第95話
七月に入り、街は海も川も干上がるのではないかと思うほどの暑さが重くたゆたう。
その重く暑い午後の最も暑気の濃い数時間を、全力で竹刀を振りながら過ごした太陽は、この学校にシャワールームがあることに感謝しながら、熱い湯でさっぱりと身体を洗い流した後に、結局汗のにおいがする制服のシャツをまとってから、そこに無意味にミントの香りの制汗剤を吹き付け、武道館のロッカールームを後にする。
そして、
「お疲れ様です、先輩」
武道館と部室棟の真ん中の通路で待っていたミチルの可憐な姿に、稽古疲れなど吹き飛ぶような心持ちで顔をほころばせた。
ミチルが太陽の家に居候を始めて、今日で三日目になる。
学校の行き帰りはもちろんだが、家の中まで太陽が自分と一緒にいてくれる――当然、部屋は別だが――という安心感で、ミチルはどうにか心に平穏を取り戻していた。
ネイビーのフレームの伊達眼鏡に三つ編みおさげでほんの少し雰囲気を変えたくるみにも、腰まであった長い髪を、「前からそうするつもりだった」と言って顎の長さでばっさりと切った紗雪にも、厚い前髪をカチューシャで持ち上げて額を出した祐華にも、背中の真ん中まである長いポニーテールをハーフツインにして暑い暑いと毎日呻いている凛子にもようやく意識が慣れ、あえてそうしないのか全く見た目を変えずにいるソフィアに感心しつつ、ミチル自身は毎朝、瑠菜に半分面白がられながら様々に髪型を変え、軽く化粧を施され、やはりご丁寧に黒縁の伊達眼鏡をかけられて過ごしていた。
ミチルの家にいる使用人たちとはこちらからは連絡を取っていないが、好親なりミチルの両親なりが来たときには必ず連絡を入れてくれる手はずになっており、そして今のところその連絡が来たことはなかった。
事がことだけに学校側も手をこまねいているわけではなく、校門が開いている時間帯には警備員が常駐するようになり、学校に来てしまいさえすれば怯える必要はないおかげで、太陽もミチルもここ数日をまるで疑似新婚生活でもしているような気分でいた。
ただ若干、太陽の方は平常心かと問われれば全くそうでもなく、ミチルが入った後に浸かる風呂であったり、物干しにぶら下がっている母や姉のものではない下着だったり、去年の合宿で見たときよりも肌の露出面積が多い部屋着で彼女が家の中をうろうろしていたりというところに逐一視線が引っかかってしまい、そのたびに心の中で自分の横っ面を殴っている。
それでも、朝稽古から戻って来た時に母や姉と一緒に朝食を作って待ってくれているミチルの笑顔に夜毎のもやもやは吹き飛び、こんな幸せな日々がこの先もずっと続けばいいのに、と願わずにはいられないのだった。
部室棟から校門まで歩く道すがら、二人は手を繋いで他愛もない会話を交わす。
「今日は晩飯、何作るの?」
「おかあさんとおねえさんに、餃子の作り方を教わります」
「へえ、餃子かあ……ふふふ」
突然笑い出した太陽に、ミチルは首をかしげる。
「いや、……なんだか、本当にうちにお嫁に来たみたいだな。『おかあさん』に『おねえさん』なんて言うと」
「え……あ、……い、いけなかったでしょうか……?」
「違う違う、すごく嬉しくって。……こんな状況じゃなかったら、もっと良かったんだけど」
真っ赤になってうろたえるミチルに、太陽はなおもにこにこと笑いかける。
「はい……」
こくりと彼女がうなずくと、アイロンで巻かれたツインテールの毛先がゆるい風になびいた。
それが面白かったのだろうか、太陽は不意に立ち止まると、くるくると綺麗に縦ロールに巻かれた毛先を弄んだあとに、ミチルの柔らかな白い頬をひと撫でして、また笑ってみせる。
その瞬間、ふわりと鼻先をくすぐった彼の制汗剤と汗の匂いにどきどきとする心臓に急かされるように、ミチルは思ったままの言葉を、そのゆるい風にのせた。
「でも、わたし、夢が叶いました……」
「夢?」
「はい。……先輩と一緒のお家で暮らして、一緒にご飯を食べて、同じ時間に眠って、毎日お話して、……それがわたしの夢だったんです。いつもどおりの毎日が続いて、そのまま卒業していたら、きっと叶わなかった……」
