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[朝は男で夜は女!?〕異世界逆襲談 貴族パーティから追放された平民のアサシン。屈辱を与える為の成り上がり  作者: ディケー
忘草編

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第524話 段取り

第524話 段取り


「別にいいだろ? さっきみたいに困った時は頼りに来て、それが終わったらお礼を言う。人として当たり前の行為だ」


 デンケンがぶっきらぼうにだがどこか温かみのある声でそう言った。その言葉は、張り詰めていた場にすっと風を通すような、不思議な説得力を持っていた。


 その言葉を受け、おっちゃんは小さく息を吐き出す。 胸の奥に燻っていた迷いや気負いが、デンケンの飾らない一言で綺麗に消し飛んでいくのを感じていた。


 デンケンはエナの横顔を見る。彼女は優しく微笑みながら、深く頷いてみせた。その信頼に満ちた視線に背中を押され、デンケンはしっかりと前を向き、決意を込めて口を開いた。


「分かりました。では、私達は技術でこの都市に貢献します!」


 少年の純粋で力強い宣言に、エナは目を細めて満足そうに微笑んだ。


「それでいい。キノもそれくらい気楽な方が好きだしね」


「まぁ、俺達がキノ姉ちゃんの理想を勝手に決めてる可能性もあるけどな?」


 デンケンが少し照れくさそうに頭を掻きながら、いたずらっぽく笑う。憧れの存在であるキノの背中はあまりにも大きく、自分たちが彼女の思想を正しく理解できているのか、時折不安になることがあったのだ。


 そんな少年の取り越し苦労を突き放すように、エナは楽しげに肩をすくめてみせた。


「どちらかというと、キノが私たちを勝手に決めてるかもね。孤児院で暮らし始めたばかりの時、何か手伝おうとしたりしたら『好きなことしていい』って度々言われたし」


「確かにそうだったな……。別に俺らは、好きに孤児院の役割を担っていたから、ある意味では最初から自由にしてたよな」


 過去を思い返すように視線を彷徨わせながら、デンケンが同意する。あの日々、義務や強制ではなく、自分たちの意思で誰かの役に立とうとしていた。それこそがキノの与えてくれた「自由」の本質だったのかもしれない。


「なら、いいでしょ。キノ自体が、私たちに好き勝手やるためにこの都市を作ったなら、とことん好き勝手しちゃお!」


 エナは悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべ、拳を握ってみせる。その突拍子もない前向きさに、デンケンは呆れ半分、感心半分といった風に息を漏らした。


「まぁ、エナ姉ちゃんは、キノ姉ちゃんが俺たちのために作ったような街をあっさり捨てて、キノ姉ちゃんを追いかけて行ったもんな。本当に思い切りがいいよな」


 からかうようなデンケンの言葉にも、エナの表情が揺らぐことはなかった。むしろ、その瞳にはいっそ清々しいほどの確固たる光が宿っている。


「私は好きでキノのためになる事をしたいの。不自由を楽しむのだって、自由の一環でしょ?」


 不自由すらも己の選択であるならば、それは至高の自由である。そのあまりにも強烈で、同時にどこまでも純粋なエナの哲学に、おっちゃんは一瞬呆気にとられた後、豪快に膝を叩いた。


「確かに!! すごい分かります、それ!」


 デンケンの言葉にエナが返し、そして最後に感銘を受けたおっちゃんが深く肯定する。そこには立場や年齢を超えた、奇妙な一体感が生まれていた。三人から自然と笑い声が漏れ出し、「アハハ」と明るい笑い声が響き渡る。しばしの間、穏やかな時間が彼らを包み込んだ。


 しかし、デンケンが不意に表情を引き締め、喉を鳴らしたことで、空気は再び真剣なものへと戻っていった。


「ただ、今回はあまりにもやってしまったことが大きすぎる。いくら無知だったとはいえ、『知らなかった』では済まされないレベルだ」


 指摘は重かった。今回の騒動は、一歩間違えれば都市全体の存続に関わる致命的な問題になりかねなかったのだ。深く反省したように視線を落とすおっちゃんを見て、エナが話す。


