第376話 転移酔い? ~アグニール視点~
最近、イライラすることが多くなってきたような気がする。怒りっぽくなったと言った方が正しいのかもしれない。
先日も、いつもなら注意だけで済ませていたのだが、ベルシーやカイス、セレスにも怒鳴りつけてしまった。
「あぁ、いい結婚式だったわね」
隣に座っているリエが自分に話しかけて我にかえった。
「えぇ、感動しましたわね」
「ねぇ、皇帝陛下やユーグ様の涙に釣られちゃったわ」
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そう笑いながら話すリエは、涙で化粧が崩れてしまっている。自分もそうなのだろうと思っている。式は終わって、これからはパーティーなのだ。その前に化粧を直しに行こうと立ち上がる。
「アグニ、リエ。今から一時間後にパーティーだってさ」
「えぇ、先ほど私たちも伝えられたので存じてます。あなたも、お疲れ様でした」
「まったくだよ。聖職者なんて、もう二度とやらないぞ。緊張して肩が凝ったよ」
リョウは、そう言いながらも顔は笑っている。緊張はしたようだが、知人の結婚式が嬉しいんだろうなと思う。
「あなた、私たちは化粧と着替えをしてから参りますわね」
「わかった。俺も、着替えないとな。じゃ、一緒に行こうか」
ヒタムも入れて四人で自分たち用の客室へ。
パーティー会場は、結婚式を行なった王城の別の場所だった。アリアナの時のような立食ではなく、各家毎のテーブルが用意されていた。
(よかった。席が用意されていたのね。立ちっぱなしは疲れるから。……でも、前はずっと立っていても平気だったのにな。何だか、足も浮腫んでいるような……。運動不足かしら?)
席につき、程なくして結婚披露パーティーが始まった。
豪華な食事に高そうなお酒の数々。
「アグニ、飲まないの?」
「えぇ、何だか欲しくなくって。食欲もあまりないんですよね」
「そうなの? 後で診ようか?」
「いえ、大丈夫です。私も旦那様の緊張が移ったのかな?」
「ハハハ、そうかもね。でも、リョウはパクパク食べてるけどね」
「ほんとだ」
リエから酒を勧められたが、何だかお酒を飲みたいとは思わない。元来、酒には強く二日酔いになった覚えもないくらいだ。それに、どちらかと言うと酒は好きな方なんだが。
肉も受け付けない。ひたすらサラダばかり食べてしまった。
「あー、疲れたー。やっと、帰ってこれたよー」
結婚式が終わっても、すぐに帰ることが出来なかった。理由は、リョウが皇帝とユーグに捕まり、自分たちとヒタムは、ソフィア妃により、『女子会』と称した小宴会に連れていかれたからだ。
帰宅して、やっと落ち着くことが出来たのだった。すぐにベッドに入りたいが、旦那様のリョウより先に寝るのは、何だか申し訳なく思い、皆が寝室に入るようになるまではリビングでお茶を飲んだのだった。
――――
「母ちゃん、朝なのだー。起きるのだー」
「ううん、ヒーちゃん。おはよう」
「おはようなのだ。起きないのだ?」
「うん、ちょっと、身体が重くて、もう少し寝るからと言っててくれる?」
「わかったのだ。お熱あるのかな?」
ペタリとヒタムの小さな手が、アグニの額に乗せられる。
「ふむ、少しだけお熱がありそうなのだ。じゃ、おとなしく寝てるのだっ!」
ヒタムが部屋を出て行ったと思ったら、入れ違いでリエスタが入って来る。
「調子が悪いんだって? ちょっと、診させてもらうわね」
リエスタはアグニの布団を剥ぎ、寝間着の上から手を翳す。
頭から足先まで、ゆっくりと手を動かしている。
「ん?」
再度、腹部へと手を翳しながら、首を傾げる。
「リエさん、何か?」
「うん、気になるのよね。ちょっと、両手を出してくれる?」
アグニが両手を差し出すと、リエがその手を握る。
そのまま、両手同時に魔力を送れと言われるので、その通りに魔力を流す。
「うん。やっぱりそうだと思うんだけどなぁ~。でも、経験ないからわからないんだよね。そうだ! ちょっと待っててね」
リエスタも部屋から出て行った。
その後、暫くは眠っていたようだが、寝室のドアのノックの音で目が覚める。
入室許可の声をかけると母親である魔人国妃のナディアが入って来た。
「母上っ! なぜ、こちらに?」
