第576話 夢の話
第576話 夢の話
「はい、エナも復活。じゃあ、先に行ってる」
「ちょっと!!!」
冒険者事務所の扉を開けて外に出て階段を降りていく。
「おはようございます先生!朝食になされますか?」
「昨日の夜はかなりお酒呑んだ」
「分かりました!では、朝ごはんは軽めに....」
「いや、ガッツリ重くして。お酒を呑んだ次の朝は異様にお腹減る」
「分かりました!任せてください!」
キノからのリクエストを受け取ると、厨房でテキパキと支度をこなす。キノがカウンター席に座り、銅貨を2枚取り出しら机の上に置き、暇を潰すようにガチャガチャと弄る。
そしてしばらくすると自分の腹部を摩る。朝起きた時は男の身体で、バキバキに割れた腹筋を触りゴツゴツとした感触を楽しみ、内心をニュートラルにする。
心の中のキノは顔がニヘヘと綻んでいるのだが、あくまでも悟られないようにする。
「今日はどんなお仕事なんですかー?」
「特に決めてない」
「冒険者さんっていつも冒険者ギルドで依頼の掲示板を眉間に皺寄せて見てるようなイメージですけど、先生はいつもフラフラしてますよね?羨ましいです!」
「嫌味?」
「違いますよ!!!なんでかなーって思っただけで....」
「本当は私、この国で自分の領地を一番持ってる冒険者。だから、働かなくたって最低限の収入は入ってくる」
その言葉を聞くと今までに無いほど真剣にキノの事を見つめる。
「そんな....そんな人がこんな安宿泊まるわけないじゃ無いですか?まだ酔ってます?大体、みんな冒険者でお金貯めたら何かしら事業を起こして悠々自適に暮らしますよね?そんないつまでも身を危険中晒してお金を欲する冒険者なんて聞きませんよ?」
「身を危険に晒さないと大公になれない」
「ん?何か言いました?」
鉄のフライパンの上に分厚いベーコンを乗せステーキのように焼き出し、キノの言葉が遮られた。
「別に....。権力だけ持った奴らがのさばらないようにしよって言った」
「そうですねー、食材を買い占めて価格を釣り上げて商売をするような小根の腐った貴族もいるようですからねー。私みたいな宿屋の売り上げでギリギリ貴族になれるくらいが小根が腐らないちょうどいい塩梅なのかもしれませんね」
「どうなっても上を目指すのが大事」
「全く持ってそうですけど、それは綺麗事ですよ。人間楽を覚えれば努力を忘れて楽な方にへと流されていきますから」
「じゃあ、楽できない冒険者を貫く」
「期待しますね!キノさん達が宿屋を利用してくれないと赤字になっちゃいます。せめて私が生きてる間はずっと貴族でいたいので!」
「私達がいる事で楽に繋がってるなら出て行った方がいい?」
「ご勘弁を!!やっとお食事利用も増えてきたんですから!!!」
「えー、宿泊者は増えてないのに?」
「みなさんしかいませんよねー。貸切料金取っていいですか?」
「事務所の家賃で払ってる」
「えー!もっと欲しいですよ!!」
宿屋の女の子は冗談混じりにニコニコと笑いながら歓談を楽しむのだが、キノだけは感情を表に出さずに金属のように冷え切った表情であった。




