第375話 転移酔い?
「おはよう」
ちょっと、ゆっくり寝すぎたかな。
朝食の為、食堂に入る。
あれ? アグニだけがいない。いつも早起きなのに珍しい。
「アグニは?」
「まだ、起きて来られておりません」
「そうか。でも、リエを魔法省まで送らないとダメなんだし、ヒタム、ちょっと起こしてきてくれ」
「うむ」
ヒタムは、食堂を出て、アグニの部屋に向かう。
だが、すぐに戻って来た。
「アグニ母ちゃん、ちょっと気分が悪いから、もう少し寝るって言ってるのだ」
「えっ、本当か? リエ、診てくれるか?」
「わかった。ちょっと言って来るわ」
すぐにリエもアグニの部屋へと行ってくれた。
その間に、ベルシーはヒタムを連れて、職業訓練学校へと送りに行くと言う。
アグニの部屋から出て来たリエは、ちょっと難しそうな顔をしている。
「どうだった?」
「うーん。多分と言うか恐らくと言うか……」
「なんだよ、ハッキリしないなぁ」
「リョウ、ちょっとナディア妃に魔法紙を送るわね。それから説明させて頂戴」
「わかった」
リエは、魔法紙に何かを書き、それを飛ばす。
すると、すぐに魔法紙がリエの前に現れる。
「戻りました」
ヒタムを送ったベルシーが戻って来た。
「あっ、ベルシー、丁度良かった。今から、ナディア妃が来られるから、玄関まで迎えに行って頂戴」
「かしこまりました」
暫くして、トントントントンと階段を上がって来る音がする。ナディアが来たようだった。
「アグニの体調が悪いんですって? 私、診断はできないんだけど」
「じゃあ、なんで来たのさ」
「リエスタさんに呼ばれたんですもの。まぁ、なんとなく手紙の内容で理解出来てるのですけど」
「なに?」
「ハッキリしてからお教えします。では、アグニの部屋に入りますね」
アグニの部屋にナディアを先頭に入る。
「リョウ様は、ちょっとお外に出ていてくださいな。いくら妻でも、内緒にしたいこともあるかも知れませんからね」
「そうか。うん、わかった。診てくれるならいいよ」
部屋から閉め出されてしまった。アグニの部屋に入ったのは、女性陣のみ。
部屋の外で待っていると、ちょっと慌てた様子のナディアが出て来た。
「リョウ様! ちょっと指輪をください!」
「なんだよ、急に。指輪ってなんのだよ」
「あの、ほら、あれです。あの、当日限りの指輪!」
「誰に渡すんだよ。知らない奴になんか渡せないぞ」
「早くっ!」
「あっ、はい。当日限りの『Ring』っと。はい、これ」
「じゃ、一度国に戻ります!」
なにがなんだかわからない。
リエもナディアも教えてくれない。アグニの部屋には入るなと言われてしまったから、入るわけにはいかない。女性特有の病気なら、男の俺が聞くのもなぁ〜。
「戻りました」
小一時間程してナディアが戻って来た。隣には老爺と呼ばれる年齢の男性。
「おぉ、使徒様、初めまして。私は、ベルジック魔人国にて宮廷医師長をしております、フランツ・シュミットと申します。奥様のアグニール様のご様子を診察に参りました」
跪き深く頭を下げてくれているのだが、早々に頭を上げて立ちあがってもらう。
「よろしく頼むよ」
「はい。お任せくださいませ。では、お妃様、アグニール様のお部屋はどちらですかな?」
「こっちよ」
パタン
部屋に入って行くのを見守るしかない。宮廷医師長と言う役職で、かつ、経験豊富そうなお医者さんに見て貰えれば安心だ。
ふぅ~、まだかな?
今、アグニの部屋の中にいるのは、ナディアと医師、そしてベルシーだけである。
リエと一緒にアグニの部屋近くのサロンで待つ。
「リエ、何だと思う?」
「うーん、さっきも言ったけど、ハッキリしたことがわからないのよ。これだけは、いくら賢者であっても経験がないのよね。あぁ、病気じゃないから大丈夫よ」
「病気じゃないって? あぁ、そうか、二人とも加護を貰っているから病気にはならないか。まぁ、それだけ聞けただけでも安心だけどさぁ……」
病気じゃないのに医者に診せる必要がある?