「なら、知識を得るために講習を開こう。もともとこの街は、回復術師に役割を与えて食べさせるために作った街だしね。しっかり働いてもらわないと」


「なるほどな。確かに今回も、冒険者特有の知識さえあれば未然に防げたもんな。……でもさ、あの姉ちゃん達で本当に大丈夫か?」


 デンケンが眉をひそめ、不安げに尋ねる。彼の脳裏には、都市で暮らす回復術師の女性たちの姿が浮かんでいた。


「どういう事?」


 エナが小首を傾げると、デンケン記憶を掘り起こすように言葉を紡いだ。


「いやさ、孤児院に来たばかりの時は、みんな色々手伝ってくれてたりしただろ? だけど今は……何て言うか、ヒトミ達と一緒に服作ることしかしてないじゃないか。ちょっと手持ち無沙汰というか、能力を宝の持ち腐れにしてる気がしてよ」


 その言葉を聞いたエナの瞳が、ふっと鋭い輝きを帯びた。彼女の頭の中で、バラバラだったピースが急速に組み合わさっていく。


「それは勿体ないね。……ねえデンケン。さ、組織作っちゃいなよ。治安維持組織みたいなやつをさ」


「えっ、俺が!?」


 突然の指名に、デンケンは驚きのあまり声を裏返らせた。自分の胸を指差す少年に、エナはニヤリと笑いかける。


「そう、あなたよ。魔法を使うのも上手だし、何より今回みたいに、困っている人を助けるのが好きでしょ?」


「そりゃ、好きだけどさ……。でも、ただ助けるだけじゃ、組織として長続きしないっていうか、なんというか……」


 デンケンは腕を組み、うーんと考え込む。単なるボランティアでは限界がある。持続可能な形にするには、何かしらの明確な強みや恩恵が必要だ。思考を巡らせるデンケンの視線が、おっちゃんへと向く。


「そうだ! 一応は魔物と戦えはするんだよな?」


「ん? ああ、戦えはするけどよ……正直、まともに戦えるのは弱い奴相手だけだぞ? 手練れの冒険者みたいにはいかねえ」


 おっちゃんが自嘲気味に笑う。だが、デンケンの顔には、先ほどまでの迷いは一切なかった。彼の脳裏には、素晴らしい閃きが宿っていた。


「大丈夫!! さっきの話を組み合わせるんだ。回復術師の姉ちゃん達に、『着ているだけで傷が治るような魔法の服』を作ってもらうんだよ! それを俺たちが預かって、暫くはみんなを助けながら、その服を配るようにする。そうすれば、戦う時の安全も確保できるし、みんなの役にも立てる!」


 デンケンの瞳が、新たな可能性にキラキラと輝き出す。その無邪気で、しかし驚くほど理にかなった提案に、おっちゃんは目を見開いた。


「おいおい、そんな都合のいい服が作れるのか……?」


 半信半疑のおっちゃんを余所に、エナはデンケンの成長を確信するような、ニンマリとした深い笑顔を浮かべた。


「うん。そんな上手く出来るわけないと思うけど、おもしろそうだから、全力でやってみて!」


 エナの言葉は、懐疑ではなく、挑戦を促す最高の応援だった。失敗を恐れず、まずはやってみる。それこそが、彼女たちの流儀だった。


「うん! 絶対に形にしてみせるよ!」


 デンケンの顔に、少年のものらしい無邪気な、そして確かな自信に満ちた笑顔が咲いた。


 都市の治安維持、そして回復術師たちの新たな役割の創出。壮大な段取りの第一歩が、いまこの場所から始まろうとしていた。デンケンの胸には、かつてないほど熱く、新たな目標の炎が燃え盛っていた。

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