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進め!魔法学園2  作者: 木こる
未来を切り拓く意志
61/84

麻雀回

それは4月の出来事。

同級生の安土桃太郎はイケ好かないメンズであり、

ほとんどの女子はそのイケメンの虜になっていた。

安土以外の男子はアウトオブ眼中。

そんな風潮が入学直後の時点で既に完成していた。


だが、他の男子たちはただの背景ではない。

彼らにもちゃんと命があり、自我があり、

それぞれの人生を歩んでいる人間なのだ。

ただイケメン安土の陰に隠れてしまい、

日の目を見る機会が与えられなかっただけである。



ここに嶋田という名のモブがいる。

彼は他の生徒よりもかなり早い段階で

自分が魔法能力者であると自覚し、

魔力を制御する方法を独学で習得してきた。

これが標準的な男子中学生であれば

攻撃魔法の練習に勤しむのが普通だが、

捻くれ者の彼は魔力の流れを操る術を学び、

補助魔法の使い手として成長していったのだ。


一口に補助魔法といっても、

回復、強化、弱体、その他、と様々な種類があり、

彼が得意としているのは“その他”である。

“その他”の中にも様々な種類が存在するのだが、

彼のそれは非常にマイナーな魔法技術であり、

どう足掻いても戦闘で必要となる場面が無いので、

魔法学園では教えてくれないスキルの1つだった。


引き寄せ(ドロー)”。

正真正銘のゴミ魔法だ。

何か使い道がありそうな印象を与える名前だが、

この魔法で引き寄せられるのは魔力残滓……

役目を終えた魔法の残りカスだけである。

魔力残滓については長年研究が続けられてきたが、

それを有効利用する方法は未だに発見されていない。


だが戦闘では使い道が無いというだけで、

それ以外の場面では少しだけ役に立つこともある。


例えばイカサマをしたい時だ。



「おい高木

 例のアレ、完成したぞ」


「おっ、マジか!

 早速試してみようぜ!」


カーテンを閉め切った空き教室にて、

嶋田は黒革カバンのファスナーを開け、

中から高さ3cm弱の直方体を取り出す。

それは特に変わった所など見当たらない、

なんの変哲もない麻雀牌であった。


しかし……


「おおっ!!

 指に牌が吸い付いた!!

 それが例の細工をした牌なんだな!?」


「シーッ!

 声抑えろ高木!

 誰かに聞かれたら計画がオジャンだぞ!」


「あ、ああ悪い悪い

 ……しっかし、よく思いついたよな〜

 牌に魔力残滓を閉じ込めておいて、

 ドローで引き寄せるなんて方法」


「ドローはゴミ魔法なんて言われちゃいるが、

 要は使い方次第ってわけよ

 洗牌の段階で特定の牌を確保しときゃあ、

 有利な状態でゲームを始められるだろ?

 おかげで高確率で早く和了れるって寸法だ」


「その高確率ってのがいいんだよな

 絶対に勝てるわけじゃないし、負けることもある

 だからこそ他の連中はイカサマに気づきにくい」


「へへっ、わかってるじゃねえか

 さすが高木、俺の目に狂いは無かったぜ

 この手の話が通じる奴だと思ったんだ」


「きひひひ!

 類は友を呼ぶってやつだな!

 俺も嶋田を一目見てビビッと来たぜ!」


クズとクズは引かれ合うのだ。


「んで、カモはどいつにすんべ?

 まあ1人は確定済みだけどな」


「ああ、大上隼斗は絶対に外せないよな

 あいつは魔力を持ってないパンピーだし、

 魔法を使ったイカサマを見破るのは不可能だ」


「なんでそんな奴が魔法学園なんかに来たんだか……

 ホントわけわかんない奴だよなあ

 ま、どうせすぐ辞めるんだろうけどさ」



それから2人はしばらく話し合い、

ようやくカモ2号の名前が出てくる。


「……安土桃太郎なんていいかもな」


「えっ、あいつかよ!?

 やめといた方がよくね?

 なんか只者じゃないオーラ漂わせてるし、

 そもそも参加してくれるかどうか……」


「まあ、ダメ元で誘うだけ誘ってみようぜ

 万が一ってこともあるからな」


「どうしてよりによって安土なんだよ?

 嶋田もリスクの高さは承知してるだろ?

 あいつは現時点で5個も魔法を使えるんだぜ?