「……ミチル……」
「先輩、わたしもです。……こんなに大変なときなのに、すごく嬉しくて、幸せ……」
二人の間を、少しだけ暑さの増した風が、かすかに吹き抜けた。
そのとき、校門の方から何人かの生徒らしき声がして、太陽はとっさにミチルを背中にかばう。
「何だ?」
「……まさか……」
間違っても絶対使わないように、手に持っていた竹刀袋をしっかり身体にかけて背負い直すと、太陽は前方を睨んだ。
そして、こちらに向かって走ってくる数人の男の姿に気が付き、
「ミチル、逃げるぞ!」
片腕にしがみつく小さな身体に向かってそう叫んだ。
二人は手を繋いだまま、必死に男たちの一団から走って遠ざかろうとした。
部室棟の前を駆け抜け、砂埃を立てながら野球部に均されたばかりのグラウンドを横切って、どうにか校舎前の舗装路までは辿り着く。
しかしそこで、いつの間にか二手に分かれていた男たちの片割れが行く手を遮り、二人は脚を止めざるを得なくなる。
「そうだよな、直接学校に来て、待ち伏せすんのが一番手っ取り早いな……!」
遠巻きにすっかり周りを囲まれ、太陽が悔しそうにつぶやく。
「ミチル、俺が何とかして隙を作るから、職員室まで走って逃げろ。先生さえ呼べばなんとかなる」
彼はそう言ってカバンを盾のように眼前に構え、そのまま正面突破を試みるため、足を踏み出そうとした。
ぎゅっ、と腰に細い腕が回り、背中に柔らかい身体の感触がして、太陽は戸惑う。
「逃げません、……わたし、絶対に先輩から離れない……!」
ミチルが背中から自分に抱き着いていることに、彼は焦った。
「!……ばか、何言ってんだ、早く逃げろって!」
「いや! だって、ひとりにしたら、絶対先輩に何かするもの! あの人はそういう人よ、だから、わたしはここから離れない!」
「ミチル……そんなのどうでもいいから!」
「どうでもよくない!」
二人が言い争っている間に男たちは距離を詰めて、逃げ出す隙間はなくなった。
「……この方に何かしてみなさい、あなたたち、ただじゃ済まなくてよ……!」
太陽の背中にしがみついたまま、ミチルは小さな身体から凄まじい威圧感を放ち、周りを囲む屈強そうな男たちにそう告げる。
彼女の気迫に男たちは怯むが、
「ほう、しばらく会わないうちに随分と生意気な口をきくようになったね、ミチル君」
後から遅れてやってきた男の声に、彼らは再び威勢を取り戻した。
真夏だというのに白いダブルのスーツをベストまできっちりと着込み、目深に同じ色の帽子をかぶった、いけ好かない笑みを浮かべる男を、
(こいつか……!)
好親だと確信して、太陽は精一杯の敵意を持って睨みつける。
「こんな田舎くんだりまで来て、何をしているかと思えば……叔父様たちとの約束とは、ずいぶん違う生活をしているようだね?」
じゃり、とアスファルトの欠片を踏みしめながら、高そうな革靴が一歩近づく。
「ええ、そうよ。どうせわかりっこないもの。それが何か、貴方にとって問題あって?」
開き直ったミチルの回答に、好親は一瞬気圧された。
しかしすぐに気を取り直し、今度は太陽をじとりと睨みつける。
「……君、離れたまえ。そのお嬢さんは私の婚約者だ」
全身から住む世界が違う大人の気迫を漂わせた好親の声に少しだけ折れそうになるが、試合のときと同じようにすぐに彼は立ち直り、ぐっと臍の下に力を込めて静かに言い返す。
「……何言ってるんですか。ミチルから聞きましたよ。あなたのおじいさんが死んだから、そんな口約束、守る必要なんかないってね」
「……っ、貴様、今なんと言った……?」
自分の発言が逆鱗に触れたらしいことはわかったが、太陽はそれを取り消そうなどとは一切思わなかった。
「何度でも言いますよ、ミチルがあなたの婚約者だなんてのは……」
この男にだけは決して負けるまいと踏ん張って、彼が同じ文言を繰り返そうとしたそのとき、
「ミチル君を呼び捨てにしたな、貴様!?」
好親はひどいショックを受けたような声で、情けなく雄叫んだ。
(えっ、キレるとこ、そこ!!?)
