回る歯車たち
5月になり、新たな訓練メニューが開始された。
対人戦闘訓練……魔法学園式スポーツチャンバラだ。
かつては素手による直接打撃などが認められていたが
数年前に実施されたルール改定により、
現在ではそういった危険行為は全面禁止されている。
生徒たちは安全な素材で出来た競技用武器を装備し、
対戦相手の着ている競技用スーツに有効打を与えて
ポイントを奪い合うことになる。
あるいは対戦相手に魔法ダメージを与えて、
仮想ライフを0にすれば勝利となる。
「というわけで、これが競技用ソードだ
他にもダガー、ポール、ロッドが存在するが、
リーチが違うだけで素材はどれも同じだ
本気で叩いてもそんなに痛くないから安心しろ
バラエティー番組のハリセン程度の威力だからな」
と落合訓練官から説明を受けるも、
半分ほどの生徒が首を傾げて考え込んでいる。
『ハリセン』がなんなのか、わからないのである。
「ああ、これがジェネレーションギャップか
俺も歳を取ったな……
まあいい、誰か試したい奴はいるか?」
「はい!!」
元気良く挙手する男子生徒が1人。
行動派の鳩中剣らしい選択だ。
「よし、じゃあ鳩中を叩きたい奴はいるか?」
「「「 はい!! 」」」
30人中20人ほどが一斉に挙手し、
まるでコントのような流れに一同は爆笑する。
イケメン安土はその空気に飲み込まれず、
クールな表情で窓の外を眺めていた。
ともあれ、叩き役は沼田という男子に決まった。
彼は1組で最も背が高く、最も重たい生徒であった。
いかにもなパワー系キャラから見下ろされ、
スピード系キャラの鳩中は震え上がるしかない。
「やっ、ちょっ、チェンジ!!
先生!! 他の人でお願いします!!
ってか、俺が叩く役やりたかったんですけど!?
そのつもりで立候補したんですけど!?」
「チェンジは無しだ
これは道具の安全性を証明するための余興だからな
腕力のある奴に実演してもらうのが一番だ
それにさっきも言った通り、
思ったよりは痛くないから安心しろ」
「痛いことは痛いんですね!?」
「ああ、痛いことは痛い」
青褪める鳩中の背後で沼田はポキポキと指を鳴らし、
首や肩を回したり、アキレス腱を伸ばしたりと、
入念に準備をして熱意の高さをアピールする。
「なあ沼っち、ちょっとは手加減して──」
バシイィィィン!!!
強烈な衝撃音が発生し、同級生たちは目を丸くする。
鳩中は沼田が放った渾身の一撃を顔面で受け止め、
くしゃみが出そうで出ない時の表情になっていた。
「……鳩中、そんなに痛くなかっただろ?」
「はい」
「思ったよりは痛くなかったよな?」
「はい」
「でも痛いことは痛い」
「はい」
そのやり取りで同級生の誰かが吹き出し、
他の者たちも釣られて笑い出す。
イケメン安土はクールに窓の外を眺めていた。
「ちなみに実際の試合では、
顔を攻撃しても得点にならないからな
ちゃんと競技用スーツを狙うんだぞ」
「それを先に言ってくださいよおおお!!!」
そしてまた爆笑の渦が巻き起こる。
イケメン安土は……もういいか。
後日、鳩中はダンジョンに潜ろうとしていた。
だが入学して間もない彼が1人で活動できる範囲は
せいぜい第1層が限度であり、正直魔物が弱すぎて
冒険した気にはなれないのがオチだ。
そんな時はパーティーを組むのがセオリーであり、
鳩中も例に漏れず関所へと足を運び、
同じく仲間募集中の生徒を探そうとした。
が、関所に到着するなり問題発生。
何やら女子同士で揉めているようだ。
「いちご!!
ここまで来て引き返すとか、そりゃないって!!」
「知らないよ!!
私はあんたの仲間じゃない!!
こっちの都合も考えずに勝手なことしないで!!」
「あんたの都合って何さ!?
どうせ大上君のストーカーするだけでしょ!?
そんなキモいことしてるよりダンジョンでしょ!!
せっかく魔法学園に入ったんだしさあ!!」
「私はキモくない!!
キモいのはりんごの方だよ!!
双子トリック使って私のふりして、
勝手にメンバー登録するとかさあ!!
そんなにダンジョンに行きたいのなら、
1人で行けばいいじゃん!!
そっちの都合に私を巻き込むのやめてくれる!?」
「都合、都合って……うるさいな!!
1人じゃ不安だからあんたを誘ったんだよ!!
