第500話 エナの気分転換
第500話 エナの気分転換
「魔力の消費でこうなってるからそれを抑えればある程度は生きられるだろ?違うのか?」
「そんなの死んでるのと同じ。私がなれなくてもその後を見てなろうとしてくれる人がいれば良い。それなら人形である私も楽に死ねる」
モニモニと口にドンドン食べ物を運びガツガツと食べるキノは生きようとする人間の力全てに満ちているようにすら感じられる。
今にも消えて無くなってしまいそうなのだが、逆に生きようとする力だけはこの国の誰よりも強いと断言できる。
「そうか、分かった」
「うん、そう」
「なら都合よくお前を助けた奴のことも忘れてくれよ?お前の人生を束縛したくないんだよな」
「何か言った?」
「特に何も?」
心の中でつぶやいた声が外に漏れてしまったかと焦ったが、平常心を保つ。これだけ死にそうなのに、今に必死にしがみつき、生きようとしている覚悟を者にとやかく言うのは無粋であろうと誰もが理解できる。
階段を一段一段ゆっくりと噛み締めるように歩いていき、地下に降りていくエナの心には複雑な思いがあった。
今まではただキノの帰りを待つだけの虚しい日常。
何日も連絡がなくたまに帰ってきた時に大きな喜びを感じる素敵な日常。
仕事に行くキノにいってらっしゃいと子供達と一緒に声を掛けるだけの毎日変わり映えのしない灰色の世界の日常。
そんなかけがえのない繊細な想いをもう感じることはないのだろうと言う寂しさを数倍は埋める共に居られる幸せ。
一緒にいるからこその少しの間のソロプレイの時間。その以前にも満たない僅かな苦いスパイスが、これからの一緒にいる時間を引き立てるのかと思うと高揚感に支配される。
しかし、今のエナの心には虚しさと言う言葉で溢れ出しそうになり、遂には言葉として溢れ出した。
「もうさいっこぉぉぉぉぉぉお!!!!」
身体をくねらせて冒険者としてできた小さな身体中の傷を撫でまわし、一つ一つの生々しさを再確認する。
傷付くことは恐ろしいことだと思いながらも、キノのための自己犠牲を感じ取れるのであればどんなことも厭わないとの考えだ。
キノが作った地下に続く道には2種類ある。
天蓋の部分から足場ができて下に直線的に降りていく物。それとは別に地下の壁面から自分の足で歩いて降りていく物。こちらは裕福なお客さんが堂々と買い物をする時に好まれる。
基本的に後者は入り組み、他の道とも繋がっている。こちらは目立ちたくない人やお忍びできている人、この後に人には見られてはいけない取引やことをする人達に好まれていた。
エナの下品な咆哮は他の道から来る者達からは正体不明の何かとして怖く伝わるのだが、本人が恐れられていると言う事を知ることは暫くない。
他の人もこんなに可愛らしい見た目のエナが獣のような叫びを挙げているとは誰も思わない。行動とはその人の見た目によって勝手に補正されている部分があると許容せねばならない程に。
「さて、そろそろ下に着くだろうから静かにしなきゃね」
先程までの奇声を自制し、薄暗い階段をどんどん降りていく。
階段の最後に差し掛かる頃には地下なのに昼間の外かと思うほどの光量に一瞬目が眩み、ヒカリを手で遮った隙間から目を開けると簡素な装備に身を包み抜刀した何人もの低レベル冒険者が沢山いた。
「あれ?何かありましたか?」
「お怪我はありませんか!?化け物のようなうめき声が多発していて調査に来たんです!?」
「化け物みたいなうめき声?私聞かなかったよ?」
自分から発せられた声が化け物だと形容されていることに気づかず首を捻る。
「この辺りの道は幾重にも分岐しているため、運良く聞こえなかったのかもしれません!!ともかく調査に入ります!」
隊長のような男がテキパキと指示を行い、地上へと伸びる通路へと入っていく。
「怖いなー」
エナが辺りを見回すと今さっきのタイミングで通路から出てきたと思われる育ちのいい貴族の女の子の集団が泣きじゃくり、地下都市に住む普通のみなりの年上のお姉さん住民達に慰められていた。
「下民と貴族の違いなんてそんなにないのかもね」
その光景を見たエナがフードをかぶって歩き出す。
地下都市を暫く歩く。現在の中心からは拡張によって外れた住宅とテント出店のお店が並ぶ通りからは一本外れた住宅地。丁度、地上に幽霊屋敷と呼ばれる孤児院がある真下の場所で現在はデンケンを筆頭とした割と年長者組が住んでいる。
庭に目を向けると1人で的に向かって魔力を飛ばす練習をしているデンケンがいた。
普通の魔力もそうだが、火に属性変換して様々な軌道で威力は弱いながらも当てていた。
その様子を庭の柵に手をついて見ていたのだが、途中でデンケンに気付かれた。