確かに以前、名前を呼び捨てにしたのは自分が初めてだ、と彼女が言っていた覚えはあるが、思っていたポイントとは違う部分で半泣きになった相手に、太陽は思わずぽかんと口を開ける。
太陽は、背中のミチルと思わず目を合わせる。
それに『見ていて』という視線を返した彼女がするりと腕を解いて、今度は真正面から彼の胸に飛び込んでみせると、好親の口元はわなわなと震えだす。
「当たり前でしょう。わたくし、この方とお付き合いしてるんですもの」
その言葉に、好親は大いなる厄災を受けた様子で、悲しげに目を潤ませ始める。
「……嘘だ……だって、君はずっと、幼稚園から女子校にいたんだから、私以外の男と話すことなんてできないって、お祖父様が言ってたのに……だから、結婚したら私から呼び捨てにして、そしたらミチル君が私を『よっくん』って呼んでくれて……」
「……はい?」
ぶつぶつと意味不明なことを言い出した好親に、太陽は思わず妙な声が出てしまった。
(……なんか今、すげーレベルの高い妄想が聞こえた気がする)
漂っていたはずの殺気はどこへやら、微妙になり始めた場の空気に彼の顔は引きつる。
(この人の頭の中のミチルのイメージ、おかしくないか?……ていうか、どんだけミチルのこと色眼鏡で見てんだよ……なんかちょっとやばそうだぞ)
危機感に逆らうことなく、太陽は胸元にしがみつくミチルの背中に手を回し、しっかりと抱き寄せる。
そのとたん、まるで世界一の悲劇でも見ているかのような表情になった好親に、
(えええ、……この人怖……)
彼は期せずしてある種の恐怖が湧いてしまった。
「み、ミチル君を離せ……離すんだ、……この……この……」
がたがたと身体と声を震わせながら、好親は太陽を涙目でどうにか睨みつけてくる。
「いや、えっと……」
どうすればいいかわからなくなった太陽は、腕の中のミチルと再び目を合わせる。
焦った彼は、小声で彼女に話しかけた。
「どうすんだよ、これ」
「大丈夫、まかせてください」
同じボリュームで彼女の声が返ってくるが、やはりそれでも危機的な状況であることに変わりはなく、太陽はいつでもミチルを抱きかかえて逃げる心積もりを始める。
そしてひそひそと会話を交わし合うふたりに、
「さ、囁き合うんじゃないっ……! なんて破廉恥な……!」
ハンカチでも持たせたら噛みついて引きちぎりそうな雰囲気で、好親がまた声を上げる。
(うーわ、うっとうしい大人……)
こちらの一挙手一投足にいちいち過剰反応する好親に、太陽はすっかり呆れ果てて目を逸らす。
そして、思いがけずに聞こえてきた、
「勘違いしないで、好親さん。わたくしからこの方に離れないでってお願いしてますの。それにね、わたくしたち、もう同じ家で一緒に暮らしてますのよ。つまりはそういうことですわ」
ミチルのとんでもない誤解を招く発言に、思い切り吹き出してしまった。
「ちょっ……ミチル、煽ってどうすんだよ!!」
何の汗なのかよくわからないものがどっと溢れ、太陽の全身は瞬く間にシャワーを浴びた意味がないほどびしょぬれになる。
そして案の定、二人の目の前で膝からくずおれそうになっていた好親は、周りの男に支えられてなんとか体勢を立て直している有様だった。
「いいじゃないですか、本当のことでしょう? でしたら、ちゃんと教えて差し上げないと」
「いやまあ確かにホントだけど!! もっと言い方!!!」
立とうとしたとたんにまた二人の発言が刺さった好親が、ついに膝をつく。
「今日もこれから、お家に帰ったら一緒にお夕食をいただくんですの。もちろん、わたくし手作りのね。そのあとお風呂上がりに、二人で文化祭で演奏する曲をセッションして……」
