に教室から追い出され、

僕は事なきを得ました。

彼はどうしても僕を冬の登山に誘いたかったようで、

翌年も翌々年も同じやり取りが繰り返されました。



そんなこんなであっという間に月日は過ぎ去り、

気づけば僕たちは卒業を迎えようとしていました。

魔法能力者であると判明した僕は関東魔法学園へ、

一般人である舘君は地元の男子校へと進学。

歩む道は違えど、僕たちの友情は永遠に変わらない。

そう思っていたのですが……


「なあ、金子……

 お前は俺のことどう思ってる?」


「え、どうって聞かれても……

 舘君は僕の大事な友達だよ」


「友達、か……

 それはずっとそうなのか?

 このまま、俺たちは一生友達のまま……」


「もちろんさ!

 僕たちはこれからも友達だよ!

 高校が違っても、それは変わらないよ!

 決まってるじゃないか!」


「はは、そうか…………」


舘君はなんだかナーバスになっていました。

思い返せば彼には僕以外の友達がいなかったので、

新しい環境で上手くやれるか不安だったのでしょう。

ちなみにその時点で彼の背丈は180cm以上あり、

筋肉ムキムキだったので、他の子たちからすれば

ちょっと怖い存在だったんだと思います。

優しくて面白い奴なのに、友達が少なかったのは

大柄な外見が与える威圧感が原因なんでしょうね。


「なあ金子、もう1つ聞かせてくれ

 もし仮にお前が女に生まれていたとしたら、

 俺たちは友達以上の関係になれたと思うか?

 その……お前は俺を“男”として見たのか?」


「えっ、僕が女だったら?

 う〜ん、そうだなぁ……」


変な質問だなあと思いつつ、僕は真剣に考えました。

もし僕が女で、ダンディースマイルの似合う男が

ある日突然目の前に現れたとしたら……


「うん

 間違いなく惚れると思う

 だって舘君は男らしくて優しいし面白いし、

 何より素敵な笑顔を持っているからね!」


すると舘君はボロボロと大粒の涙を溢しながら、

「チクショウ!!」と叫んで走り去っていきました。






「──それから彼とは一言も会話してません

 きっと僕の発言に何か原因があったんでしょうが、

 いくら考えても答えがわからないんですよね

 おそらく彼は男子校という女子のいない環境に、

 何かしらの不満があったのだと思われますが……」


「不満なんてあるわけないじゃないの

 舘君はホモなのよ

 彼にとって男子校は楽園に決まってるじゃない

 そしてあなたは無自覚なホモホイホイよ」


「先輩はまたそういうこと言う……

 僕にも舘君にも失礼ですよ!」


「まあいいからいいから

 とりあえず今すぐ舘君に電話するべきね

 彼との関係を修復したいのならそうしなさい

 すれ違ったまま自然消滅なんて嫌でしょう?」


「それはたしかに嫌ですけど……今ですか?

 電話が繋がったとしても何を話せばいいのか……

 それに、僕は彼に謝るつもりはありませんよ

 悪いことを言った覚えはありませんので」


「ええ、あなたが謝る必要は無いわ

 向こうが謝ってくるからね

 舘君はあなたからのアプローチについ嬉しくなり、

 復縁のチャンスを逃すまいと必死になるはず

 きっと『友達のままでもいい』と言うでしょうね」


「いや、友達やめたわけじゃないんですが……

 まあいいでしょう、彼に電話してみます」


僕は私用のスマホで舘君の番号に掛けた。

まあ、出ないだろう。

あの出来事があったのはつい先週──


『金子!!

 俺が悪かった!!

 あの時は急に変なこと言い出して本当にすまん!!

 お前とは一生友達のままでもいい!!

 だから、どうか俺を捨てないでくれ!!

 俺にはお前しかいないんだ!!』


「え、ええぇ……舘君?

 僕は君を捨てたりなんてしないよ

 大事な友達だって言ったじゃないか

 その気持ちは今でも変わらないんだけど……?」


『……っ!?

 そ、そうか……っ!!

 よし、そうかそうか!!

 俺を許してくれるんだな!?

 俺たちはやり直せるってことなんだな!?』


「ああ、うん……

 今度またどこか遊びに行こうね

 でもすぐには無理かも……その、僕も新しい環境で

 まだ色々と慣れてないことが多くて……

 あのさ、今はちょっと忙しいからもう切るね」


『ああ、また2人で──』


舘君が何か言いかけていたのは承知しつつも、

僕は急いで通話を終了した。

なぜそうしたのかはわからない。

よくわからないが、なんとなく怖くなったのだ。


先輩は満足そうな笑みを浮かべて僕を見つめている。

この人は舘君の顔も知らないはずなのに、

僕の話を少し聞いただけで彼の言動を言い当てた。

それに悩みを打ち明けたことで僕はスッキリしたし、

それどころか舘君と仲直りまでできたのだ。


この先輩は只者ではない。

どうやら僕はすごい人と出会ってしまったらしい。


「私は白鳥(しらとり)飛鳥(あすか)

 ようこそ関東魔法学園へ!」

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