双子なんだからいいじゃん!!」
「よくない!!
私とあんたは別人!!
ただ顔が同じだけの別人でしょうが!!
セット扱いされるのはもうウンザリなの!!」
揉めているのは高梨姉妹……
本人が口にした通り、双子キャラである。
そしてまた本人が口にした通り同じ顔をしており、
“リンゴみたいな髪型をしているのがいちご”、
“イチゴみたいな髪型をしているのがりんご”という、
ややこしい見分け方で判断するしかない。
盗み聞きをしたわけではないが、
大声で口喧嘩していたため経緯は把握できた。
りんごが悪い。いちごはキモい。
大体こんな感じで合っているだろう。
気づけば高梨姉妹の周りには人だかりが出来ており、
関所の職員たちは仲裁のタイミングを見計らいながら
ヒートアップする2人を温かく見守っていた。
「大体いちごはさあ!!
そんなに私と同じ見た目なのが嫌なら
髪染めるとかピアスするとか、
いっそ丸坊主にでもすりゃいいじゃん!!」
「りんごも同じ色に染めたことあるじゃん!!
まるで示し合わせたかのように!!
同じ日に、同じ美容院で、違う時間に!!
美容師さん絶対ビックリしたよ!!
ピアスは嫌!! 丸坊主なんて誰がするか!!
私はロングにして差別化を図ろうとしてんの!!」
「美容師さんの態度が変だったのはそのせいか!!
ってか、私もロングにしようとしてんだけど!!
じゃあそっちがショートにすりゃ解決じゃん!!」
「それだとりんごが嫌ってるこの髪型ができない!!
そっちが諦めてショートにしなよ!!
あんたのその髪型はイチゴというより、
パイナップルみたいなんだしさあ!!」
「パッ……!?
それを言うなら、あんたの頭はスイカだよ!!
ちなみに私だってショートにする気はないね!!
いちごが嫌ってるこの髪型ができなくなるから!!
どうせスイカ頭のあんたが諦めな!!」
「パイン・アップル!!」
「ウォーターメロン!!」
高梨姉妹は同時に振り返り、
それぞれの方向へと歩き出した。
どうやら口喧嘩が終わったらしい。
鳩中はすかさず高梨りんごに話しかけた。
「なあなあ、俺とパーティー組まねえ?
こっちもソロで困ってんだけど」
「今の流れでよく私に声掛けられるな!?
その心意気や良し!! 組んでやる!!」
仲間1人GET。
鳩中は観衆の中から大柄な男子を発見した。
彼とは今までに3回冒険活動をこなした仲であり、
ゴツい風貌だが悪人ではないことをよく知っている。
「お〜い、猿渡!
お前もメンバー募集中か?
だったら俺たちと一緒に組もうぜ!」
「いや、今は遠慮したいというか……」
「そんな、遠慮すんなって!
むしろ組んでもらわなきゃ困る!
パイナポゥは今日が初めてのダンジョンらしいし、
経験者は多い方が心強いだろ?」
「パイナポゥ言うな」
「それはそうかもしれないが、う〜む……
まあ、高梨さんがそれでいいなら……」
「よっしゃ、決まりだな!」
2人目GET。
とりあえず3人になった彼らは入場手続きをするべく
登録用紙を受け取って記入していた。
すると、すぐ隣には1人で記入作業をしている
鳩中好みの女子の姿があるではないか。
これはナンパするしかない。
「やあやあ、お嬢さん
見たところソロでダンジョンに潜るようだけど、
もしよかったら俺たちと一緒に組んでみないか?
こっちは経験者2人いるし、その方が安全だぜ?」
「えっ、いいの?
実は1人で上手くやれるか内心不安だったの
せっかく誘われたのだし、断る理由は無いわ」
「うっし!!」
こうして柿沼美和子が仲間に加わり、
鳩中パーティーが結成されたのだ。
ちなみにリーダーは猿渡豪である。
「……あいつの行動力すごいな」
「ああ、今を生きてるって感じだ」
後日、再びパーティープレイをこなした彼らは
戦闘レポートをまとめながら雑談していた。
「そういや俺、安土と戦うことになったんだけどさ
あいつって攻撃魔法は習得してないよな?
それなら純粋に剣と剣の勝負になるわけだ
使うのはスポンジ剣だからパワーは無関係だし、
スピードvsテクニックの構図になるだろうな
初心者の俺が技術力で上回るのは到底無理だが、
持ち前の直感と行動力を活かせれば勝機はある」
「それに対して俺たちはどう答えればいいんだよ
お前の中で自己解決してるじゃねえか……」
「あ〜、それでなんか最近業者が出入りしてるんだ?
