第497話 立ち上がらない
第497話 立ち上がらない
「立ち上がり遅い」
キノが地面に叩きつけるようにして手を離す。するとピシャんと音を出しながら地面に叩きつけられてしまっていた。
吐き出される肺の中の空気。息が乱れているのもお構いなしに横腹を蹴り飛ばそうとキノが近づいてきた。
それに気付くと攻撃を仕掛けようと媒介に文字を書こうとするのだが、水を集める術式と瞬時に攻撃力のある術式の2つを実行している暇はない。
今できるのはかろうじで使い慣れた術式。植物を操る術式を書き、媒介を近くの地面に転がす。キノがその場所に踏み込むと植物に含まれた水分だけが葉の形のまま無数に飛んで行った。
それを外套を脱ぎ捨て払うだけで簡単に避けられた。魔法を使うことも一切ない
「仕掛けるところバレてるから引っかからない」
「水分だけが飛ぶのかよ!!」
せめて葉がキノの視界を覆うことを期待していたのだが、そんなことにはならなかった。期待通りの効果にはならずに、キノの媒介の属性によってできることが制限されるという内容の言葉を思い出す。
「外の魔力じゃなくて範囲に近付いたものに媒介の発動するように組んだのは成長」
そう言って追撃しようとするキノの背後から同じ攻撃が飛んできた。
「ふーん。で?」
それすら避けて眼前に振りかぶった獲物を振り下ろす。
「うぁぁあ!!!」
そして、優しく頭を小突いた。
「え?」
「立ち上がりが遅い。体を守れって言った。なのに攻撃した」
「だってこれじゃ戦いにすらならないだろ!!」
「戦わない。自衛」
「どうやってこれで守れるんだよ!!せっかく考えた鎧鎧だって水を集めてから形を作るんだから時間かかるしさぁ!!」
年相応の少年のように不貞腐れキノが呆れる。
「死ぬ時もそれ言う?」
「言わねーよ!!」
「今ある手数でどうにかする。試しに鎧作って」
言われた通りに腕に水を纏わせ小手のようにする。それを見計らってキノが刃しかないナイフを振り下ろすと軽々と切れた。
「腕ガァ!!!」
「切れてない。薄皮一枚」
ぶっ飛んだかと思うほどの衝撃を受けた腕を覗き込むように確認すると、肉は切れていない。水で作った小手の部分が深く抉れていた。
「耐久力低すぎだろ!!」
「物理防御は問題ない。魔力を帯びた攻撃に弱い」
キノの手元から指の間に挟まれた3本のナイフが落ちる。
そのうち2本は刃が溢れ、一本だけが無事だった。
「魔法攻撃されたら終わりなのかよ....」
「魔力は魔力で効率よく削れる。普通の武器で魔力を切る猛者もいるけど少人数」
「魔力は防具を貫通するよな?」
「魔法抵抗の高い防具ならある程度は。課題は魔法戦。どうしたい?」
「相手より早くにこっちの攻撃をぶち込む!」
その呆れた言葉にキノ以外の二人が笑いを我慢する。立ち上がりが散々遅いと言われているのになぜその反応になるのか理解できなかった。
「それしかない」
しかし、キノから聞こえた言葉に二人が驚きを隠せない。
「近くで使えばいいのか!?」
「試す?次は思い通りになるといい」
エナ呼び寄せが至近距離で立たせる。媒介を握りしめた瞬間にエナが杖を握りしめて魔力を飛ばすと少年の体が吹っ飛んだ。
「クソ!」
「やっぱり無理でしょキノ?私たちは一瞬で魔法を使えるから魔法を使えなかったら倒せないよ?」
転がった少年を起こそうとゆっくり近づく。身体で見えないように隠した媒介を握る手の指の先端を向けられると同時に障壁を体の前に張る。
そして、一瞬で障壁にヒビが入る。その場から離れようと移動しようとすると先程キノを襲った攻撃が足元から飛ぶ。
また障壁で体を守ると、水の弾丸が指先から飛んできた。
「いい加減にしろ!!!『放出』」
ちまちまとした嫌がらせに痺れを切らし、複数の魔力の玉を飛ばすと3つ目の媒介から出た水の玉がそれを包み込み弾けた。
「よし!これなら!!」
何かを掴んだように攻撃を仕掛けようとする。
掌の1つ目の媒介の魔力は指先に集め弾丸のように飛ばし、二つ目で密度の高い球体を吐き出すように使い攻撃を無力化する。
「『放出』』
「ぐぁぁ!!」
しかし、そんなことお構いなくエナが放出した魔力の機動を弄り少年の背後から届くように速射で組んだ命令文を魔法に込め勝負が終わる。
「ユエル、お願い」
「分かった」
打撲のように怪我を治療するためにユエルが少年に近付き治療を開始する。するとみるみる内にケガの色が引いていく。
「危なかった?」
「何させるの!!私もう少しでやられるところだったんだよ!」
「舐めて掛かるから」
キノがエナにそう言うと二人も治療を受ける少年の元へと近付いて様子を見ようとする。