 ドローイカサマがバレちまわないか?」


「そこなんだよ高木君、

 俺が安土に目星を付けたのは……

 奴は現時点で5個も魔法を登録しちゃいるが、

 その中に解析魔法(アナライズ)は含まれていない!

 つまり、俺たちの魔力の流れを読み取れない!

 よって、ドローイカサマがバレることはない!」


「おお、なるほど!

 それなら安心だ!」


「あのスカした野郎に一泡吹かせてやろうぜ!」


「きひひひ!

 面白くなってきたぜ!」




2人は男子寮に向かい、大上隼斗の部屋を訪ねた。


「やあ、大上君

 俺は1組の嶋田っていうんだけど、

 実は今、麻雀できる奴を探してるんだよね

 ルール知ってる?

 もしあれならルールブック貸すよ?」


「ん、麻雀か……

 まあルールなら知ってる

 でもこれから自主練するところなんだ

 せっかく誘ってもらったのに申し訳ないけど、

 今回は遠慮させてもらうとするよ」


「ああ、気にしないで!

 また今度、時間がある時に!」


フラれてしまったが、収穫はあった。

嶋田は高木に目で合図を送り、

何日か大上を尾行して観察せよと命じた。

無論、自主練のスケジュールを把握するためだ。



続いて嶋田は安土の部屋へと向かった。


「や、やあ安土君

 突然お邪魔して悪いね

 実は今、麻雀できる奴を探してるんだけど、

 安土君はルールとか知ってるかな?

 もしあれなら俺が教えるけど……」


「麻雀のルールは知ってる

 何を賭けるんだ?」


「えっ、賭け!?」


安土の口から予想外の言葉が飛び出し、

驚きを隠せない嶋田であった。

まあ賭けについてはあとで教えるつもりだったが、

今話しても問題ではないと判断し、説明した。


「あはは、安土君は鋭いなあ

 実は食券を賭けた勝負なんてどうかなと思ってね

 最下位の人は1位の人に3ヶ月分、

 3位の人は2位の人に1ヶ月分奢るって予定なんだ」


「ふむ、食券か……

 いいだろう、俺も参加する

 面子は揃ってるのか?」


嶋田はまたしても驚かされる。

なんと、あの安土があっさりと承諾したのだ。

こいつはクールなキザメンを気取っちゃいるが、

タダ飯の魅力には逆らえないのだと思うと

少しだけ親近感が湧いてくる。


「いやあ、実はあと1人揃ってないんだよね

 でも大上君もルール知ってるそうだから、

 できれば彼を誘おうとは思ってるよ

 勝負は1週間後くらいになるかもしれないけど、

 それでもいいかな?」


「ああ、問題無い

 日程が決まったら知らせてくれ」


「うん、楽しみにしててよ!」


難航するかと思われた安土の勧誘だが、

無事に目的を達成することができて何よりだ。

これは幸先が良い。この計画は上手くいく。

あとはカモたちから食券を巻き上げるだけだ。






──そして、勝負の日がやってきた。

しかもカモの勧誘からわずか3日後の出来事である。

その日が日曜日だったのも関係あるのかもしれない。

が、そんなことはどうでもいい。

勝負が実現した。その事実が重要である。



東家:嶋田貴文

南家:安土桃太郎

西家:高木了

北家:大上隼斗



嶋田は計画通り魔力残滓を仕込んだ牌を確保し、

七対子の完成まであと3つという形になった。

好調な出だしである。

ちなみに彼はゴミ魔法ドローを極めた男なので

魔力残滓の種類を選別し、狙った牌だけを

自身の手元に引き寄せることができる。

戦闘の役には立たないが、高等技術には違いない。


高木の役目は、嶋田を1位に押し上げることである。

アナライズを使用して相方の手牌を読み取り、

欲しがっている牌を振り込めばいいのだ。

カモの動きを観察して安牌を知らせる役割もある。

そして、和了れそうな時はそのまま和了ってもよい。

とにかく最下位にならなければそれでいい。

もし3位のペナルティーを支払ったとしても、

相方が1位であれば収支はプラスになる。

コンビの取り分は山分け。そういう約束なのだから。



1巡目


嶋田、白を捨てる。

安土、一筒を捨てて立直宣言。

「って、早えよ!!」

「どんだけ運が良いんだお前!?」

高木、六萬を捨てる。

大上、七筒を捨てて立直宣言。

「お前もかよ!?」

「奇跡が起きてんぞ!!」



2巡目


嶋田、發を捨てる。

安土、「ロン!」

「嘘だろおおお!?」

「しかも国士かよおおお!!」


「……って、オイ!!