安土君の噂は他校にまで届いてるらしいからね
イケメン目当てで来るお客さん多そうだし」
「私あの人嫌い」
そして1週間後、その日はやってきた。
控え室にて鳩中はストレッチで体をほぐしながら、
仲間たちからの声援を背中で受け止める。
「頑張れよ、鳩中!」
「ヒットアンドアウェイを徹底すりゃいける!」
「心は熱く、頭は冷静に!」
鳩中は振り返り、フッと笑いながら答えた。
「1分以内に終わらせてくるぜ!」
会場には予想通り……否、予想以上に大勢の観客が
押し寄せており、そのほとんどが女性であった。
至る所で“桃太郎LOVE”のうちわやプラカード、
横断幕などが乱立し、試合が行われるのではなく、
まるでアイドルのライブが始まるかのようだった。
鳩中は会場に充満する激しい熱気に当てられ、
観客席の女性たちに向かって大きく手を振りながら
満面の笑みを浮かべて堂々と入場を果たした。
「鳩中、あいつ……!」
「お前目当ての客じゃないのに……!」
「悲しいピエロだわ……!」
そしていざ試合が始まると鳩中は剣士の顔になり、
自身の最強必殺技であるダッシュ斬りを仕掛けた。
まっすぐ行ってスパッと斬る。
非常に安直な技名だが、こういうのが実戦では強い。
シンプルイズベストとも言うだろう。
事実、鳩中の先制攻撃は効果があった。
それは安土の無防備な右肩にクリーンヒットし、
試合開始直後に2ポイント奪うことに成功したのだ。
だが、鳩中はその状況を喜ばなかった。
安土が無防備だったのは、決して対戦相手を
見下していたからではなかったのだから。
危険を感じた鳩中は後方へ飛び退こうとするが、
安土の反撃に阻まれて離脱は叶わなかった。
安土流剣術奥義・暴れ大蛇。
低い姿勢から繰り出される、移動しながらの乱舞技。
スタミナが続く限り攻撃することが可能であり、
緩急をつけた曲線的な動きが敵を惑わせる。
人間相手の戦いでは特に有効。
乱舞中に強攻撃入力で蠍突きへと繋げられる。
バシ、バシ、バシと死角から連続攻撃を受け、
鳩中のポイントがみるみる削られてゆく。
技の射程から脱出しようにも安土に先回りされ、
しかも体勢が低いのでこちらの攻撃を当てづらい。
あまりにも一方的な展開となってしまった。
が、鳩中は諦めずに反撃を試みる。
『心は熱く、頭は冷静に』だ。
鳩中は目の前の何も無い空間を一点注視し、
そこに敵が入り込んだ瞬間を狙って
反射神経による迎撃を行おうと考えたのだ。
そして──来た!
鳩中の剣が空を切る。
……が、本当に空を切ってしまった。
目の前に安土が見えているというのに、
鳩中の攻撃は敵の体をすり抜けていったのだ。
(しまった、残像か……!?)
安土流剣術奥義・空蝉。
その場に残像を作り出して緊急離脱する回避技。
敵の空振りを誘って戦局を操りたい時などに有効。
やはり人間相手の戦いで真価を発揮し、
一瞬とはいえイケメンが2人に増えるので
ギャラリーにとっては二度おいしい技である。
ちなみに上方向に離脱した場合は
通常の跳躍よりも高い位置へ移動することが可能で、
強攻撃入力で流れ星へと派生することができる。
(くそっ、本物はどこへ行った……!?)
鳩中は素早く前後左右を見回すが、
安土の姿はどこにも見えない。
乱舞攻撃が止まったのはありがたいが、
ものすごく嫌な予感がしてならない。
「鳩中、上だ!!」
だが時既に遅し。
鳩中は斜めに降ってきたイケメンからの攻撃を受け、
着地時に発生した衝撃波に吹き飛ばされてダウン。
そしてこれが決め手となり、試合は終了した。
「勝者──安土桃太郎!!」
会場全体がビリビリと揺れるほどの大歓声が上がる。
番狂わせなど起きず、大方の予想通り安土の勝利。
しかもイケメンが派手に動き回ってくれたのだ。
ファンたちが大喜びしたのは言うまでもない。
完敗してしまった鳩中は控え室へと戻り、
残念そうな表情をしている仲間たちに笑顔で告げた。
「な?
1分以内に終わっただろ?」
「鳩中、お前……!」
「嘘は言ってないけども……!」
「なんて悲しい有言実行なの……!」
全力で今を生きる男。
それが鳩中剣だ。




