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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第四章 人のいない村
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第八十八話 待っていた存在

 休憩していた建物を出て、流凪を先頭に村の奥へと入っていく。ただでさえ嫌な雰囲気が精神の負担になっているというのに、流凪が何かいるなんて言うものだから、涼人以外の大学生三人はいよいよ落ち着きをなくしていた。その視線は止まることなく周囲を観察し、ちょっとした草木の揺れですらそこに何かがいる可能性が気になってしまう。


 あまりにも落ち着きがない彼らの様子を哀れに思った玲が、流凪から詳しい情報を引き出そうと話しかけた。


「お嬢様、それで何かとは具体的に何なのですか?」


「んー? 人間だと思うよ、多分」


「あ? んだよ、ただの人間かよ脅かしやがって」


 そんな流凪の返答にホッと息を吐き出す聖太。しかしそれとは逆に、桃華と涼人の眉は訝し気に寄っていた。


「人間だと? それは本当にただの人間か?」


「多分?」


「多分とはどういう意味だ。普通ではない可能性もあるってことか?」


「なくはないねー」


「チッ、要領を得ねえな」


 何度も質問しても全然詳しい情報を落とさない流凪にイラついて舌打ちをする涼人。それに対して助け船を出すように桃華が口を開く。


「流凪ちゃん、どうして人間がいると思うの?」


「気配が人間だからね」


「気配、が分かるのね。だったらどうしてただの人間ではない可能性もあると思うの?」


「んー、気配はただの人間だよ。でも、何かなー、おかしい気がするんだよね。ちょっと分かんない」


「そう……」


 流凪は気配が読めるらしいということを理解した一同。しかし、それでもよく分からない部分があるようだ。今までの流凪の行動に多少は納得出来たが、しかしただの人間の気配がすると言っているのに何が分からないというのだろうか。結局流凪の言うことの全てを理解するのは難しい。


 更に質問を重ねてもっと情報を引き出すべきか。桃華がそう考えている間に、しかし流凪が立ち止まる。


「ここだね」


 そう言って流凪が見上げているのは、他の建物に比べて明らかに立派に見える、大きな建物。平屋の多いこの村で、見た中では唯一の二階建て。高い塀と分厚そうな門に守られたその建物は、この村の長が住んでいるのだろうと自然と思わせる存在感を持っていた。


「大きいわね。この中にその人間と思われる存在がいるのね?」


「うん」


「そう……。何も考えずここまで来てしまったけれど、よく考えたらその存在に接触しても大丈夫なのかしら」


「ね、思った。怖くない? 他のとこ探索した方が良いかも」


「その人間が外に出る方法を知ってるとも限らねえしな。まずは他を探すって手も」


 この場所に対する恐怖心がある三人は、人間らしき存在との接触に躊躇いがあるようで、やんわりと他の探索を先にするべきかもしれないと主張している。それも無理はないだろう。そもそも流凪がただの人間ではない可能性を示唆しているという時点で恐ろしいというのに、仮にただの人間だったとしたってこんな場所にいるのだからまともではない可能性も高いのだ。そんな九割以上ヤバそうな存在がいることが分かっているというのに、誰がそんな相手に会いたがるというのか。


 が、涼人の考えは異なっていた。


「お前らビビり過ぎだろ。その存在がこの場所の主だったとして、もし俺らを殺す気なら最初からやってる。生かして放置してる時点で害意はともかく殺意はないはずだ」


「この場所の主ではなかったら?」


「だったら尚更だろ。会わねえ理由がねえ。俺らと同じ立場ならそうだし、こんな場所に住んでるだけだっていうなら敵でもねえしな。ここに詳しいってんなら脱出方法も知ってるかもしれねえ」


 涼人はどこまでも合理的だ。感情ではなく理屈で考える。そうすると、この存在に会わない理由がないという結論になるのだ。ならばこのまま進むしかない。


 桃華も涼人と同様、どちらかというと理屈で考える方だ。しかし、涼人ほど割り切ることは出来ない。どうしても不安な部分があり、その恐怖心を捨てることが出来ない。



「もし、化け物だったら?」



「その時はそっちの二人がどうにかすんだろ。だから真っ直ぐここまで来たんだろうし」


 流凪の気配察知の精度が分からない桃華は、この建物に化け物がいる可能性が捨てられない。が、もし化け物がいたならいたで、流凪と玲が対処するはずだ、というのが涼人の考えだった。化け物に対処出来ないなら彼女らだってもっと警戒するはずなのだ。どんな存在が襲ってきたところで対応出来る自信があるからこその、この動き。涼人はそう考えていた。


 もし流凪と玲が敵だったら……どうしようもない。その可能性は排除するしかない。


「よろしいですか、皆さん」


「あ、はい。待たせてごめんなさい、玲さん、お願いします」


「では、参ります」


 大学生らの話し合いが落ち着いたことを確認した玲が、立派な門を押し開ける。中には美しい日本庭園が広がっており、数軒しか家のない小さな村には似つかわしくないように思えた。


 門から正面に石畳の通路が伸び、その左には白砂に描かれた水の流れにいくつかの岩が置かれ、苔が生えた島に一本の立派な桜の木が立っている庭、枯山水が広がっている。右手にはごつごつとした大きな岩や松の木があり、こういった日本庭園のことはよく分からない面々にも凄そうだと一目で思わせる。


「ふむ、どうも違和感がありますが……」


「え、玲ちゃん日本庭園に詳しいの?」


「いえ、詳しくはありません。この庭の造りについてではなく、こんな立派な庭を持つこの建物についてですね」


「やはりそうですよね。わたしも思いました。こんな小さな村にあるような規模感ではないですよね、この建物」


「えー? 田舎の豪邸ってこんな感じじゃないの? あたしが想像してたのそのまんまなんだけど」


「……じゃあこの建物を造ったのは椿みたいな考えの人だったのかもしれないわね」


 呆れたように桃華がそう締めくくる中、やはりマイペースな流凪はどんどん先へと進んでいってしまう。石畳の道を突き当たり、目の前の引き戸をガラガラと開けた。


「お邪魔しまーす」


 ズンズンと迷いなく建物の奥へと入っていく流凪に、慌てて他の面子もついていく。流凪を見失ったら自力で気配の主を探さないといけなくなる。この建物の全体像は正面から見ただけでは分からないが、それはかなり面倒に思えた。流凪を見失う訳にはいかない。


 障子紙の貼られたふすまが並ぶ廊下を奥へ奥へと歩いていき、何部屋通り過ぎたのかも今一よく分からない中で唐突に足を止めた流凪は、これまた唐突にそのふすまをスパーンと左右に思い切り開けた。


 中には畳の部屋があった。


 入ってきたのとは逆側のふすまは開けられており、正面に先ほども見えた枯山水が広がっている。部屋の中には何もない。座布団すら置かれていないただの部屋。



 そんな部屋に、一人の少女が座って待ち構えていた。



 その黒髪は二本の三つ編みにまとめられて垂らされており、前髪は真っ直ぐ切り揃えられている。目には縁なし眼鏡が乗せられていた。水色のポロシャツを着ていて、脚は黒いフレアスカートが覆っていて見えなくなっている。年齢は二十近辺だろうか。身長は座っていて分かり辛いが椿より少し上、桃華より少し下の百六十程度に見える。


 その少女の姿を見た瞬間、椿が駆け出した。そして飛びつくようにして抱き着く。



「葵ちゃんっ!!」



 その少女こそ、椿たち四人とはぐれてしまっていた友達、鷹座本(たかさもと) (あおい)だった。

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