「リエスタさんから呼ばれたのよ。それで、体調はどんな感じなのかしら?」
母親に、最近のイライラや食欲減退。そして、好きな食べ物やお酒も受け付けなくなったことを話す。
「そう。胸のむかつきなんかはある? ちょっと、胸を触るわね」
「あっ、痛っ」
ナディアに胸を触られると、なんだかチクチクした痛みが走る。
「乳房も張りがあるみたいね。それで、月の物は?」
「そういえば……」
確かに、月のモノが来ていない。
……まさか……。
いや、先日のクエーレでの討伐から帰って来た日、二人とも行き死にを間近で見たからだろうか、生存本能が種を残そうとしたのかは、わからないのだが、その日の晩は無性にお互いを貪るように愛を確かめ合った。
いつもなら、行為の後は浄化魔法を身体と寝具にかけるのだが、気絶するように眠ったので忘れたのかもしれない。
確かに、あれ以来、月のモノが来ていない。
「ちょっと待ってなさい。シュミットを呼んでくるわ。医者なら確実だと思うからね。その間、寝てなさい」
母親も慌てた様子で寝室から飛び出して行った。
その後、うつらうつらとまどろんでいると部屋がノックされ、入ってきたのは幼少期から世話になっている宮廷医師長のフランツ・シュミット。
すぐに診察となり、瞼を押し下げたり、口を開いて中を診られたりした後、リエスタと同じことをしてくる。
「ふむ、右と左で魔力に微弱な乱れがございますな。ふむ、他の魔力も多少混じっておるようだな。ふむふむ」
しばらく、診察をした後のこと。
「アグニール様、おめでとうございます。ご懐妊でございますよ」
「えっ!? 妊娠? 私が? えっ!? えっ!?」
妊娠。
自分とリョウとの赤ちゃんがお腹の中にいる。
「キャー。おめでとうー。アグニ」
自分以上に母親が喜ぶので、自分の喜ぶタイミングを逃してしまった。
すぐにリョウとリエスタも部屋にやってきて、妊娠を告げるとリョウは呆然としたような、喜んでいるような、妙に複雑な顔をしている。
何度か呼びかけると、どうやらボーっとしていたようだが、その後は大喜びで小躍りするくらいだった。
ヒタムも学校から呼び戻され、妊娠を告げるとアグニに抱き着いて来た。
「弟かなぁ? 妹かなぁ? ヒーちゃん、お姉ちゃんになるのだぁー」
嬉しそうにアグニに抱き着きながらも、お腹に声をかけている。
その姿が愛おしく、頭を撫ででやっていると、バッと顔を上げ、すぐにリョウを連れて出て行ってしまった。
聖堂に報告に行くのだと言う。
すると、母親のナディアは急に慌てだし、すぐにでも帰ると言うのだが、シュミットから、『これからのことを話していない』と注意され、注意されたナディアはシュミットに、『これから起きる事に対して、気を強くお持ちなさい』とだけ伝えて部屋から飛び出して行った。
「もぅ、母上ったら。寝室のドアも部屋のドアも開けっ放しじゃないの。廊下まで見えるわよ」
仕方ないなぁとベッドから出てドアを閉めようとした時、部屋の外から『うわぁー』と大きなシュミットの声と、”バタン”と倒れるような音。
(あぁ、主神様が来られたのね)
思った通り、主神である創光主アルクティウスが入って来たのだが、その後ろには全神々も入って来る。地球神のテルースまでもが入って来る。
「アグニールよ。おめでとう。おぉ、座っていなさい。身体を大事にしないとな」
「ありがとうございます。お義父様」
主神に頭を下げ、礼を言うと、次から次へと神々から『おめでとう。おめでとう』と喜びの言葉をかけられる。
最後に、テルースがアグニの前に立つ。
「おめでとう。おめでとう。リョウの子を……。あの子を幸せにしてくれてありが……」
テルースは滂沱の涙を流しながら、アグニに抱きつき、何度も何度も喜びの言葉を伝えてくれるのだった。
「ありがとうございます。テルース様。本当に、神様方もありがとうございます」
神々はウンウンと笑顔で頷いてくれた後に、部屋から消えて行った。
(あぁ、この子は神々から祝福されているのね。どうか、元気に育つのよ)
アグニは、そっとお腹に手を当てて、再度ベッドに横になるのであった。
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