第523話 理想像
第523話 理想像
「アハハハハ!また何か見つけたりしたら俺達に言いにきてくれよ!大体はいつもの家に居るから!」
「ちょっと!本当に降ろしてくださいよ!!」
その場を心の底から楽しむデンケンとその場から一刻も早く逃げ出したいエナが対照的であった。デンケンが馬鹿みたいにでかい声で喜びに浸っているのに対し、自分の力が過大評価されてしまったエナは萎縮しているようにも見える。
「よし、お前らこんなもんでいいだろ!!!そろそろ下のやつを上に運ぶぞー!」
「「「了解!!」」」
おっちゃんが場を解散させると各々滑車ロープや壁を伝って下まであっと言う間に降りていく。
土竜の残骸は熱を帯びかなり熱くなっていたようで各々が持っている魔石を使って冷ます。その手際は慣れないながらも試行錯誤して行われていた。
「今回も申し訳なかったな。地下の土には手付かずの資源が沢山含まれる。死んだ生き物の亡骸から取れる魔石がいい例だが、今回もやり過ぎたようだ」
「今回はちゃんと俺を呼んでくれたし大丈夫だよ!!それよりもっと地下都市を一緒に大きくしていこうぜ!」
上に残ったおっちゃんとデンケンが熱い言葉を交わす。
「だけど、もういい。地上にいた頃から好きな仕事に熱中して納期を延ばしてでもいい仕事をしようとして沢山の人に迷惑を掛けた。そんな俺を受け入れてくれたキノ様にも申し訳が立たないからな」
「そんな事言うなよ、おっちゃん!!おっちゃん以上に技術がある奴なんていないだろ?ここの地下の壁、違う場所では他の奴らが掘って拡張してるけど、崩落も多発してる!そうならないように補強したり空気の通り道の確保が一番上手い現場はここなんだからさ!」
「もういいんだよ」
デンケンが思っていたことを語るが何も響かない。
「デンケン、やめなよ。本人がもういいって言ってるならもうそれでいいんだよ」
「でもさ!!」
「やる気ない人が中途半端にやる仕事が一番危険なのデンケンも知ってるでしょ?自分にとっても周りの人にとってもさ」
「そうだけどさ....」
以前自分だけがやりたい事をやることになったが周りが全く付いてこず、作業を振っても高いパフォーマンスを発揮することがなかった事を思い出す。
「それに、キノは貴方のこと知らないだろうし」
「え?まぁ、そりゃあそうですよね。キノ様が開いた地下都市に勝手に私たちがお金を払って住んでいるだけですし....。拡張工事だってお願いされたとかではなく我々が広くなったらいいなと思ってこちらから申請をデンケンさん達にした訳ですし....」
「そのキノ様って言うのやめてもらっていい?」
「ですが....」
「私にとってどんなに偉くなってもキノはキノでしかないんだよ?勝手に崇拝するのやめてくれない?」
「ですが、私たち居住者にとっては領主様とそれを支えるエナ様達の存在は神にも等しいと....」
「あぁ?そんな事知った事じゃねーんだよ!!」
「ひぃっ!!!」
エナが顔を強張らせゴミを見るかのような威圧的な眼差しで尻餅を着き怯み切った炭鉱夫を仕切るこの場で一番偉い人を鋭い眼光で見る。
「よく聞いてくださいね。勝手に上からこっちに来て生きる意味が見つかったとか、キノのために勝手に色々なことをやるのはいい!なのに、勝手にキノを神格化するのやめてくれない?」
「何故ですか!!?我々はキノ様以外も崇拝しています!!」
「やめてくれない?私たちは私たちで安全に暮らせる場所があればいい。それを確立するためにこの都市を作って好き勝手にやる。ただそれだけ」
「だったら、我々もそれに乗じて皆さんを崇拝したって問題ないでしょう!!!」
「嫌なんだよ!!みんなが私たちを勝手に崇めるのは勝手だけど、それは貴方達が謙る理由にはならないし、みんなと同じがいいの!」
「え!?そうなんですか!?」
「そうだよ!!それに貴方のこと、キノは知らないと思うから、いくら崇拝したって意味はない!勝手に私たちに希望を抱いて私たちの自由を奪おうとしないで!」
「別に自由を奪おうとは....」
「してるでしょ!?こうあるべきって勝手に理想を掲げているだけで息苦しいの!!」
「それはすみません。では、どうすれば?」
「どうもしなくていいんだよ!!この都市では好きな事を好きなだけすれば良い!あまりにもそれが度が過ぎてる犯罪なら私たちがそれぞれ個人の範囲で粛清するし、頑張ってる人にはお礼を言う!それだけ!」
「そんな簡単なことでいいんですか!?拍子抜けと言うか....」
自分に生きる意味を与えてくれたのだから、自分もそれ以上の物を勝手に還元しなければいけないと思っていたおっさんにとって信じられないことであった。
やるべきことはもっと簡単で単純だったのだ。




