第515話 思い切りの良さ
第515話 思い切りの良さ
それに激情した土竜がデンケンを追いかけて来る。
「よしよし、おっちゃんは上手く反対側から避難できたな?」
後ろを振り向くとさっきの花火を合図に炭鉱夫たちを避難させようとさまざまなものに指示を出していた。
そして、壁の坑道の1つ。その近くにエナがおり、デンケンが走る方向に指を向ける。
「走れ!デンケン!!」
「人使いめちゃ荒いじゃん!『強脚』」
足にだけ魔力を込め筋力や防御を高める戦士の職業魔法。レベルが低いとは言え、足の遅い土竜から逃げに徹することはできる。
岩壁を切り開いて作った道。そこを思い切り駆けると目がぼんやりとしか見えぬほど退化した土竜が両端の岩壁にぶつかりながらもデンケンを喰らおうとする。
頭の上からは衝撃で壁から剥がれた岩が落ちて来るのだが、デンケンはそれを難なく飛び越え、土竜は吹き飛ばす。
「飛べなくてもちゃんと竜してんだな!」
土の中でも掘り進むことができる様に顔は翼竜の様にゴツゴツしておらず、抵抗がないすっきりとしたフォルムで身体とのギャップが凄い。
「クソ!これどこまで走ればいいんだよ!!」
デンケンの限界が近くなった時に1発の照明弾が上がる。黄色い大きな照明に赤い複数の光。炭鉱夫が好んで使う組み合わせで、仕事終わりを意味する。
「避難終わったんだ!!なら、俺ももう少し頑張る!!グギギギギ!」
身体に鞭を打ち更に引き離す。すると、土竜とどんどん距離が離れていく。
そして、壁の中の蓋が空き、アリの巣の様な穴な中から炭鉱の作業員達が頭をだし、土の魔石を握りしめた手を翳す。
穴の中から無数の鎖が伸び、その先端が土竜へと刺さり動きを一瞬止めた。
「獲物が掛かった!!第二陣罠を起動させてください!!」
遥か頭上でエナが穴から叫び合図を送る。
土竜の足場からプシュプシュと白い煙が一瞬吹き出し、そのまま爆音と共に地面が崩壊すると地面に落ちていった。
「デンケン!?生きてる!?」
「生きてる!!何したんだよ!!」
「動きを止めてもらって移動用の地下通路を2本分爆破して地中に落とした!火薬爆発だから起爆するか不安だったけど、うまく行った!魔力も温存できた!」
エナが鳥型の魔物に捕まりながら降りてきて地面にぽっかりと空いた穴を覗き込む。
杖をかざし、光玉を複数落として確認すると、瓦礫に半分埋まった土竜が居た。
幾つもの通路から白いモヤが流れ込み、穴の中へと充満していった。
「この煙はなんなの?」
「下手に吸わないでね。通路から睡眠薬を揮発させてる」
「治療で使う薬だよね?効果あるの?」
「流石に土竜を眠らせたことないからわからないけど、効果はあるはず!」
「キノ姉ちゃんと言い、エナ姉ちゃんと言い2人とも物騒なもの使うよな....」
「言っとくけど、私のは薬でキノは毒だからね!」
「あんまり変わらないだろ?」
「凄い違うから!!」
互いに互いの矜持を持っている部分は譲れない。
「でも、あいつ俺達を飲み込んでた時より少し小さくない?」
「多分、身体を縮めて防御を高めてるんだと思う。この後どうしよう....」
「この後は埋め立てればいいんじゃないの?一番確実なのは水で窒息させることだし、この穴に水ぶち込めば....」
「幼体ならまだしも、あの巨体を一気に溺れさすだけの質量どうやって用意するの?」
「物理は効かないんだろ?なら、炙って呼吸できなくしてやれば....」
「煙は上に行くからダンジョンみたいな空間じゃない限り、効果は薄いよ?睡眠薬ももうすぐ切れるからその間にどうするか考えないと....。他の冒険者に助けを求めるってのは期待しないでね」
エナが耳につけた赤い魔石のイヤリングを指す。これを持っている相手とは連絡が取れるため、キノを呼ぼうとしたのだが通信範囲外で呼べなかったようだ。




