第475話 朝活
第475話 朝活
キノが次の身分の伯爵になるのに必要なお金は9800万エール。大公になるまでに必要なお金は4億4800万エール。馬鹿みたいにお金が必要である。
場所は変わって、キノとエナが籍を置く、ニーナが開いた冒険者事務所。部屋の中のソファーにはキノとベルが横になる。ニーナは自分の仕事用机に突っ伏していたのだが、背中から注がれる太陽の日差しが熱い。
瞼を擦りあくびを大きくすると、視界に入るのは荒れまくったいつもの冒険者事務所。酒盛り後の特有の匂いが不快に鼻に突き刺さり、机の上にあるのはまだ目を通していない書類の山。
キノがラフな格好でスクッと立ち上がり手を上に上げて寝ている間に縮こまった背中を伸ばす。
しばらく左右に体を感覚を確かめるように揺らすとフッと力を抜きながら息を吐く。
「さて、今日も仕事に行ってくる」
「ちょっと、キノお姉ちゃんにエナお姉ちゃん!!書類整理手伝ってよ!!!ダンジョン探索に依頼者との面接にやる事多すぎて大変なんだよ!」
「それが自分の仕事」
背中が大きく開けられたアサシン特有の運動性を追求した服の上からいつもの外套を羽織る。しかし、本体が入っている時の夜空を零したような奥ゆかしい光はない。
「お姉ちゃんが夜やろうと思ってた仕事を美味しいお酒を私に呑ませて仕事できないようにしたからでしょ!!!」
「エナがお土産に買って来たお茶のセット馬鹿にするから」
「私してないからね!!ベルでしょ!!何で裸なの?ねぇ?キノお姉ちゃん、何したの?」
机から飛び跳ねるようにしてソファーで寝ているベルを指差す。すると、何も着ていない状態でワインのボトルを抱きしめ、仰向けで身体が半分落ちそうな状態で深い眠りについていた。
感情に従って口にしていたニーナの言葉も、ベルの姿を見て一気に冷える。何故そんな格好なのか?自分が潰された後に職場のこの事務所で一体どんな事が起こっていたのかが、気が気で仕方ない。
と言うか、普通に嫌だった。
「朝から言えない事。ニーナにはお酒飲ませてない。麻痺や身体がダルくなる毒をドリンクに微量混ぜてそう見せた」
「そっちの方がタチ悪くない!?ってか、私の職場で一体何しちゃってるの!!」
「死んでないから大丈夫」
キョロキョロと床を見回し何かを探す。ソファーの影から真っ黒でモニモニした馴染みある外套の本体を引っ張り出すと無理矢理外套に押し付けようとする。
中々中に入らないため、無理矢理押し込むと漸く中に入っていった。
「エナ、いつまで遊んでるの?出勤」
部屋の本棚の一つがドアのように開く。すると、中から湯気と共にシャワーを浴びた後のエナが髪の毛の水分をタオルで拭き取りながら全裸で出てきた。丸メガネを掛けたその瞬間にキリッとした表情になるのだが、直ぐに膝を着き口元を押さえる。
「ウップ!気持ち悪!昨日飲んだお酒全部口から出て来そうなんだけど?」
「口から出るか下から出るかのどっちか。仕事に行くから早くどっちからか出して」
「容赦なさすぎない?」
「一回身体の中に入れたものは入れた時よりもその後片付けの方が大変。不祥事と同じ」
「朝からグロッキーなのに私は一体何を聞かされてるの?」
「朝起きた時に隣に寝ていた人が見知らぬ女性でも狼狽えないように覚悟を決めるための心構えのやり方」
「そんな心構え要らないから。それよりそんな事あったの....?」
先程まで全く興味ないと聞き流していたエナの目が大きく広げられ、キノのことを穴が開きそうなくらい狂ったように睨み付けていた。




