第510話 圧倒的な力
第510話
「ほら、デンケンも行くよ」
「は....い....」
冒険者になったタイミングにそこまでの差があるわけではない。デンケンはレベル10で数字的に100の絶望的な差がある訳ではない。
しかし、こんな光景自分が生きているうちに生み出せるはずないと心のどこかで諦めがついた。
今まで一緒に生活していたエナはただの気優しい姉などではなく、人間の皮を被っただけの化け物であり、気を損ねて運が悪かったら自分自身が天井や地面にへばりついているスライムだったのかもしれないと考えてしまう。
2人がゆっくりと歩いて進む間もエナの魔法は止まない。事あるごとにスライム達を蹂躙し、派手な光がデンケンの視界で元気に輝く。
もうこれは一人で事足りるのではないかとすら思ってしまう。
しかし、ある時エナが魔法を使うのをやめた。
その隙を突くべく数台のスライムが地面を滑るように移動してエナに襲い掛かろうと跳ねるのだが、跳ねた瞬間にデンケンが人差し指に収束された火の魔力を撃ち出す。
水属性に分類されるスライムが燃えることは非常に珍しいのだが、その攻撃はスライムの身体に残り一瞬で身体を蒸発させた。
「へぇ、うまいじゃん。核が一撃で撃ち抜かれてるね。これならただの水になる」
「エナ姉ちゃんの足元には及ばないけどな....」
「及ぶとか、及ばないはどうでもいいんだよ?2人とも後衛が得意みたいだし、力技で捩じ伏せてこうでもしないとやられちゃうからね」
「俺は前衛もできるけどな」
「できるって言うのと得意って言うのは雲泥の差があるんだよ?デンケンは後方から前衛を蹴散らすのが一番強いって私が保証する」
そう言い放つと再びエナが魔法を使うのを開始する。
「意外だったよ、エナ姉ちゃんがこんな強かったなんて....」
「キノも後衛だし、後衛同士で組んでダンジョンに潜ってれば嫌でも強くなるんだよね」
「そんなセリフ言ってみたいな」
「言えばいいじゃん」
「まだ俺、弱いからさ」
「こんなことできるのに?」
地面に転がったスライムを持ち上げると核が抉られたスライムの防殻がびょーんと伸び切っていた。
「こんなの誰でもできるだろ?」
「自分の当たり前と他の人の当たり前は違うんだよ?私にとってはこれが当たり前」
最奥までの一本道を進んできた2人だが、エナが両手を広げて大きく被害を見せると、壁や天井が抉れた災害の後かとも思える悲惨な現場なのにも関わらず満遍の笑みであった。
「魔力使ってお腹減ったから食事にしようか?」
そう言うエナに天井から落ちてきたスライムがエナの背後から襲いかかる。
しかし、それを見ることなくエナの光玉がそれを貫通した。
「おっと、感知した魔力に弧を描いて飛ぶ命令文を込めた魔法がまだ残ってたみたい。デンケンに当たらなくて良かった」
「危ねーな!!ちゃんとしっかり解除してくれよ〜!!」
「今解除したから大丈夫!身体に穴開かなくて良かったね」
「冗談じゃ済まない気がするんだけど...?」
「貫通しても他の動物の肉で塞ぐようにするから大丈夫だよ?」
「変な形にされそうで怖いから嫌だよ!!」
「沢山の魔物に囲まれた時にオートで標的が定まるかと思ったけど、多すぎて戦闘中に対象が絞れないのが問題だね」
「ハイタッチしようと近付いただけで蜂の巣にされるのだけは嫌だからなー」
近くの岩陰に隠れ、エナの姿を覗き込む。
「そんなことにはならないよー、多分ね」
「確信が無いんじゃ無いかよ!」
「色々試さなきゃね。ここが終わりみたいだし、ご飯にしよ?沢山魔力使ったせいかお腹空いた
」
「相変わらずマイペースだよな....。じゃあ、道具出してくれよ」
「マジックバック持ってないの?1つあるとかなり便利だよ?」
「小さいポーチでも50万はするしまだ買えない。それより、文明的な食事をしたく無いなら俺の道具を使おうか?」
ポケットから取り出したナイフで地面に押し付けられたスライムをギロっと睨み付ける。




