第374話 特別休暇
「ベルシー、ちょっと来てくれるか?」
「はい、ただいま」
旦那様に呼ばれ、すぐにお部屋へと入らせて頂く。
「座って、座って」
相変わらず使用人の自分達にはお優しく、甘い。
先日は、カイスとセレスとともにお叱りをうけたのだが、後からコッソリと、
『セレスのためとは言え、叱ってしまって悪かったね。ベルシーが一生懸命に仕事をしてくれているのは、俺もアグニもわかっている』と。
「それでさ、俺達は全員結婚式に参列するだろ。エルは、すでにエルフ国に行ってるし、ニコ、カイス、セレスは修行中でいない。サイゾー、オギンは俺達の警護に来るからな。そうなるとベルシーのみが、ひとりで留守番になるんだよ。その間、どうする?」
「あの、どうするとは?」
「うん、マリファンの所にでも行くのかなって思ったんだけど」
「マリファン公爵様の所に行きましても、既に新しいメイド長もいることでしょう。また、古株の私が行けばメイド達も委縮するかもしれません。私は、こちらで、ゆっくりとさせて頂きます。お気遣い、ありがとうございます」
そう答えたのだが、旦那様は腕組みをして考え込んでいる。
神の使徒でも悩みはあるのかな? ふと、そう感じてしまった。
「旅行でも行ってきたらって思ったんだけど、女性の一人旅は危ないしなぁ~。うーん。……サイゾー、オギン!」
「「はっ、御前に」」
サイゾーさんとオギンさんが急に現れるのは、本当に心臓に悪い。いつも、どこに居て、どこから現れるんだろう。
「サイゾー、今度の結婚式の参列についてなんだが、俺は知っての通り、あらゆる攻撃は無効だ。サイゾーひとりで、ヒタム、アグニ、リエの警護は可能か? 一応、リエからは、自分達には強力な結界を張るそうだ。王城にも結界を施されているので、大丈夫だとは思うのだが。どうだ?」
サイゾーさんは、一瞬目を見張ったようだったが、
「問題ございません」
「そうか、頼んだよ。オギン、そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だよ」
「あっ、申し訳ございません」
オギンさんは、自分のしごてゃ何をするのか不安になったんだろうな。オギンさんの主な仕事は、ヒーちゃんと奥様方の警護なんですもの。
「サイゾーもオギンも休みなく働いてるだろ? 本当は、二人一緒に休みを取らせたいんだけど、そう言う訳にもいかないんだ。スマン」
「「旦那様、お顔をお上げください!」」
さすがに主人であるリョウ様から頭を下げられるのは耐えられないんだろう。自分でもそうなんだけど。
「それで、オギンにはベルシーと一緒に特別休暇を与えることにする。二人とも仲が良いんだし、二人で旅行でも行ってきなよ。ベルシーの転移なら、どこでも行けるだろ? オギンも世界各国を回ったのは、修練や仕事でだろ? 遊んでおいでよ」
「し、しかし……。ベルシーさん、どうしましょう」
急に私に話を振らないでよぉ。
「ここは、旦那様の御心に感謝して、特別休暇を頂戴しましょう」
「いいのでしょうか?」
まだ、不安そうなオギンさん。サイゾーさんはニッコリと笑って、オギンさんに頷いている。
「では、お言葉に甘えさせていただきます。ベルシーさんと、一緒に旅行でもして参りますので」
「うん、そうしてくれ。結婚式は、帝国王城内で行われる。明日の朝から帝国に出発して、戻るのは十日前後ってところかな? まだ、ちょっと機関がわからないんだよ。暫くは、カールやユーグが離してくれなさそうでさ」
苦笑いを浮かべられているが、でも嬉しそうなお顔でいらっしゃる。
「そうだ、これはふたりの旅行や特別休暇用の小遣いだ。遠慮せずに受け取ってくれ」
革袋を渡され、あとでコッソリ見ると大金が入っていた。すぐに、旦那様にお返しにいったのだが、笑って受け取ってくれなかった。
『全部、使って豪遊してきなよ。あっ、俺達へのお土産はいらないけど、ヒタムには何か買ってきてやってよ』
