第519話 抵抗
第519話 抵抗
その中にリザードマンを立たせるとマジックバックから鶏肉を取り出し固定術式の中に放り投げ魔力を流すと剥き出しの腕の骨に新たな腕を作る。
それを何度がリザードマンが不思議そうに手を握ったり開いたりして感触を確かめる。
気に入ったのか表情が明るくなりリザードマンがその場で軽くジャンプしてみせた。
その様子に満足するが、頭の中では次の一手は効果があるのかと自問自答する。
「今度は肩周りの余計な筋肉を減らしてスピード特化にしてみたよ。これでさっきと同じように戦ってみて」
人の言葉を理解し、発することができないのは理解している。それでも、どんな風に作り変えたのか?どんな風にして欲しいのかを身振り手振りを交えて可能なら限り伝えようとする。
エナの真剣な表情と何かを伝えようとする様子に何か感じるものがあったのか説明が終わると力強く頷く。
口にすることで魔法の成功率や精度を高める言霊魔法。それは命令文を書くときにも適用される。
エナが付けている魔力を溜め込む指輪の3個目が黒ずみ、その命令は杖を通してリザードマンの頭に軽く翳す。
素手でやるよりも早く命令が伝達し、水のように頭の中へと入っていった。
そして、土竜に向かって行く。
「大型のあの子達を作り出すのに身体の魔力をほとんど使って、フォレストバットの維持に魔力が貯められる指輪2つ。組み替えで今1つ使って、2つは外に出た時に使ったから残りは維持の為の2つ。こんなことなら、キノに1つ渡さなきゃ良かったかな?ブレスレットは最近魔法使いすぎて貯められてないしな....」
訝しい顔でキノと一緒に買ったブレスレットに触れると魔力などほとんど残っていなかった。
「いや、右手だけじゃなくて左手用も買っておけば良かったな!」
キノに1つ渡したのを後悔はしない。例えここで朽ち果てようと、キノに渡した魔力はいつかキノを助けてキノの一部に成り変わるのだと確信している。
エナが修正したリザードマンの動きは非常に滑らかで先程よりも機敏に動く。
しかし、明らかに倒し切るまでの火力はない。
「デンケン、もういいや。リザードマンが動けるうちに撤退しようか?」
「なんでだよ!エナ姉ちゃん!?もう少しで倒せそうだろ!!」
「悪いけどもう魔力が身体の中に無いの!思ったより修正で魔力使うし、後は小さな指輪2本分だから、フォレストバットの維持もそろそろまずいの!」
「こいつはどうするんだよ!?」
「炭鉱夫の人たちが住居区まで人を呼びに行ってくれてる!それを信じて上がろう!」
「分かったよ....」
任せろと言った手前、討伐できずに悔しいのか唇を強く噛み締め歯切れ悪くも撤退に賛同する。
二人がリザードマンに任せてゆっくり飛び上がる。フォレストバットもその動きに合わせて上へと向かうのだが、エナの脚に生暖かい感触がする。
「え?」
それが何かを確認する暇もなくエナだけが瓦礫の散乱する底に叩きつけられる。
「エナ姉ちゃん!!」
デンケンが心配そうに言ってもフォレストバットの命令はエナが行っており上昇は止められない。
「あー....ここ....何処だ?頭....ドクドクする」
エナが叩きつけられた身体を起こして立ちあがろうとするのだが、真っ直ぐ立ち上がれずに再び力なく崩れる。
どうにか膝を降り地面にお尻を着けて座ると、背中に付いていたフォレストバットの残骸がポトリと落ちる。
「そっか、ベロ絡み付けられたのか....」
脚に絡みつき斬られたベロはエナが握った小さなナイフで反射的に切断はされているものの、残骸はまだエナの足に巻きついていた。
それを力をいっぱいいれて取り外し、まだビチビチと活きがいいベロをマジックバックへとしまう。
土竜の方を見ると、リザードマン2体が戦っていたが、一体がベロで串刺しにされる。その後エナの残りの指輪の1つが急速に黒ずみ、リザードマンの身体の傷が塞がるが、明らかに腕や脚が先程よりも細い。
指についた最後の指輪を静かに外す。
「せっかく私を助けてくれた貴方達には悪いけど、デンケンが上に辿り着く前に魔力を使い切る訳にはいかないの。眠ってね」
エナの近くにいたフォレストバットと戦っていた2体のリザードマンの身体が動かなくなりその場で材料の骨と肉に分解される。
「私はどうなるかな?やっぱり食べられちゃうかな?」
そんなことを考えながら最後の指輪を外し、溜息を吐くと首元に忍ばせた筒状のネックレスに指を掛ける。
せめて痛くないといいな。そんなことを考えて最後の時を迎えようとした。冒険者になった時から覚悟をしていたせいか不思議と焦りや焦燥はない。
ガブっ!
大きく開いた土竜の口が急に閉じ、そのまま発光し、体内で爆発が起こる。




