第八十六話 オカルト研究会
「で、周辺探索の結果ですが」
やっと場が落ち着いたと判断した玲が、中断されていた探索結果の報告をするために改めて口を開いた。
「この先、このまま道を三キロほど進んだところに民家のような木造建築が一軒。そこから周辺に何軒か似たような建築様式の建物の存在を確認しました」
「ふーん、村みたいな感じ?」
「はい、まさにそのような印象を受けましたね」
「ふんふん」
玲の説明に、何かを考えるように頷きを返す流凪。そのまま黙ってしまったので、耐え切れなくなった桃華がその説明を受ければ誰もが気になるであろう内容を質問した。
「それって、人は住んでいるんですか?」
「いえ、建物の中まで確認した訳ではありませんが、少なくとも見た限りにおいて人、もしくはそれに類する生物の存在は確認出来ませんでした」
「へー、廃村ってこと?」
「もし廃村なのだとしたら、人がいなくなったのは最近に思えますね。ずっと放置されていたにしては綺麗な状態だったので」
「綺麗なの? 良いじゃん行ってみようよ! あたし疲れちゃったし、ちょっと休憩したーい」
玲の話に、ノリノリで村へ向かう提案をする椿。それに反対する理由は誰にもなく、全員で玲が発見した村へと向かうことになった。
何もせずにただ歩くだけとなると、三キロは意外と長い。当然その間ずっと静かにしていることなど椿に出来る訳もなく、積極的に流凪へと話しかけていた。
「流凪ちゃんは何年くらいお仕事してるの?」
「えーっと、四年くらい? あれ、五年くらいだったっけ?」
「今年で五年目になります」
「へー……え、五年? えっと、流凪ちゃんって今、何歳?」
「二十三歳だよー」
椿と流凪の話を、歩きながら聞くともなしに聞いていた桃華、涼人、聖太の三人が驚愕の表情と共に慌てて流凪を見る。彼らは現在大学二年生で、今年度で二十歳となる。二十三歳というと、たまに見かける一年留年している四年生の先輩とか大学院生とか、そういう人たちの年齢だ。そんな人たちと、目の前のこの幼女が、同い年?
あまり考えると頭がおかしくなりそうだと思った椿は、さっさと話を切り上げて話題を変えることにした。
「え、えーっと、あたしたちはね、高校の頃からの同級生なんだ」
「へー」
「オカルト研究会で一緒だったメンバーでね。まあオカ研っていってもあんまりまともに活動してなかったんだけど。ね、桃華ちゃん」
「そうね。部室で集まってだらだらと遊んでいるだけだったわね」
「クラスの連中の反応はウケたよな。あの姫木里桃華がオカ研!? って。俺、笑いが堪えれんかったぜ」
「大げさなのよ。まるでわたしが何か高尚な存在のように。クラスでの時間は窮屈で仕方がなかったわ」
桃華はその見た目と言動から、物凄いお嬢様なのだと周囲に思われていた。しかし、実はそんなことはない。私立校に通える程度には裕福ではあるが、ごく普通の一般家庭で生まれ育った。本人の感性も特別なものではなく、普通にクラスメイトと友達になって遊んだりしたかったのだが、遠巻きにされてしまいそれも難しくなってしまった。
そんな時、物怖じせずに話しかけてくれたのが椿だった。
椿は可愛い人、綺麗な人が大好きだ。そして本人の性格もあり、興味を持った相手にはグイグイ話しかけに行く。空気を読まないその行動を疎ましく思う者も当然いるが、逆にそれが好ましい者も多い。特に桃華は椿の行動に助けられていた。孤立気味だった桃華は、椿のお陰でストレスなく学校に通うことが出来たのだから。
「それで、顔が良い聖太と涼人も椿が連れてきて」
「みんなで遊べる部活が良いー! とかふざけたことをぬかすから、俺がオカ研を作ってやったんだ」
「あ、それマジ感謝だよ涼人君! あたし、どうしたら良いのか分かんなかったもん」
「それで……あと……」
そこまで四人で楽しそうに思い出話をしていたが、続けて口を開いた桃華の声が急速に萎んでいった。それにつられるように椿と聖太の表情も暗くなり、唯一様子が変わらない涼人がため息と共に言葉を引き継ぐ。
「それを今考えても仕方がねえ。こんな状況だ。今は自分たちのことを考えるべきだ」
「うん……」
場が静まり返る。落ち込んだ気分につられるように顔が下を向いた椿は、そんな自分を不思議そうに見上げている流凪の視線に気が付いた。話の途中で急に落ち込み出して、流凪からしてみれば意味不明だろう。首を振って意識を切り替えた椿は、努めて明るく続きを言葉にしていく。
「あはは、ゴメンね流凪ちゃん。実はね、あたしたちにはもう一人仲間がいて、その子とはここに入り込む直前くらいにはぐれちゃったんだ」
「……そう。オカ研と名乗るなら、せめて少しくらいはらしい活動をしなければと思って、オカルトに詳しい子を誘ってメンバーに加えたの」
その言葉に、自然と昔を思い出していた。
涼人が作ってくれたオカルト研究会。ただ遊びたいだけだったのに何故その名前にしたのかといえば、それが最も学校に通しやすそうだったからだ。それっぽい活動をでっち上げやすく、部室でだらだらしていても活動だと言い張ることが出来そう。多少はオカルト的な話に興味があったというのもあるが、理由の九割以上はそんな怠惰なものだった。
しかし、流石に一切オカ研としての活動をしていないのでは学校から疑われてしまう。そこで、年に数回程度は真面目に活動しようということになった。怪談話を実際に調査してみたり、心霊スポットに行ってみたり。そんな活動をレポートとしてまとめれば学校も認めざるを得ないだろうと考えたのだ。
だが、そのためにわざわざ怪談を調べるのも面倒だと思った四人は、なら最初から詳しい人物を引き入れてしまえば良いという結論に至った。そこで、教室でいつもそれらしい雑誌や本を読んでいる、大人しい女子生徒に目を付けたのだ。
最初は大して交流もないクラスメイトに急に部活に入れと言われて怯えていたその女子は、しかし活動内容を聞いて目を輝かせた。普段は部室で自由にしているだけ。気が向いたら好きなオカルトスポットに皆で行く。一人ではなかなか行きづらかった場所だって、仲間がいれば勇気を出せる。それは、オカルト好きの少女にとって最高の部活に思えた。
活動を開始したオカルト研究会は、五人のメンバー全員にとって、思っていたよりも居心地が良かった。だから予定よりオカルトスポット探索の回数も多くなっていたし、高校を卒業した後も何度も集まって遊んだり探索に行ったりしていた。
今回も、そんなオカルトスポット探索のために集まった。妖怪が住むとか、普通とは全く異なる文化体系の原住民がいるとか、そんな噂がある山にやってきたのだ。噂があまりにもバラバラで信憑性なんて一切なかったが、別にそれで構わなかった。本物のオカルトを見つけたくてやっている活動ではなく、ただ楽しむためにやっていることなのだから。
だが、気が付けばこんなことになっていた。
「はぁ……何故こんなことになってしまったのかしら」
椿の空元気も、桃華のため息に押し流されていく。結局また沈黙が場を支配した。それを今考えてもどうしようもないという涼人の意見には全員が賛同するところだったが、それとこれとは別。気持ちがそう簡単に切り替えられる訳もなく、彼女のことを思い出せばどうしても暗くなってしまう。
「見えてきましたよ」
そんな嫌な空気が一気に換気されるように、玲の言葉に全員が一斉に前を見た。




