第499話 新しい住人
第499話 新しい住人
入った筈の入り口がモコモコと盛り上がって来た土で瞬時に閉じ、キノ達の4人は目の前に広がる光を目指して走る。
背後から壁が盛り上がり4人を追い抜かすこともなく、外的が入ってくるのを許す速度でもない絶妙な速度で追いかけてくる。
しばらく走ると、キノとエナが入ってきた壁の下部に出た。
「おかえりなさい!!キノ冒険士!エナ冒険士!」
「ただいま。外の蛮族を一人保護した。国内で暮らすからよろしく」
「分かりました!!申請はこちらでやります!仮のカードお渡ししますね!」
テキパキと国から出る時に利用した憲兵が事務作業をこなす。国を追われた者の子孫が現在の国の人を襲い物を奪っていた。
そんな人間を普通であれば受け入れる筈はないのに、淡い期待が胸に沸き立つ。
「なぁ、凄い勢いで何がやってるけど俺みたいなやつって結構この国にいたりする?」
「結構どころかかなり」
「え!!そうなの!?」
国の中で迫害されるのではないか?それでも今までの暮らしよりは少しだけマシなのではないか?と思ってやって来ていた身としては考えられない暁光であった。
「この国に不満を持った貴族が先祖ってだけで今を生きる人に皺寄せや責任をなすりつけることはしない。少しずつそう言う人を国内に入れて好きにさせてる」
「俺達は普通ならどうするんだ?」
「だから好きにすればいい。一族のことなんて忘れて国で過ごす。勉強して帰るんでもいい。これから何をしてもいいんだよ」
「俺達、国から捨てられてなかったんだ」
「エルタネは国に色々な技術を入れて、周りの確執が一つでも減らせればいい。それだけ」
キノはそれを肯定することも否定することもなくただ1つの事実を淡々と口にする。
憲兵から手渡されたカードをキノが手渡しユエルと少年を2人が見送る。ユエルの迎えにとんでもない教会の信徒達が来て現在の地位の高さが伺えたが、面倒だったので誰も口にしない。
というか、気にしたらまた面倒なことに任されそうだったので、面倒ごとに巻き込むのは良くても巻き込まれるのは嫌だとユエルが信徒の紹介を始める前に手を大袈裟に振り帰る。
その様子を見たユエルは残念そうに小指を唇を当て、光悦を顔に浮かばせ
「残念」
と色っぽくつぶやいた。
「お散歩終わり」
「私の使役してる魔物は強くなるって分かったし、キノも毒の材料沢山手に入れられた?」
「かなり手に入った。調合に必要なもの揃えたら帰る」
「えー、一緒に行こうよー」
「ずっと一緒にいるためにも一人で居る時間も大事」
その一言と一緒にキノの姿が空気に溶け込んだ。
「あ!」
エナがキョロキョロして消えたキノの姿を探すのだが、何も痕跡を見つけられずに諦めて外套のフードを被る。
そして近場の住宅地に囲まれた角に大きな木がある広場の地面にキーを差し込み地下に降りる。
その足取りには苛立ちと虚しさが混ざっており、ため息混じりのようにキノには見えた。
「いいのか?」
「何が?」
「自分で消えといてどこに行くのか見届けるなんてな」
「それは私の自由」
フードを被り木の枝の陰に隠れて、エナを見送るとフードを下ろす。
まだ主人と話し足りないのか、フードからニョッキリと口のついた小さな触手に姿を伸ばした外套の本体が出てくる。
それを機にすることなく、冒険の時は必ず身につける革手袋をゆっくり外すとこの前よりも手が綺麗に透けており、反対側にあるはずの普通なら見えない木々の葉が良く見えた。
「どんどん透けるな」
「あんたはどんどん言葉が上手くなる。最初は語尾が変だった。人じゃないみたいだし、仕方ない」
「人じゃないのか?」
「手が透ける人なんて見たことない」
「極論だな」
「魔法を使う頻度が高くなったせいかこうなるのも増えた。ある筈の手を動かしてる筈なのに物を拾えない。なのに、魔力を外部摂取すると」
「戻るのか」
キノが自分のマジックバックから干し肉を取り出し食べると手がゆっくりと見えるようになっていく。手の濃さがどんどん戻り、世界に存在してていいよと許しを貰えたと形容するのがピッタリだった。
「こんな人間いない。最初は人だったのかもしれない。でも、もう人だった時のことなんて忘れた」
「そうか....」
「記憶力はいい?」
「ああ」
「なら子供達のこと覚えて」
「なんでだ?」
「もう半分以上、あの子達のこと忘れてる。思い出せないから、私が言い淀んだりしてたら小声で教えて」
「そうか分かった」
「ありがと」
「大公になるの諦めるか?」
「なんで?」
外套が言っていることはわかってもなぜその考えに辿り着いたのか、全くキノでは分からなかった。