太陽の抗議を無視してそこまで話しているうちに、両手を地面について完全に下を向いてしまった好親をちらと見たミチルは、一拍置いて大きく息を吸いこむと、
「……眠る前には、もちろんハグも致しますし、おやすみなさいのキスも致しますのよ。どう? 素敵でしょう?」
満面の笑みでとてつもない大嘘をついた。
「――!!!!」
太陽は自分の名前に恥じないほど、顔が赤く熱く燃え上がったのを感じた。
何か言葉を発しようと胸元のミチルを見るが、彼女は涼しい顔でどんどん先を続ける。
「どうしても寝付けないときには、一緒のお布団で横になって、手を繋いで眠りますわ。そうしたら、先輩はわたくしが眠るまでお話をしてくださいますの。もちろん、そのまま眠ってしまうなんてことはありませんわ。……わたくしのことを優しく抱きしめて、それから……」
「うわあああああああ!!! ミチルー!! も、もういいから、もうやめて! なんかもう、勘弁して! ていうか向こうもすっごいダメージくらってるから!!!」
とうとう頭から夕陽に灼けるアスファルトに倒れ込んでしまった好親を見て、太陽は心の中で自分も同じ姿勢をとりながら、ミチルの身体にしがみついてめまいを堪えた。
しかし、そこから急に好親は何かのスイッチが入ったようにゆらりと立ち上がる。
「……貴様がミチル君をたぶらかしたんだな……こんなクソ田舎の高校で、バンドなんかに誘って、俗な歌で洗脳して……私の、私だけのミチル君を貶めて……! 許さんぞ貴様あああ!!!」
その周りだけ黒いオーラが漂うかのような空気に、太陽は再びミチルを背中に庇う。
今度はミチルも抱き着きはせず、背中合わせになって周りを睨んだ。
「お前達、子供だからって容赦はするな、大人の怖さを思い知らせてやれ!!」
激高した好親が命じると、周りを囲んでいた男たちが一斉に警棒のようなものを取り出した。
「ちょっ……これはさすがにまずいぞ……!」
ごくりと唾を飲んで、太陽が顎下に垂れた汗をぬぐう。
「ミチル、俺が相手するから、隙見て逃げろ」
「いやです!」
「暴力沙汰になったら一発停学だ、いいから逃げろ、ミチル!」
「停学になるならわたしも一緒になります!」
「何言ってんだ、バカ!」
そう怒鳴りながら仕方なしに太陽が慣れない拳を構えると、周りを囲む大柄な男たちがそれに呼応するように戦闘態勢に入る気配がした。
(……推薦どころか、受験も後継ぎもアウトだな、これは)
自分の将来の何もかもと引き換えにミチルを守る決意を固め、太陽が捨て鉢になったその瞬間、
「動くな!!」
興津のよく通る大きな声が聞こえてきて、思わずみんながそちらを見た。
生徒からの報せを受けたのだろう、数名の男性教員がばたばたと走ってくる。
「くそっ、お前らどうやって入った!!」
「警備員は何やってたんだよ、もう!!」
藁科と大井が大声で文句を言いながら、先を走っていた興津を凄まじいスピードで追い抜く。
「ふざけたもん持ち込みやがって、うちん生徒に怪我ぁさせる気か、こん畜生!!」
大井はそう叫びながら、次々と竹刀で武器だけを見事に叩き落とし、
「不法侵入で警察には連絡済みだ、観念しろ!」
藁科が手近にいた男たちの手首を軽々と捻り上げる。
「警備員が役立たずでも、教員まで舐めてもらっちゃ困るね!!!」
すぐに二人に追いつき、一回り大きな身体の相手に出足払を綺麗に決めてから毒づいた瀬戸が、太陽とミチルの無事を確認して笑う。
がらがらん、と派手な音を立てて金属の棒が次々と地面に転がり、自分たちを囲っていた緊張の輪が崩れたのを見て、太陽は構えていた手をふっと緩めた。
その隙をついて、
「さあ、東京に帰るんだ、私の――」
太陽の身体を追い越して、獲物を捕まえるような顔をした好親がミチルに手を伸ばした。
(しまった……!)
