第59話 頑なに
第59話 頑なに
「プルエアさ~ん!! どうしました? お腹でも痛いんですか~?」
部屋中から全員出された後、ユエルだけが空気を読めないのか、扉を叩く。しかも、ただ叩くのではなく拳を力の限り丸めて思い切りだ。これで、悪意など全くないと言うのだからもはや清々しい。
「うるさいな! あっち行けよ!」
ベットにうつ伏せになりフカフカの大きな枕を頭の上に被り、目の周りが赤くなるまで泣いていた。
プライドが高く、弱い部分を見せてしまった悔しさから抜け出せないのだ。さっきの出来事を思い出すだけで、手足をバタバタとさせ悶えていた。
「何で枕被ってるの?」
「だって泣いてるところなんて誰にも見られたくない....」
そこまで言った後に違和感を感じる。メイドとキノ、ユエルを追い出した後部屋には内側から鍵をしっかりと掛けた。
なのにも関わらず、部屋の中で思い切り返事をしてしまった。
枕から顔を出し、確認するとメイド服を着たキノがベットの真横に達、覗き込んでいた。
「何で部屋の内側にいるの!?」
「扉に手を触れて遊んでたらなんか入れた」
右手の人差し指を天井に向けそう言うのだが、よく見ると指の先には魔力でできた糸が巻き付けてあり鍵の形をしている。
「何扉勝手に開けてるのよ!! 戻りなさい!!」
「アーレー」
ベットから跳ね起き、キノの身体を押しながら廊下へと戻す。キノも抵抗することなく、あれよあれよという内に部屋の外へと容易に追い出された。
もう一度部屋の扉に鍵をかけると手癖の悪い鍵っ子でも開けられないようにクローゼットの中から魔女帽だった黒い布を両開きの扉の持ち手の部分にぐるぐると巻き付けて開かないようにする。
再びベットにうつ伏せになり、枕を頭の上から乗せるとぼーっと扉の方を見つめる。
開くことはないのだが、強い力で押しているのか、中を見れるには値しないほどの少しだけ隙間が見えていた。
「諦めて帰りなさいよ!! なんなのあいつら?」
色々な葛藤が胸の中で燻る。弱味を見つけに来たのか? それとも、気に入らない自分を殺しに来た? そんな想像が膨らむ。
「ん?」
風が吹いている様子はない。しかし、窓からギシギシと音がする。
寝返りを打ち、見てみると屋根から垂れたロープにしがみ付いて宙ぶらりんになっているキノがいた。よっぽどバランスを取るのが下手くそなのか、そよ風程度の力でも身体は右へ左へ振りこのように振られている。
「今度は何してるのよあんた!!」
想像していなかった大胆不敵な行動に肝を冷やす。
身体を少し傾けただけで、姿勢が不安定になり今にも落ちそうなのだ。壁に足を伸ばし蹴った時の勢いで状況を打破しようとしているのは分かるのだが、一向にプランプラン。ただ、時間だけが流れていくのだ。
「もう見てられない!」
目を手で覆い隠すのだが、隙間からついつい見てしまう、プルエアの好奇心をくすぐるには充分すぎるアピールであった。
しばらくすると、キノが片手をロープから離し虫を払うような手つきを見せ口を動かす。
「何やってるの! 両手でしっかりとロープを掴んでなさい!!」
互いの声は窓ガラスに阻まれて全く聞こえない。
僅かにキノが微笑んでお腹に力を入れて足を窓ガラスに付ける。
「え? 何するつもり?」
そう口走った時にはもう遅い。
膝を曲げ窓ガラスを思い切り足で押すと振り子のようにキノの体が遠くなっていく。今まで時計の振り子のように綺麗にプランプランしていたキノの身体が遠くなり小さく見えた次の瞬間には息を呑む。
そして、ロープを掴んでいる限りキノの身体は戻ってくるわけだ。だが、どうなったのか気になる。急いでその窓に駆け寄ろうとすると、キノが窓ガラスを蹴破って入ってきた。
散ったガラスが雪のように部屋の中で舞い散る。
純度の高いこの屋敷自慢の限りなく透明なガラス。それを何の躊躇いもなく、蹴破って勇ましく入ってきた。
部屋の中心に跪くように着地したキノは傷一つ負ってない。それどころか、髪の毛にキラキラとした小さな破片がくっ付き幻想的な出立ちさえ感じる。
胸元を漁り、ながらゆっくりと近づいてくる。フラフラと歩く様子もなくただ、まっすぐとその足取りに迷いは感じられない。
(暗器!)
死を覚悟して力一杯に目を強く閉じ願う。死にたくないと。人に流され、散々身勝手なことをして人の反感を買う事も沢山してきた。だが、この想いだけは流されることの無い自分自身の想いだ。
「どうかした? これ怖いの?」
「怖いに決まってるでしょ! そんなとんがっているやつ好きな人なんて変人よ!」
「貴族はこんなのが怖いの? こんなに美味しいのに」
「え?」
話が何か変だ。勇気を振り絞ってゆっくりと目を開ける。
するとそこには、良くできた彩豊かなサンドウィッチが綺麗に並んだ籠をキノが差し出していた。確かにトンガっては居るものの、これを怖がる人は皆無に等しい。嫌いな人は少なからず居るとは思うが、これに一々命の危険を感じる者の方が明らかに少ないであろう。