そう言われてしまった。
――翌日
「行ってらっしゃいませ」
旦那様方をお見送りし、オギンさんと打ち合わせ。
「オギンさん、どこに行きたい?」
「私は、クエーレの街でお魚を食べたかったんですけど、今は復興中でしょう? ベルシーさんこそ、オススメの場所はないんですか?」
「そうねぇ。ウルゲルン獣人国は、観光場所といってもダンジョンくらいしかないし、ドワーフ国は、それこそ鍛冶しかないわ。露店すら、あまりないもの。うーん、美味しい物を食べに行くか、観光をするかで変わるわよね」
二人して悩んでしまう。その時間がもったいないのだが、それも楽しさのひとつである。
「あっ! 私、あの旦那様が仰る『クマさんの店』とクエーレの街の『一度食べたら癖になる』とよくおっしゃるお店に行きたいです。いつも聞いていて食べたかったんです。夫は、旦那様と同行することが多いので、食べたことがあるのですけど、私に自慢ばっかりするんですよっ! あぁ、腹立たしい!」
「まぁまぁ、それじゃあ、私達で食べ歩きをしましょうか。近くのリーチの街にも美味しい店があるそうよ」
行き場所も決まり、各々で旅行の荷物をまとめる。それほど、荷物は必要ない。大きなものは、ベルシーの空間魔法やリエスタ奥様から魔法鞄を頂いている。その収納容量も大きく、荷物に困る事はない。
オギンさんも貰っているので大丈夫だろう。
玄関を施錠し、ペチャクチャと話しながら結界門へ。結界門も閉ざす必要があるためにテクテクと歩いている。
結界門を閉じ、施錠を行う。
「さて、行きましょう!」
「そですね。あー、楽しみぃー」
オギンの肩に手を置いて、さぁ転移だと思った瞬間!
「おや、お出掛けですか?」
後ろから声がかけられる、てっきり『再生の地』を護衛している騎士だと思い振り返ったのだが……。
「アンディさん、なんで?」
アンディがニコヤカニ立っていたのだった。
「いやぁ、帝国領事館への仕事がありましてね。お二人は、どちらへ?」
リョウから特別休暇を貰い、二人で旅行するのだと説明する。
「ほぉ、それは結構。では、私で宜しければ、ご案内できますが?」
「アンディさん、お仕事は?」
「もう、済みました。暫くは、仕事はありませんな」
「でも、でも、ロアーナ王女様とノア王国のフリード様のご結婚式の護衛があるんじゃないのですか?」
アンディが説明してくれるのは、結婚式の護衛は近衛騎士が中心となり、自分の所属している部隊は特に出番がないと言う。
「それに、その前段階の仕事は終わらせましたので」
なんとなく、それは聞いてはダメな気がする。
「ベルシーさん、お義兄さんと一緒に行かれます? 私、お邪魔虫みたいなんですけど……」
「なっ、なにを言ってるのよっ! もぅ!」
オギンにも揶揄われてしまい、顔は真っ赤になっていると自分でもわかるほどに顔が熱い。
「フフフ、冗談ですよ。お義兄さん、案内は嬉しいんですけど、お肉のお店ばかりは嫌ですよ」
「えっ? アンディさんは、前にバータンレ国でお食事行った時には、『私も魚が大好きなんですよ!』と言ってましたけど……」
バータンレ国でも初デート時に、自分は魚料理が好きだと言えば、アンディも同じことを言った筈だ。自分の記憶に間違いはない。
「プッ! クックック。お義兄さんが、肉より魚ですってぇー。アーハッハッハッハ、あぁ、面白い冗談! ムッ、ムググググ」
(オギン、黙れ!)
アンディは、すかさずオギンさんの口を塞ぎ、何やら耳元でささやいているが、聞こえているんだけど。
口を塞がれたオギンさんも、笑いながらもコクコクと頷いている。
「さっ、さぁ、行きましょうか。私が美味しい魚料理のお店を中心に案内しますんで」
また、大笑いするオギンさんと憮然としたアンディさんの肩に手を置き、まずはウルゲルン獣人国へ転移するベルシーである。
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