66.カルダの元へ
「だって、カルダが捜しているのは私だし。私が行けばカルダも気が済むと思うし。っていうか、そもそも私があいつに会っちゃったのがいけないんだし」
またあの男に会うと思うと、足が震えるほどに怖いけれど、でもそれ以上に決心は固かった。
私は自分を落ち着かせるように一度深呼吸して、まっすぐに皆を見た。
「私の世界でもね、少し前までこのフェルクとランフォルセみたいな関係の国が多かったの。でも今はそんな国ほとんどなくなってきてる。皆、そんなのおかしい、人間には皆人権があって、皆平等であるべきだって、わかってきているからなの」
そういった世界の歴史をそこまで熱心に勉強してきたわけではないけれど、でも繰り返してはいけない過ちだということは理解していた。
「だから、カルダもちゃんと話せば分かってくれるかもしれない」
「確かにこのレヴールがカノンさんの住む世界のようになったらどんなに素敵でしょう。しかし、」
「やっぱりライゼちゃんはカルダに会ったらマズイよ。これからのことを考えてもさ。だから、ライゼちゃんはカルダのことよりも、村の人たちを安心させてあげて!」
「カノンさん……」
私は笑顔で続ける。
「もし話してもダメだったときは歌があるし! ほら、前にランフォルセで、なんて言ったっけ……カルダみたいに暴力的な兵士のやる気をなくしちゃったことがあったでしょ? あの歌をまた歌えばさ」
「アホかてめぇは!」
そう怒鳴ったのは、まだ小さな姿のままセリーンに後ろから抱きしめられているラグだ。
そんな状態で怒られても、いつものような威圧感は全くない。
それでもラグは顔を真っ赤にして怒鳴り続けた。
「あんなマグレみてぇな歌が何度も通用するか! お前は何でもかんでも甘く考え過ぎなんだよ!」
「私も行こう」
「んなっ!?」
「セリーン!」
セリーンが笑顔で言ってくれて私は目を輝かせる。
だが彼女の視線はすぐに腕の中の少年へと移った。
「どうせ、なんだかんだと言いながらお前もカノンについて行くつもりなのだろう?」
「は!? 誰が行くなんて」
「置いていかれると焦るくせになぁ。全く可愛い奴だ。言ったろう? お前が行くところ私はずっとついていくぞ!」
「意味わかんねぇーー!!」
ラグの幼い怒声がまたしても辺りに響き渡った。
よくわからないが、ラグも来てくれるということだろう。ふたりが一緒なら怖いものなんてない。
私はふたりに、ありがとうとお礼を言った。……聞こえているかどうかわからなかったけれど。
「皆さん……本当にありがとうございます」
ライゼちゃんが私たちに深く頭を下げたときだ。
「僕も行きたい」
そう言ったのはラウト君だった。
彼も色々と思うところがあるのだろう。目を覚ましたばかりのクラール君のことも気になっているはずだ。だが。
「お前はブライトとここに残るんだ」
ヴィルトさんの低い声がそれを遮った。
「俺が行く」
「ヴィルト様!? わ、私は、大丈夫です! ライゼ様が村へ行かれるのに守り役の私が行かないわけに、は……っ!」
焦って起き上がろうとしたブライト君だったが、すぐにその顔が苦痛に歪む。
内臓は治ったとはいえ、体中のいたるところに打撲の痕があるのだ。骨が折れている所もあるのかもしれない。
そんな彼を止めたのは、ライゼちゃんの怒りを含んだ声だった。
「これ以上無茶をするようなら守り役を解任しますよ、ブライト」
「そ、そんな!」
途端なんとも情けない顔になったブライト君に、ライゼちゃんは寂しそうに微笑んだ。
「守り役なんて元々私には必要ないのよ。それよりも貴方は私にとって大事な幼馴染だということを忘れないで。……これ以上、心配させないでちょうだい」
「ライゼ様……」
ブライト君の顔がほんのり赤くなったように見えたのは、私の気のせいではないだろう。
完全に納得したわけではないだろうがブライト君はそれ以上何も言わなかった。
ラウト君も、もう一度お父さんに言われ渋々ながら納得してくれたようだ
そうして、私たちは再び村へ行くことになった。
ライゼちゃんとヴィルトさんは村の皆の元へ。
そして、私たち三人と一匹はカルダの元へ――。




