第494話 全力投球
第494話 全力投球
「無属性魔力を見えない俺でもわかる....。どんだけ複雑な命令分なんだよ?」
「それがわかるだけで充分。感じはするし、術式は自己流で組める。冒険者の持ち物を鹵獲して学んだのかな?私たちは基本魔法使えるから魔力を帯びた術式を瞬時に使える」
「でも....」
「お前は基本魔法使えないから、媒介の魔力を使え。媒介なら魔石みたいに魔力は消費しない」
わかり切っていることをキノがわざわざ口にする。
「でも、そんなもの持ってない!!買うにしたって金なんてない!」
いかに目の前のキノ達と自分が違うのかを理解すればするほどそれが恐怖として体を支配し、身体が震える。
ここにいる2人は簡単に魔法を使えない人を気ままに殺すことができるのだ。
「無いなら稼げばいい。それにちょうどあるからやるよ」
マジックバックの中に手を突っ込むと真っ黒な箱を取り出す。手のひらサイズの真っ黒な鉄の箱を1つ地面に転がす。
それを慌てるように拾い、蓋を上に持ち上げ中を開くのだが、中身は何も入っていない。
「ただの箱じゃねーか!!」
「まだ中身を入れてない。エナ、魔物の骨何本か見繕って」
「え?どんなのがいい?」
「扱いやすいからサハギンとか水の属性のやつ」
「ならこれ」
「ありがとう」
エナから小瓶が手渡され、それを箱の中に入れると小さく砕かれたサハギン特有の魚を連想させるような骨が入る。
「ユエル、回復魔法」
「はいはい、わかりました」
ユエルが杖を翳し、魔法は使わずに自分の魔力を込めると、回復適性のある魔力に呼応するように骨から血管が伸び、血管に肉が付く。
そして乾いた骨からどんどんと生臭さが増していく。
「はい、蓋閉める」
そんな気持ち悪い魔物の部分再生の記憶自体に蓋をするように勢いよく箱の蓋を閉めた。
「なんだよ?これ?」
「何って媒介」
「媒介って、魔物なのかよ?気持ち悪いな!!」
「長年魔力に触れ続けてた物ならなんでもいい。生物の方が無機物より早く媒介になるしやすい。質は悪い」
「でも、これ中で脈打ってるのが分かる....」
心臓のように箱の中ではドクンドクンと脈が感じる。
「魔物は魔力だけで体を再生することができる。やってることは今までとそんなに変わらない」
「いや、そんなことないけどな!!!今までは身近にあるもので魔法を使ってたし....」
「へー、これで媒介になるんだ。孤児院の媒介は違うよね?」
「あれはちゃんとした少量の魔力を半永久的に運用して増やした分を結界に回してるから、ちゃんとすごいやつ」
エナの疑問にキノが答えた。気持ち悪い物が住んでいた場所の地下になく、少し安堵する。
「俺もそれがいい!!」
「金ないなら無理。これで我慢」
「なんだよそれ。こんなおもちゃ....」
キノから受け取ったものを掌に乗せると脈打っていた。
おもちゃではないことなど一瞬で理解するのだが,身体がこれを使う事を拒むのだ。
「その箱の魔力を取り出して」
「取り出すってどうすんだよ?無属性の魔力は見えないんだけど....」
「よく見て」
じっと箱の上を見つめるとじんわりと水が水滴となり滲み出し蒸発するかのように湯気になっていた。
「これか!!これなら!」
箱の上をなぞるように文字と言うよりも図形に近い何かを一筆で指でなぞると人差し指に霧のようなモヤが移動する。
「属性変換しつるやつなら見える。ただ、無属性魔力みたいに汎用的なことには使えない。それと魔力を溜めすぎると魔物が復活するから気をつけて」
「ん?これでできることが限られてるってこと?さらっとすごい事聞こえたような?」
「そう。草とかにさっきと同じ命令を書いても同じように動かない。溜まったものを抜いてれば溢れない。問題ない」
「はぁ!?覚え直しかよ!!」
「無属性魔力は大体のことができる代わりに威力が弱い。だから、属性変換って専門性を与えて効率よく使う」
「なら、これで攻撃すればさっきよりも威力は....!!」
「物事はそううまくいかない」
キノに人差し指を向け、モヤに親指で文字をなぞるのだが、そのモヤがキノの方に移動しただけだった。
「使えねーよ!!!これで何をするんだよ!!」
「なんでもできる。後はやり方」
キノがそれを人差し指に集め、先端を少年に向ける。またモヤが移動するだけかと思った次の瞬間には真後ろの木の幹を吹き飛ばす大穴が空いていた。
「なんで?」
「人差し指に集めて、周りの水分と水分に含まれる水の魔力を取り出して巻き込む術式を組んだ。命令文を複数書いて術式に。それを更に周りの魔力で底上げする。簡単」
「な訳無いだろ!!何年かかるんだよ!」
「死ぬ気でやれば2日。できるよね?」
キノが確かめるようにエナとユエルを見るのだが、化け物を見るかのような引き攣った笑顔が返ってきた。
しかし、これをやらなければ本当に自分がどうなってしまうかわからないため、キノの言葉の通りにやるしかないと腹を括り、できる事をやることからやってみようと覚悟を決める。