 こんなの絶対おかしいって!!

 いくらなんでも、いきなり国士はないだろ!!

 安土、さてはお前…………イカサマしたな!?」


「イカサマ?

 一体なんのことだ?

 言い掛かりはやめてくれ

 いきなり俺が国士無双したっていいだろう

 今回はたまたま運が良かっただけだ」


「そんなわけあるか!!

 俺は認めねえ!!

 こんなの絶対あり得ねえ!!」


ここで大上が静かに立ち上がり、

興奮状態の嶋田に言い聞かせた。


「絶対あり得ないとは言い切れないだろう

 その確率は少なからず存在してるんだ

 確率が存在する以上、それはいつか必ず起こり得る

 麻雀は運が絡むゲームだと理解してるよな?

 だから、こんなことも起こってしまうんだ」


大上は手牌を指で撫でるようにして

カタタタタン、と倒して手の内を見せる。


国士無双十三面待ち──聴牌。

今回は頭ハネルールだったため、

安土の和了が認められたのである。


「お、おまっ、お前もかあああ!!!」

「こいつもイカサマしてやがんぞ!!!」


だが、それは通らない。

その確率は存在しているのだ。

2人同時に国士無双という展開もあり得るのだ。

いやはや、麻雀とは実に奥深いゲームである。


「イカサマ、イカサマと君たちは言うが……

 安土が一体どんなイカサマをしたと言うんだ?

 “見抜けないイカサマはイカサマじゃない”

 というのが俺の中での麻雀のルールなんだが、

 そのへんをはっきりさせておきたい

 もう一度訊こう、

 安土が一体どんなイカサマをしたと言うんだ?」


「どんな、ってそりゃあ──」


嶋田は言いかけるが、直前で踏み止まる。



ここで安土のイカサマをバラしてしまったら、

それは自分自身のイカサマを白状することになる。

ゴミ魔法ドローを悪用した配牌の操作。

そのイカサマが白日の下に晒されてしまえば、

今後一生そのイカサマを使えなくなってしまう!



ゲームが再開され、嶋田から安土に親が回る。


「立直!」

「初手で立直とかあり得ねえよ!!」

「やっぱりイカサマじゃねえか!!」

「立直!」

「こっちもかよ!!」

「お前ら絶対グルだろ!!」


だが、それは通らない。

その確率が存在する以上、それは起こり得るのだ!


大上隼斗──九蓮宝燈!!

「ロン!」

放銃した嶋田に直撃!!

2回連続で直撃!!

嶋田はもう死んでいる!!


「ざっけんなあああああ!!!!!」




その後も嶋田へのロン直撃は続いた。

もはや高木は眼中に無し。

安土と大上はまるで示し合わせていたかのように

役満によるロン和了を執拗に繰り返し、

嶋田のマイナスを積み重ねる作業に専念したのだ。


放心状態の嶋田を背景に、大上が雑談を始める。


「ところで安土

 これは麻雀とは全然関係無い話なんだが、

 アナライズという魔法について疑問がある

 ほぼ全ての魔法能力者が習得可能らしいが、

 生徒情報アプリでざっと確認した限り、

 その魔法を登録してる生徒がやけに少ないんだ

 これはどういうことなのか、説明が欲しい」


「なんだ、そんなことか

 例えばお前が何かのアルバイトに応募するとして、

 履歴書の自己アピール欄に『日本語わかります』

 なんて低レベルな文章は書かないだろう

 俺たちにとっては、それほど当たり前のことなんだ

 わざわざアナライズを登録してる奴は2種類……

 1つは几帳面な性格の奴だ

 習得した魔法をきっちりと記録に残しておきたい、

 あるいは自ら率先して敵の情報分析を行いたい、

 そういう生真面目な連中が登録してると思えばいい

 もう1つは見栄を張りたい奴だ

 登録魔法の数が多いほど偉いと考えてる連中だな

 少しでも水増ししておきたいんだろう」


「そうか、大体理解した

 まあとりあえずアナライズという魔法は、

 基本的に誰でも使えるという認識でいいんだな?」


「ああ、それでいい

 わざわざ言うまでもないが、俺も習得済みだ」


その言葉に、嶋田と高木はハッとする。


安土桃太郎はアナライズを使える。

魔力の流れを読み取ることができる。

ドローイカサマを見破ることが可能である。


これで全ての前提が覆されてしまった。



最初から全部バレていたのだ……!!



