第373話 確定の揉め事
「では、各王からの報告も終え、今回の元首会合は終わろうと思う」
帝国皇帝のカール・ドゥ・ティラスティラが定例の会議を終える宣言を行う。
「あぁ、今回はすんなりと会議も終えたな。久しぶりだ」
カールがノア王国の王であるユーグに話しかける。
「そうだな。まぁ、今回は、我が国のクエーレの被害状況の報告と、支援してくれた国々への謝罪と礼のみだったからな」
「そうだな。それで、ケガの具合は大丈夫なのか?」
「あぁ、ご覧の通り。もう、すっかり大丈夫だ」
二人は仲良く話している。時折わっらいごえも聞こえてくる。
「ドラン、産まれた子はどうなの? 女の子なんでしょう?」
「おぉ、よく聞いてくれたな、女王。そうなんじゃ、もう、可愛くて可愛くての。儂だけではなくての、息子のオーリーも片時も離れないんじゃい」
「あらあら、ドラン。顔がニヤけてるわよ」
「そりゃあ、仕方ないわい。女の子なんじゃぞ。可愛いくて」
「今度、お祝い持って行くから、会わせてよ」
「おぉ、おぉ、いいぞ。待っとるからの」
こちらも仲良く談笑している。
「ベルジック王、此度は大活躍とダンテ様より伺ったところです」
「ハッハッハ、いや、なに。少し強い魔法を放っただけだ」
ボレスとベルジックが話をしているところにダンテもやってくる。
「いやいや、あの魔術が少し強いだけとは冗談にも程がありますぞ」
「これは、獣王殿。お主の剣戟も凄まじかったであろう」
「リョウさんに下賜いただいた大剣のおかげですな」
この三人も仲良く話している。
「では、ベルジック王よ、送ってくれんか? 早く娘の顔が見たいのだ」
「うむ、わかった。皆、またな」
ドランを連れてベルジックは転移で消えて行く。
「あれ? ララノア女王様は、お帰りにならないので?」
「あぁ、ボレス。私も皆さんとご一緒にリョウさんのところ行くのよ。皆もそうなのでしょう?」
最近は、ララノアも以前のように皆と気軽に話せるようになってきたようだった。
「ええ、私とユーグ様、ダンテ様はいつも会議後はリョウさんのところにお邪魔するのが決まりのようなものですので」
ボレスが言うと、ダンテもユーグも深く頷く。
「いいなぁ、私も行きたいのだが……」
カールが羨ましそうな目で言うのだが、ユーグは鼻でフンッと笑う。
「いつまで嫁さんの顔色を伺ってんだ。来たいのなら来ればいいじゃないか」
「……な、なにを! 尻になど敷かれておらんわっ! ヴァン、行ってもいいか? 今日のために政務は前倒しなのだ」
いつも三人が行くのを見るだけだった皇帝カールだが、この日のために精力的に書類仕事を片付けたのだった。
「大丈夫でしょう。どうぞ」
「良いのかっ! ヨシっ。あっ、ヴァン、悪いな余だけが遊びに行って」
「構いませんよ。私は、いずれ娘夫婦の家に越すことが決まっておりますので」
「娘夫婦? ヴァンのところには……。下の子が結婚したんじゃないだろうしな……。……、ま、まさか……」
それ以上の言葉が出てこないようだった。
「フフフ、その、まさかですな。では、陛下、行ってらっしゃいませ」
「いや、待て! 待つのだっ!」
ヴァンからの爆弾発言に驚いたのはカールだけではない。
「ヴァン、それは誠か!?」 と必死な顔で詰め寄るユーグ。
「羨ましい。私も頼もうかな」 とボレス。
「ちょっとぉ、それはないんじゃない!」 眦を上げて文句を言うのはララノア。
あれ? 真っ先に文句を言う筈の男が黙っていることに他の王達が気がつく。
「「「なんで、ダンテ殿(様)は、何も言わないのか? 何故、ニヤニヤと笑っているのだ?」」」
聞かれても余裕そうに笑っているばかりのダンテ。
「聞きたいかね? 仕方がない、教えようではないか。我も退位後に住むことが決まっておるのだぁぁぁぁ! どうだっ! 羨ましかろう!」
「「「なにぃぃぃ!」」」
一気に閣議の間が賑やかになってしまう。
――シュン――
「なんだなんだ? 賑やかではないか? 何があったと言うのだ?」
