第495話 やり返す
第495話 やり返す
「そもそも、一瞬でこんなことができる化け物がウヨウヨ暮らしてる国の中で暮らすなんて無理だろ?」
「少し気を損ねただけであの木になる」
「やだよ!!」
「次は防御方法。これあと3つ持って」
合計で4つの媒介を手渡す。
「さっきみたいなモヤでどう体を守るんだよ!!」
「媒介を使ったまじないの利点。魔力が半永久的に供給されるから、一回術式を書き込めばずっと使える」
「でも、これでどうやって守れと!?」
「自分で考えて。身体に魔力は流れてる。使えないだけだから死にはしない。これからご飯」
「死ななくてもあんな木になるのは嫌だからな!」
悲痛な叫びなど最初から聞こえなかったかのように鍋の周りに座り、エナとユエルもそれに続く。
「キノさん、あの子あのままで大丈夫ですかね?あの性格だと確実に誰かを怒らせて確実に殺されますよ」
「私は自衛の方法を教えた」
「大丈夫ですよ。こう見えてキノは優しいから。私たちはお昼ご飯にしましょう!今日は何?」
「今日はペペロンチーノ」
鍋の蓋を開けるとぐつぐつと少ない茹で汁で煮込まれた明らかに多すぎるソーセージ入りのパスタが姿を現す。
どっからどう見ても質素なペペロンチーノなどでは無い。わんぱくな育ち盛りの子供もお腹を確実に満たせるであろう量のソーセージが入っている。
しかし、これをスープパスタと呼ぶキノの異常さは今に始まったことでは無いし、みんな普通の感覚が麻痺していた。
それぞれが自分のマジックバックやイベントリから、木製のフォークとお皿を取り出してよそりながら食べる。
エナとユエルは綺麗にフォークに巻きつけて一口ずつ。
キノのは巻きつけずに少量を掬い、それを直接口に運んで啜るように食べる。
圧倒的にキノの方が食べるスピードは早い。そして、鍋の底がゆっくりと見えてきた。そのハイペースさに2人がどうも焦りを隠せない。
「キノちょっと食べるスピード落として!私たちまだあんまり食べてないからね!」
「同じように食べればいい。そんなお上品に食べてたら夜になる」
「だから、キノみたいにズルズルできないんだって!」
「珍しい食べ方ですね。初めて見ました」
「ユエルだって、イベントリ持ってる。珍しいでしょ?」
「そう見たいですけど、私は気付いたら使っていたので」
「気付いたら?」
「はい、物心着く頃には使いこなしていたような?」
「なら、ユエルも干渉者に干渉された可能性ある。普通なら赤ちゃんの時に物を別空間に吸い込んだり吐き出したりして使い方を覚える」
「干渉されたってどう言うことですか?」
キノに言葉を返し、エナの方を見るのだがエナ自身も首を傾げていた。
「私たちが考えつかないような発想の魔法や技術を渡してくる奴らの総称」
「なんですかそれ?そんなことしてメリットあるんですかね?でも、良い物をくれるなら案外良い人なんじゃ?」
「問題 私は記憶の塗り替えが行われてる気がする」
「え?」
「昨日までそこにいた名前も知らない顔だけ知ってる人がどこにもいなくなってる気がする」
「そんなのどっかに行っただけじゃ?」
「私の頭の中の記憶からも居なくなってる感覚。思い出そうとすればするほど顔が塗りつぶされる」
キノがそう呟くとユエルが物想いに耽ると心当たりが確かにあった。頭では勝手に理由を付けて自分が関わる人から削除していたが心の底では分かっていた。
「この国、こんな大国なのに驚くほど犯罪者数が少ない傾向にあるんですけどそう言うのって....」
「殺されてはない筈。遥か遠くの世界で居なくなった人と再会したら向こうは覚えてなかったし、その違和感も薄れていくってこの国の商人が書いた本も一時期市場にあった」
「じゃあ、なんですか?私たちも記憶をリセットされて誰からも忘れられるってことですか?」
「確信はない」
「でも、今は市場にその本がないって事は国がその本を回収したって事だよね?」
「国がこれに絡んでるって事ですか?」
「国に害をなす人や生産性が低い人を国外へ左遷。なまじ独立心が強い貴族はレネゲイド制度で国の外の防衛を勝手にやる。そして、新しい技術や魔法を与えて公平性を保つ為に記憶を消す。前まで別の世界の空間の監督者の一団がこの国に出入りしてたけど、今は見る影もない」
「筋は通るよね。空間の能力が扱える人も用無しになったのかな?」
キノの言葉をエナが捕捉する。
「やだ....やだよ!!そんなの!!!」
ユエルが急にガタガタと震え出し、蹲る。
「嫌なのは知ったから。記憶をいじられて何もわからなくなれば恐怖もない」
「それが怖いんじゃないですか!!!」
「なら、戦えば良い」
「どうやって?」
想定外のキノの言葉に驚きが隠せずに素で聞いてしまう。




