第60話 サンドウィッチ
第60話 サンドウィッチ
『角を切り落とせばよかった?』
『あんたこれ....』
『ひょっとして、バケットサンドの方が好みだった? 私も固めのバケットサンドが好き。でもユエルが病み上がりなんだから柔らかいものを持って行ってって言われた』
プルエアにその入れ物を渡すとキノがその中の物を一つ取り出し、自分の口に運ぶ。歯切れのいいレタスの音が心地よく、病み上がりの身体では噛み切るのが大変なほど分厚いベーコンが挟まれたサンドウィッチを頬張る。
『ひょっとして、これを届けるために? 私を殺すんじゃなくて....?』
『何か物騒?どうしてそうなった?』
『だって、私....ゲルドと一緒に調子に乗ってあんたのこと散々馬鹿にしたし....』
『それは、パーティに入らないとプルエアの家で生産してるお酒にケチを付けるって言われたから。内心では嫌っていたって知ってる』
膝の上に乗せたサンドウィッチのケースに視線を落とすと涙がじんわりと目の奥から湧き出てきた。
『馬鹿なんじゃないの? 何でそんな事知ってるのよ?』
『別に....普段の仕草で分かる。いつもプルエアワインを飲む時、ゲルドを憎しみが篭った目で見てたし。私のことを一緒になっていびった後に路地でこっそりと泣いてたの知ってる』
『本当に馬鹿なんだから....』
『お互い様でしょ? いじめて泣くぐらいなら最初からしなきゃいいのにってずっと思ってた』
安心したようにそう言うと、次々と小さい口の中にサンドウィッチを詰め込んでいく。
『それと、あんたは何でそんな格好してるの?』
『メイドとして働いてみたかった。服可愛いし』
服を誇張するように部屋の真ん中で身体を回転させ、スカートをフワッと膨らませると満遍の笑みでプルエアを見つめる。
『はいはい。そう言うの良いから。本当のことを言って頂戴。普段、見た目なんて気にしないあんたがそんな事言うなんておかしいのよ』
全てを見透かしたように脚を組みキノを睨みつけながら低い声で威嚇する。
『実は、ラウンジで金を盗んだは良いけどちょっと罪悪感があったからせめてプルエアの怪我は直してあげようかなって思...』
『あれ、あんただったのか!!』
勢いよく立ち上がり、キノに迫ると柔らかい両頬っぺたを思い切り抓り引っ張る。
『痛い!痛い!』
『あの時大変だったんだからね! みんな大した持ち合わせもなくて本当は探索が失敗してたんじゃないかって噂されたし!面子が丸潰れよ!』
『潰れたのは面子だけじゃないけど....』
『え?』
『ゲルドのパーティ無くなった。冒険者に対する損害が払えなくなって』
『それって本当?』
力強く頷くと頬っぺたから手を離し、その場で地面にお尻をつけてプルエアが座り込む。
『やっと開いた....って、どんな状況ですか?』
せっせと扉の前で解析の魔法が刻まれた聖典を開き、解錠を目指していたようでその成果が実り結ばれた布がハラリと床に落ちる。
『どうしよう....仲間内では2回もダンジョン攻略に失敗した事になってる....そんな無能なパーティの魔法使いを雇ってくれる所なんてない』
『そうでしょうね。世間ではそう言う事になってる。冒険者としてはおしまい。無能の烙印を押されてるんじゃ無い?』
『ちょっとキノさん!! 病み上がりの人にそこまでの現実を直視させなくても....。それに2回目の失敗のその原因は....』
躊躇なく、現実を次々と口にするキノに対して申し訳なさそうにユエルが口を開いた。
『え? 何? どう言うこと?』
『どう言う事も、何もゲルドのパーティを全滅させるように仕向けたのは私。私が育った孤児院に嫌がらせさてきたからとっちめようと思った。あのドラゴンの上位種の魔物も私が罠として仕掛けたやつだし....』
『あんたが原因か!! 一度ではなく、2度までも!! どうしてくれるの? 私の面目も丸潰れじゃん!』
『冒険者としては丸潰れどころか、2回も連続して攻略や探索で失敗してたら疫病神扱いされててもおかしくない。だから、こう言う事にしといた』
胸元から丸く筒状にした新聞を取り出し、プルエアに渡す。
『何これ? 滅茶苦茶良い美談になってる。これで罪滅ぼしをしたつもり?』
『まさか? こんな美談じゃお腹も膨れない。本当の罪滅ぼしはこれから....』
話終わったぐらいの時に廊下からドタドタと音が聞こえる。
『プルエア様!! 失礼します!! 大変です、直ぐにお庭にいらして下さい!!』
肩を弾ませながら率先して身の回りの世話をしてくれたメイドが部屋に入ってくる!
『どうしたの? そんなに慌てて....』
『はい、じゃあ、急いで庭に行くよ。準備して....』
一人だけ状況を把握しきれないプルエアを置いてきぼりにしてキノがクローゼットの中を物色する。
『ちょっと!! 勝手に何してるの!!』
『うん? それじゃ寒いと思って』
まったく意に介さない様子で紫色のカーディガンを引き出し、プルエアに無理矢理羽織らせる。
『じゃあ,行くよ』
『え! ちょっと!』
説明する事なく、プルエアの手を引っ張り全員で庭へと向かう。