太陽は思わずその腕を掴もうとする。が、
「うわっ」
好親の腕は、嫌悪の表情でひらりと身をかわしたミチルの数センチ脇で虚しく空を切り、汗がぐっしょりと滲んだダブルのスーツの背中は地面にそのまま転がり落ちた。
「汚い手でわたくしに触らないでくださる? ほんと、無礼なところもお祖父様そっくり」
心底嫌そうな声色でそう言い放つと、今まで見たこともないような冷たい目でミチルは好親を見下ろす。
「貴方は昔からずっと、わたくしのことを、お人形か何かだとしか思ってらっしゃらないのね。……わたしは人間よ。絶対に、貴方の思い通りにはならないわ」
打ちのめされ過ぎて無になった目でアスファルトの上に倒れている好親を見て、うんざりした様子のミチルに太陽は歩み寄ると、彼女の怒りに震える肩を抱いてそこから離れた。
「だめだろミチル、何も勝算がないのに嘘までついて、あんな煽り方したら……」
すっかり乱れた髪を丁寧に撫でてやりながら、太陽は深いため息をつく。
「だって……あの顔を見てたら、まるで目の前にお祖父様がいるような気がして、すごく嫌だったんですもの……」
あらゆる負の感情が溢れ出すかのように、喋りながらぐすぐすと涙ぐみ始めたミチルの両肩を、彼はそっと手で包む。
「本当にもう……『まかせて』じゃないよ、まったく……先生たちが来てくれなかったら、マジでやばいこんになってたぞ」
「ごめんなさい……」
「よしよし、……もうあんな無茶するなよ。俺、びっくりしちゃったっけ」
うなずきながら倒れ込むように自分の肩に身を預けたミチルの背中を、太陽は小さな子供をあやすときと同じリズムで、ぽん、ぽん、と優しく叩いた。
そして、
「……でも、したかったらしてもいいんだぞ、おやすみのハグとキスくらいなら」
乱れたままの巻き髪が躍る薄い耳元で、彼は本当に小さな声で囁く。
「!」
ぱっと頬を染めて顔を上げた彼女に、
「嘘は良くないからな、ホントにしちゃえばいい」
そう言って彼はくすくすと笑った。
そのとき、遠慮がちな咳払いが、二人の背中から聞こえる。
「あー……島田、菊川」
非常に気まずそうな興津に声をかけられ、太陽とミチルは一瞬で我に返ると、顔を赤らめながら慌てて適度に距離をとる。
「話し中に悪いが、……その、不法侵入ではない方のお客様がお見えでね」
「えっ?」
困ったような表情を浮かべる彼の後ろから、革靴とハイヒールの足音がする。
「好親君から連絡を受けて来てみれば……ミチルさん、これはどういうことだ?」
「ミチルちゃん、あなたいったい、好親さんに何をしたの?」
「お父様、お母様……!」
上品なサマースーツ姿の男性と、涼やかなレースのワンピース姿の女性を見て、ミチルが息を呑む。
そして、
「ミチルちゃん、太陽先輩!」
「二人ともケガはないか!?」
「いったい何があったの!?」
騒ぎを聞きつけてやって来た軽音楽部員たちまでそこに駆け込んできて、辺りは混沌とした。