ドランを送って行ったベルジックが戻ってきたのだが、かなりうるさい。うるさいというか怒号が飛び交っている状態である。
近くにいたカールに聞くと、ヴァンもダンテも、引退後はリョウの屋敷に住むことが決まっていると言う。
「な、なんだとぉぉぉぉー」
もっとうるさくなってしまった。
「ええい、ヴァン。お前も一緒に来い。リョウさんの口から真実をお聞かせ願わねば」
「陛下、仕事が滞りますが? よろしいので?」
「構わぬ! 余の命令である。さぁ、アレクシオス、連れて行ってくれ!」
「うむ、任せろ」
――シュン――
「やぁ、いらっしゃい。今日の会議は早かったんだね?まだ、昼過ぎだよ」
ノンビリと食堂でコーヒーを飲んでいるリョウとアグニ達。
「お聞きしたい旨がございますぞ!」
ユーグが代表してリョウの前に立つ。
「な、なんだよ。血相変えてさぁ。なんかあったの?」
「何かあったかではございません! 聞けば、ダンテ殿は退位後にヴァンも引退後は、こちらに住むと言うではないですか! 何故です? 理由をお聞かせください」
「なぁーんだ、そのことか」
気の抜けた返事でユーグも少し冷静になれた。
リョウが説明してくれたのは、ダンテとヴァンから聞いていた話である。
「……って、事なんだよ。別にユーグ達も退位してからなら、ここに住んでも良いけど。でも、二人には言ったけど、部屋は狭くなるし、専属メイドもいないんだよ。それでもいいの?」
「私は無理です。まだ、子供が幼い。退位なんて考えられないですから、こちらに遊びに来られても引っ越しはできません」
諦めた口調で言うのはボレス。
「私のところは妻が三人。狭いのは別にいいんです。冒険者時代で慣れておりますので。しかし、四人もとなると……」
ユーグも諦め口調である。
「儂も婿殿や娘のアグニ。それにヒーちゃんと一緒に住みたいのだが、先代がいるからなぁ。あの、オッサンを差し置いては引っ越しなぞ出来ぬよ。ただでさえ、自分も婿殿の所へ連れて行けとうるさいのに。おまけに退位後の離宮も建てたばかりであるからなぁ」
ベルジックは先代の両親と暮らすための離宮も建設したそうで、今更、自分たちだけが憧れと尊敬の相手であるリョウのところへはこせないと言う。
「わ、私は大丈夫です!」
「カールが?」
皇帝カールは元気よく手をあげて大丈夫だと言う。
「既に両親は他界しておりますし、次期王のロアーナもおります。近々の結婚が済めば、私も退位の準備ができると言うものです」
「嫁さんはどうなのさ」
「ソフィアも大丈夫……と……思います……けど……」
「それがハッキリしてからだね。話が決まったら連絡してよ」
「はい」
「一応、ダンテ夫婦とヴァン義父さん夫婦は確定っと。カールは、予約ってところだね」
ダンテ、ヴァンは、ニッコニコで頷く。確実に言質が取れたからだろう。
「あの、私も越して来たいんですけど」
「ララノアも!?」
「はい。どうしても、ここの大浴場に惹かれておりますので」
「わかった。いいよ。エルに王位を譲ったら越してくればいいさ」
「ありがとうございます。では、五百年後に越して参ります」
「えっ? 今、何て言った?」
「えぇ、五百年後にと申しましたけれど?」
「死んでるわっ! エルフと違って、俺たちは人間なんだよっ! 五百年先なら俺の子孫に言え!」
長命種のエルフの感覚と他種族の違いが理解できにくいのかもしれない。
(人間って、リョウさんも冗談がうまいなぁ)
(そうですよね。半神。いや、神に寿命なんてないでしょうに)
(うむうむ。われも同感だ)
「そこ、そこの三人。聞こえてるぞ!」
「「「失敬」」」
結局、まだ当面先の話になるのだが、ダンテ夫婦とヴァン夫婦は引っ越してくることが決まった。もしかすると、帝国のカール夫婦が一番先に越して来るかもしれない。
非常にうるさく、しかし、可愛らしい揉め事の一幕であった。
ブックマーク、評価をお願い致します。
レビュー、感想等もお待ちしております。
誤字、脱字等がありましたらご報告をお願い致します。




