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呆気ない結末を迎えた「日本刀連続殺人事件」の解決から数日後。
僕と城戸口杏奈は――藤崎沙織のマンションにいた。当然だけど、テーブルには藤崎沙織もいる。
藤崎沙織は、スイカを食べながら話す。
「――それで、あの後どうなったのよ?」
事件の顛末について説明したのは、僕の方だった。
「ああ、沖野聡一は殺人の罪で現行犯逮捕された。銃砲刀剣類登録証を持っていたから銃刀法違反には抵触していないんだけど、それでも矢っ張り刀で人に危害を加えることは――あってはならないと思う」
「それはそうよね。仮に私がそういうモノを持っていても、『これは危険物だ』って分かるんだからさ」
「確かに。――でも、中々面白い推理ショーだったって杏奈ちゃんから聞いてるわよ?」
藤崎沙織の言葉に対して、僕は――謙遜した。
「そんな大それたモノじゃない。僕はただ、杏奈の手助けをしただけだ」
「なるほどねぇ……まあ、いいんじゃない?」
城戸口杏奈が、僕と藤崎沙織の会話にツッコミを入れた。
「それ、マジで言ってんの? まあ、絢ちゃんがいなければこの事件は解決するどころか、迷宮入りしてた可能性も考えられるけど」
それはそうか。――僕は、城戸口杏奈の言葉にそっと頷いていた。
テレビからは、昼のワイドショー番組が流れている。コメンテーターが、一連の事件について解説していた。僕は事件の仔細を知っているので、コメンテーターの的外れな意見を――鼻で笑っていた。
それはそうと、僕は藤崎沙織に――例のことについて聞いた。
「沙織、少しいいか」
「冬ちゃん、急にどうしたのよ?」
「あの時、どうして――京都に来られなかったんだ」
「ああ、事件を解決した日ね。――ゴメン、ちょうど父親とビデオチャットしてたの」
「ビデオチャットか。――どういう用件だ?」
「これ、冬ちゃんに説明しても大丈夫かしら?」
「ああ、余程のことがなければ」
しかし、藤崎沙織の説明は――僕が考える「余程のこと」に抵触していた。
「実は、冬ちゃんから見て祖父に当たる人物――冬月定雄さんがもう長くないのよね。定雄さん、末期の胃癌なのよ」
「……、そうか」
冬月定雄。――僕の祖父に当たる人物である。彼は冬月家の現在の当主であり、僕に対して悪魔祓いのロザリオを託した張本人でもある。厳格な性格をしているが、僕が不登校だったことを知っているから、その件に関しては見逃してくれていた。
そんなおじいちゃんが、危篤状態? しかし、今更実家に帰ったところで、僕は歓迎されるのだろうか? 多分、「帰ってくれ」って言われるのがオチだろう。
それでも、僕は実家に帰るべきか。主治医が藤崎医院なら、お見舞いも行きやすいだろう。
「――沙織、僕は豊岡へ帰るべきだろうか?」
僕の質問に対して、藤崎沙織は覚悟を決めて答えた。
「帰った方がいいと思うわ。多分、定雄さんは喜ぶはずよ?」
――ああ、そうなのか。矢っ張り、帰るべきなのか。しかし、僕はここ5年――未知の疫病が発生してから――豊岡に帰っていない。一応、ビデオチャットで両親の顔は見ているが、それでも物理的な接触を取っている訳ではない。
色々と考えた結果、僕は――決めた。
「――ここは、沙織の意見に従うか」
僕の答えに対して、藤崎沙織は――喜んだ。
「そうね。『冬ちゃんが来た』って知ったら、定雄さんの寿命も少しは伸びるんじゃないのかなって思って。『犯罪者の未亡人』として冷たい目で見られるから、私は豊岡へと帰れないけど――冬ちゃん、詳しいことは追々ビデオチャットで説明してほしいわ」
「分かった。明日にでも、豊岡へ向かおう」
「そうね。早ければ早いほどいいわ」
そういう訳で、僕は――急遽、里帰りをすることになった。スマホの日付を見ると、2024年8月23日(金曜日)と表示されていた。
*
翌日。僕は――バイクのギアを入れていた。万が一のために喪服も入れようと思ったが、それは実家でも間に合う。
カワサキグリーンのバイクに跨り、2号線をひたすら西へと向かう。本来なら高速道路に乗るべきだろうけど、それは姫路からでいいだろう。
姫路に着いたところで、僕は――高速道路へと上がった。確かに、バイクなら下道の方が良いのだけれど、その日は急いでいたので仕方がない。
バイクは中国山地を抜けていく。その風は、心地よいを超えて吹き飛ばされそうになる。
やがて、中国山地を抜けて生野の方に入ると――風は止んだ。生野から豊岡まではすぐなので、僕は法定速度を守った上でギアを上げていった。
高速道路の終点で降りて、僕は――豊岡のちっぽけな風景に失望した。子供の頃の僕は「豊岡で見えているモノ」が答えだと思っていたけど、それは間違いだった。「豊岡で見えているモノ」は箱庭の中の景色でしかなく、神戸や芦屋、西宮と比べると――あまりにも小さな世界である。
シャッター街を通り越して廃墟と化した駅通りを通りつつ、僕は実家の方へと向かう。僕の実家は花街の名残がある場所なので、スナックだったモノが看板を外して鎮座している。
そして、スナックだったモノの並びから右に曲がると――古びた鉄筋コンクリート造りの家が建っていた。それこそが僕の実家であり、冬月家の本来あるべき場所でもある。
恐る恐る、僕はインターホンを押していく。
インターホン越しから、母親の声がした。
「――あら、絢華。帰ってきたん?」
「帰ったで。何か悪いんか? それはともかく、おじいちゃんが危篤ってホンマなん?」
「せやで。――まあ、中に入って」
そういう訳で、僕は――およそ5年ぶりに実家の中へと入った。
To Be Continued……