それでもゲームは続けられる。

勝者と敗者が確定したゲームが続行される。

嶋田へのオーバーキルはこれからも続くのだ……!

これからも高木の点数が動くことはないのだ……!



もはや何も言えない嶋田と高木に代わり、

安土と大上の雑談は続けられた。


「ところで大上

 これも麻雀とは全然関係無い話なんだが、

 ドローという魔法の使い道を教えてやろう

 例えば特定のカードに魔力残滓を仕込んでおき、

 シャッフル時に引き寄せて山札を操作するんだ

 あとはポーカーなりブラックジャックなり、

 好きなゲームでカモを負かせばいい」


「ああ、それなら聞いたことがある

 割と昔からカジノで横行してるイカサマだろ?

 毎年10人くらいの逮捕者が出てるというのに、

 よくもまあそんな愚行を犯す気になれるよな」


逮捕という単語にビクンとなる小物が2人。


「もしかして安土もドローを使えるのか?

 さっきから随分と幸運が続いているようだが……」


「いや、俺には習得できない魔法だ

 まあもし俺にその適性があったとしても、

 戦いに使えない魔法なんて興味無いな

 ……幸運が続いているのはお前も同じだろう

 大上は()()()()()()をどこで覚えたんだ?」


「小さい頃、よく父親の練習につき合わされてな

 それで自然と覚えたって感じだ

 安土は()()()()()()をどこで覚えたんだ?」


「伯父が遊び好きな人でね

 よくベガスやマカオに連れ回されたもんだ

 色々なゲームを知ってる人だから、

 麻雀の()()()()()()()にも詳しいのは当然だ

 そんな人の遊び相手をしていれば自然とこうなる」


ここで安土が国士無双。

放銃者はもちろん嶋田である。






──どれだけの時間が過ぎたのだろう。

嶋田はもはや無我の境地に至っており、

天井を通り越して宇宙を見上げていた。


「……嶋田!

 おい、しっかりしろ!」


高木に肩を揺らされ、ようやく意識を取り戻す。

部屋には自分と相方だけ……悪夢が終わったのだ。


「えっと……

 あれからどうなったんだっけ……?

 たしか俺は……ああ、最下位か……」


「俺は3位……

 俺たちの負け…………惨敗だ」


「そうか…………」


沈黙が続き、2人はただ天井を眺めた。

そして何分後かにボソリと呟きを再開する。


「安土はドローを使えないんだよな?

 じゃあ、あれはなんだったんだ……?」


「さあ、わからん

 俺たちの知り得ない何かだろう」


「そうか……忘れよう

 ところで高木、1位はどっちだったっけ?

 なんか最後らへんの記憶が飛んじまってな

 俺は安土と大上のどっちに飯を奢ればいいんだ?」


「大上だよ

 ちなみに俺も大上に奢ることになった」


「ん、どういうことだ?」


「ほら、安土って食品アレルギー持ちだろ?

 自分で用意した飯しか信用できないから、

 食堂を利用する気はないんだってさ

 それで大上にタダ飯の権利を譲ったんだ」


「なんだ、それ目当てで参加したわけじゃないんだ

 じゃあ何が目的だったんだろうな?」


「さあなぁ、あいつら両方わけわかんない奴だからな

 考えたって時間の無駄な気がするぜ」


「そりゃ言えてるな

 ……さて、罰ゲームの振り分けだが、

 今月と7月は俺が大上に食券奢るから、

 5月と6月はお前に任せる

 それでいいよな?」


「え

 はあ?

 いや、何言ってんだお前

 最下位の嶋田は3ヶ月、3位の俺は1ヶ月だろ?

 しかも、なに日数の少ない月選んでんだよ……

 今月もうすぐで終わんじゃねえか!!

 7月には夏休みがあるし!!

 何が『それでいいよな?』だよふざけんな!!」


「いや、ほら

 取り分は山分けって約束しただろ?

 俺たちは言わば運命共同体なんだ、

 これからも同じ苦しみを分かち合おうぜ⭐︎」


「このクズが!!」




モブにはモブの生き方がある。

そして、モブが平穏な日々を過ごすには、

絶対に守らねばならない鉄の掟が存在するのだ。


モブは主人公に手を出してはならないのである。


そんな教訓を学んだ嶋田と高木であった。

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