第504話 人生経験
第504話 人生経験
「じゃあ、世の中の人は自分の好きな人が自分じゃなくていいのかよ?みんな好きでもない人と結婚するのかよ?」
「そうはならないよ。好きって気持ちを伝えて他の人が好きって言われたらその人の一番はその人じゃなくなる。振られた人はまた違う一番を見つけて最後には結婚するから一番好きな人と結婚するよ」
「そんなの妥協じゃねーか!納得できない!」
よっぽどエナが言って居ることが受け入れられないのか、かなり強めに抗議する。
「自分が好きな子を愛したら向こうも自分のことを愛してくれるって考えはかなり危ないからね。暴力で支配するようになるよ?」
「そんなこと俺はしねーし!」
それすらも否定する時の言葉使いが暴力的になり危うさが止まらない。
「そう言ってるやつが一番危ないからな....。もし、将来好きな人に振られても自暴自棄にならずに自分の好きな人の1番になるように努力してね」
「はぁ!?俺のことを最初から好きな人を俺が愛せばそんな事にはならない!」
「ほう、じゃあ、どんなに顔立ちが気に入らない子でもデンケンは相手を愛するんだ〜」
「いや、それは分からないけど....。少なくとも孤児院の奴らに顔が似てるのは嫌だな」
「1番になる方法も、一番愛してもらう方法も数え切れないくらいあるんだから、ちゃんと努力するんだよ?いい?」
優しいながらも力強くデンケンを諭す。
「分かったよ!!」
「じゃないと、デンケンまでニーナみたいになるからね!私のキノなのに....」
エナもエナでかなり危ない思想を持っており、もはや手遅れであった。
「そうだ、ニーナは大丈夫なのか?」
エナの危険な思想を感じてか、デンケンが食い気味に話題を変えようとする。その話題チェンジが無ければ、私のキノなのに身の程を弁えろよというデンケンこれから形成される性格を捻じ曲げてしまいそうな一言を聞く羽目にはならなかったので安心していいだろう。
「レイドで冒険者資格を取って冒険者事務所をやってるから、地に足はついた感じかな?」
「なら良かった....。冒険者事務所開いたってことはやっぱり冒険者になったのか」
「まぁ、形だけ。ゴーレムでの支援って感じだけど」
「それだと職業は何になるんだろうな?」
「なんだろ?魔法職のゴーレム使いとか?上位の職でゴーレムマスターになれるやつ」
「そんなのあったっけ?」
「職業は無数にあるから全部覚えてないけど確かあったはず!」
「上位職ね。駆け出しの俺には縁がないな?」
「今はどんな職選んだの?」
「しっくりくるのがなかったから新しく作った。魔法戦士ってやつを!」
「それって遠距離で戦うの?近距離で戦うの?」
「何言ってるんだ?好きな時に好きなように戦うんだよ!」
「めちゃバカな人の言い分じゃん」
もう少しデンケンは思慮深い人物であったのでは?とエナが記憶を掘り起こすのだが、会うたびに脳筋になっていっているような気がしてならない。
「エナ姉ちゃんはなんなんだよ?」
「ネクロマンサー」
聞き慣れないどころか、聞いたことがない様な言葉に言葉を詰まらせる。言葉からでは全く想像出来ない。
「それって遠距離で戦うの?近距離で戦うの?そもそもそんな職あった?」
「キノが勝手に登録したんだよ!!好きな時に好きなように戦うから、気分!」
「脳筋じゃねーか!!」
「あんたにだけは言われたくないんだけど!!」
デンケンが小馬鹿にしてくる。軽口が聞けないように思い切り頬をつねり伸ばす。
そしてどうにかやり返そうと腕を伸ばし、デンケンもエナの頬に手を伸ばそうとするのだが、必然的に長さがたりない。
エナの頬に手が届くことはなく地団駄を踏み、悔しがる気持ちがひしひしと伝わって来る。
しばらくエナがつねってデンケンを解放した頃には餅のように伸びた頬を優しく撫でていた。
「だって勝てないじゃん。忘れるくらい昔に会ったのにその人のことを好いてるキノの一番さんにはさ。ならせめて、私を好きになって欲しい、側にいたいって気持ちで誤魔化して笑うしか無いんだよ?」
「ん?姉ちゃん何か言った?」
「空耳じゃない?」
ふと出た本心を誤魔化し、時を待つ。ちょうど機材を取りに行った者が帰って来るのだ。
「取り敢えず、今までの工事の時に採掘した時に出た物を売って仕入れた機材がこちらになります」
「随分色々あるんですね」
地面に広げられた布の上には人の頭ですら砕けそうなハンマーやら大剣やら、安全靴やら鉄製の鎧やらが敷き詰められていた。
しかも、どの獲物もしっかりと手入れが行き届いており、古くともボロいと感じるものは1つもない。細かい所まで補修されており、しっかりとした持ち主が手入れまで行っている感じだ。