まったくわからない。
とにかく、待つしかない。
三十分ほどして、ベルシーが俺を呼びに来てくれたので、リエと一緒に部屋に入る。
入ると、アグニが涙ぐんでいる。
なんだ!? 悪い病気か? いや、そんな筈はない……。
「先生、どうなんだ? なんかの病気か?」
「まぁ、落ち着いてくだされ。奥様は、ご病気ではありませんぞ。おぉ、奥様からお伝えいただいた方がよろしかろう」
何なんだ、一体全体。
「あなた、心配をかけてしまって……」
「そんなことはいいんだよ。それで、何なんだ?」
「ウフフ、妊娠しました」
「はぁ? 妊娠?」
頭を殴られたような衝撃。
アグニが妊娠?
俺とアグニの子?
俺が父親になるってことか?
いや、既にヒタムの父親なんだけど。
「…………た! ……なた! あなたったら!」
「えっ!?」
「もう、何度も呼んでますのに」
「あぁ、ゴメン。あー、こういう時、なんて言えばいいんだろ? でも、嬉しいよ。うん、めちゃくちゃ嬉しい。俺とアグニの子かぁ~。あっ! ベルシー!」
すぐにベルシーを呼び寄せる。
「ヒタムを連れて帰ってきてくれ。授業中だろうけど、早く教えてやりたいからな」
転移でベルシーがヒタムを迎えに行ってくれた。
すぐにヒタムを連れて戻って来る。
「ただいまなのだ。父ちゃん、なんか用事って聞いてるのだ。うん? このおじいちゃんは誰なのだ」
宮廷医師長をしております、フランツ・シュミットに手を向ける。
指を指さないのは偉いぞ。
ヒタムにアグニの診察の為に来てくれた魔人国の偉いお医者さんだと説明する。
二人目の使徒をあったシュミット医師は、流石に緊張しているようだが、年の功だろうか、目だった様子は見られない。
「そっか、それでアグニ母ちゃんは大丈夫なのか?」
「アグニ、ヒタムには自分から教えてやりなよ」
俺から伝えるよりもアグニが話したいだろうと思って、話を振ることにした。
「ヒーちゃん、お母さんのお腹にね、ヒーちゃんの弟か妹がいるんだって」
「ん?? それは、もしかして、もしかすると。……、おぉー、やったーやったー。おっ、こうしちゃおれんのだ! 父ちゃん、来るのだ!」
「どこに?」
「爺ちゃんたちに教えないとダメでしょ!」
「そうだった、そうだった」
俺とヒタムの会話が聞こえていたんだろうナディアが、急にソワソワしだす。
「さ、さて、私はそろそろ帰るといたしましょう。シュミット、帰りますよ」
「いや、お妃様。今後の話が出来ておりませんぞ」
「そ、そうなんだけど……。あぁぁぁ、わかったわよ! でも、シュミット、気持ちは強く持つのよ、いいわね」
「はぁ、わかりました」
「私も腹を括りましたよ。リョウ様、ヒーちゃん、報告に行ってらして」
なんとなく、今から起こることを想像したんだろう。俺は、わかってるけれど。
「じーちゃーん! おっちゃんにおばちゃーん」
一階の聖堂に勢いよく入ったかと思うと走って神像の前で大声を出すヒタムと後ろから小走りで追いかける。
ヒタムの呼び声で、主神である父さんの神象と兄姉の像、そしてテルース神像が光り出す。
一斉に光り出したので、少しだけ眩しい。
「どうしたんじゃ? ヒタムが全員を呼ぶのも珍しいのぉ」
「じいちゃん! ヒーちゃんに弟か妹ができるのだっ!」
「おぉ、リョウよ、本当か?」
アグニを魔人国の宮廷医師に診察してもらった結果だと説明すると、神々たちが一斉に喜んでくれた。
特に、地球神であるテルースは俺に抱き着いて喜んでくれた。
俺を抱きしめ、何度も何度も『よかった、よかった。幸せになってくれていて嬉しい』と涙を流して喜んでくれるので、俺までもらい泣きをしてしまったくらいだ。
「では、本人に祝いの言葉を言いに行かなくてはのぉ。アグニは部屋かの?」
「そうだよ。あっ、行っちゃった」
既に主神の父さんとこの世界の神々含めて十五柱とテルースもが消えてしまった。
俺もヒタムの手を引きながら、慌てて聖堂を飛び出す。
聖堂を出ると三階から大きな声が聞こえてくる。
ヒタムを抱っこして階段を駆け上る。
ハァハァと息を切らして三階につくと、膝間づいているベルシーとリエ。こちらは、特に変わりがない。
ナディアはプルプルと身体を震わせながら跪いているし、宮廷医師であるシュミットは口から泡を吹いて倒れている。
まぁ、いつもの事か……な?
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