第472話 過剰な期待
第472話 過剰な期待
森を出ると直ぐに平民区に出る。太陽も正午を僅かに過ぎた程度。商人の大規模キャラバンが国外から凱旋したおかげか、街のあちらこちらで露店が開かれ、貴族の使用人もいち早く珍品を手に入れようと珍しくチラホラ平民区にいた。
「何か欲しいものある?」
「何だろ?あ、見て!!あそこの食器置いてあるお店見たい!」
「オッケー」
エナのキラキラと輝かせる目とは対照的にいつも以上に冷静なキノが低く応える。
「いらっしゃいませ」
「何買う?」
「何買おうかな?デンケン達に買ってあげようかと思ったんだけど、もうあの子達も働いてるからな....。自由になるお金はできたけど、もうこう言うの要らないのかな?」
「そう思うなら買わなくていい」
「だよね....」
「でも、買ってあげたいなら買えばいい。私は何歳になっても食器やカップ貰えたら嬉しい」
「そうなの?もう買えるとしても?」
「お金じゃない。その人達の事を思って何かを選ぶ。それって凄く大切なこと」
キノが露店の机に並べられたソーサラーやティーカップをマジマジと手に取りながらエナに言葉を掛ける。すると、露店の店主である痩せ型の男性が涙を流し、ゴシゴシと涙を拭っていた。
「中々いい事言うじゃねーか、姉ちゃん!どれでも好きなやつ持っていってくれ!サービスだ!」
「ええ!?流石にそれは悪いのでお金払いますよ!!」
「いやいいんだ!持っていってくれ!」
「えっと、じゃあ、これとこれをお願いします....。あ、もう一組お願いします。片方はこの住所で、もう一つは私達の拠点の宿屋に....」
「ああ!分かった!一つは今流行りの地下都市だな!任せとけ!」
「知ってるの?」
エナとのやり取りをただ傍観していたキノが不思議そうに口にする。
「知ってるも何も俺たちみたいな商人が仕入れたものを更に仕入れて横流ししてる露店商からしてみれば今激アツの場所よ。俺も昔は陶器を作って売っていたんだが、楽を覚えちまってな。安く大量に仕入れたものを安く売る。それには敵わなかった」
「夢から逃げたんだ」
「言い方冷めてぇなぁ。だが、その通りだ。俺は逃げだ。こんな単価じゃ、地下の出店料は払えない。かと言って今より上げれば人は買わなくなる」
「材料費が高くなっても知恵と工夫で生産職はどうとでもなる。まだ良い物を作ろうって気概はある?」
「勿論だ!せめてお客さんが定着するまでの数ヶ月の資金があれば俺だって地下で再起できる!」
「ならやって。最初の3ヶ月はサービスにしとく」
キノが露店に自分の手を乗せ、ゆっくりと引くとその上には地下で販売ができる証の木製証が置かれていた。
「姉ちゃん達は一体?」
そう言っても前には誰もいない。一組分のティーセットの代金である金貨が置かれているだけ。
身を乗り出して探そうとしても、
「この露店の可愛いティーセットで何飲もうかなーぁ!?領地ランキング一位のキノは何呑んじゃおうかなー?」
キノってあの?貴族になったばっかなのに一番自分の領地を持ってるあの?国と同規模に自分の都市を広げるって言ってるあの?
憶測も飛び交う中、先程までキノ達が居た露店の周りには少しばかり人だかりができていた。
「地下の許可証勝手に私ちゃっていいの?」
「私の街だから良い。極端な話私はあの街をどうとでもできる」
「かっこいいセリフ言ってるけど、どうする気もないでしょ?あわよくば勝手にお金を生産してくれれば良いと思ってるんだろうし」
キノが歩き出し、エナもそれについていく。




