↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
My Favorite Song ~異世界で破滅導くセイレーンになりました!?~  作者: 新城かいり
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/69

54.内緒の友達


「ちょっ、と、ラ、ラウトく、うわわっ……!」


 落ち葉や木の根に何度も足をとられかけ、転ばないようについて行くのでやっとだ。

 頼りの月明かりも樹木の天井によって遮られほとんど周りが見えていなかった。

 でもラウト君ははっきりと道筋が見えているかのように全く躊躇することなく進んでいく。

 さすがこの自然の中で暮らしているだけあって、私なんかに比べると相当に夜目が利くのだろう。

 私はすでに息切れしつつ、もう一度彼に声を掛けた。


「ラウト君! ねぇ、どこに行くの!?」

「僕の友達のところだよ!」

「そ、その友達ってどこにいるの?」

「ベレーベントの村!」


 その村の名前には聞き覚えがあった。確か……。


「それって、今日来てくれた子達が住んでる村でしょ?」

「うん、そう!」

「じゃぁ、その友達って、今日来てくれてた子?」

「ううん! いなかったんだ。だからそいつにもお姉さんの歌を聴いてもらいたいんだ!」


 やっと、こうして手を引かれている理由がわかった。

 だから明日私たちが帰ってしまうと聞いてラウト君は焦っているのだ。

 私にとっては嬉しいことだけれど、私たちだけで誰にも告げず村へ行ってしまって大丈夫だろうか。

 確か、村にはランフォルセの人が見回りにやってくると言っていた。

 それに一目見てよそ者だとわかる私を村の人たちはどう思うだろうか。

 ラグの言葉が思い出される。


 ――想像してみるんだな。下手すりゃルバートの二の舞になるぞ。


 やっぱり、私たちだけではまずい気がした。


「ねぇ、ラウト君。やっぱり一度戻ろうよ。行くならちゃんとライゼちゃんに話してからの方が」

「ダメ! 姉ちゃんには内緒なんだ!」


 それは切羽詰ったような声。


「内緒?」

「……」


 そこで、ようやくラウト君の足が止まった。

 今まで引っ張られていた手が離れる。


「内緒って、どういうこと?」


 もう一度私は訊いた。

 とても仲が良さそうに見えた姉弟。隠し事があるなんて、なんだか信じられなかった。

 ラウト君は俯きながらゆっくりと答えてくれた。


「……本当は僕、村へは行っちゃいけないんだ。姉ちゃんのことがバレたら大変だからって。でも僕、内緒で時々村に行ってたんだ」

「その友達に会いに?」

「うん。だって、初めて出来た友達なんだ。……でもあいつ、クラールって言うんだけど、最近元気無くってさ。だから、お姉さんのあの歌を一緒に歌ったら絶対元気が出ると思うんだ。だからお願い、一緒に来てよ!」


 再び私の目をまっすぐに見て言うラウト君。

 私はその強い瞳に、色は違えどお姉ちゃんと同じものを見た気がした。


「うん。わかった」

「本当!?」

「でも、その子にはすぐに会えるの? ほら、あんまり私達の帰りが遅いと皆心配するし、ライゼちゃんにもバレちゃうかもしれないでしょ?」

「うん、それは平気! だってクラールの家、この森を出てすぐだから」

「そっか。でも、その村まであとどのくらい掛かるの?」

「あと少しだよ! ついて来て!」


 言うなりまた走り出してしまったラウト君に私は慌てて声を掛ける。


「ちょっと待って! その、やっぱり手引いてもらっていい? 暗くて良く見えないんだ」


 苦笑しながら手を出すと、ラウト君は笑顔で頷きその手を取ってくれた。


 ――もしかしたら、セリーンが私の帰りが遅いことを心配しているかもしれない。

 ちょっとラグの所に行って来る、そう言って出てきたままだ。

 セリーンのことだから、また私とラグが……なんてことを考えているかもしれないけれど。

 どちらにしても、私たちがいないことに誰かが気づくのは時間の問題だろう。

 でも、今この手を振り払うことは出来なかった。

 ……ラグは明日本気でこの国を出るつもりでいる。

 なら私は、ライゼちゃんの愛するこの国の人たちのために出来る限りのことをしたかった。

 ――この国を出る、その時まで。




 それからどのくらい走っただろう。

 やっと前方にちらちらと明かりが見えはじめた。


 ラウトくんの言う「あと少し」は私にとっては結構な距離だった。

 でもきっと彼だけならもっと早く着いていたのだろう。

 息が切れて立ち止まる度に「ほらお姉さん、もう少しだから頑張って!」 なんて言われてしまって、情けなくて苦笑するしかなかった。


 でも住居らしきものが確認出来るところまで近づくと、ラウト君の行動が途端ゆっくりになった。


(誰かに見つかったらマズイもんね)


 慎重にならなければ。

 荒い息を整えながら、私も気を引き締めた。



「あそこに見えるのがクラールの家」


 木の影から指差した先を見ると、今ラグが寝泊りしているラウト君のお家と同じ造りの住居が確認できた。

 でも大分小ぶりで、しかもかなり寂れて見える。

 ほんのり中の灯りが漏れていなかったら人が住んでいるとは思わなかっただろう。


「僕先に行って見てくるから、ちょっと待ってて!」

「あ、うん。……早くね!」


 なんとなく心細くなって小さく叫ぶとラウト君が手を振って答えてくれた。

 ひとりになり私はその場に腰を下ろす。


(ふぃ~、こんなに長く走ったの持久走以来かも)


 次から次に額から流れてくる汗を拭いながら、私はふと中学の体育の授業を思い出していた。

 元々運動は得意な方ではないけれど、この世界に来てから何度自分の体力の無さを痛感しただろう。

 でも確実に足の筋肉は付いてきている気がした。……あまり嬉しくないけれど。


 一息ついたところで、私は改めてラウト君の行った先を見つめた。

 彼の姿は見えない。家の中に入ってしまったのだろうか。

 ……そのクラール君という友達はどういう子なのだろう。

 ラウト君の言い方からきっと男の子なのだろうと予想はついたが、今日の子達の中にいなかったというのがやはり気になった。

 内緒で会っていたというからには、きっとクラール君の家族もそのことは知らないはず。

 この時間、家族に気付かれずにその子に会うことなど可能なのだろうか……?


 ひとりでいると答えの出ない疑問ばかり浮かんでくる。


(やっぱ、まずかったかなぁ)


 冷静になって良く考えてみたら、ラウト君がいなくなったことに一番に気付くだろう人物はヴィルトさんだ。

 もう気付いている頃かもしれない。

 子供が夜間にいなくなって慌てない親はいない。

 そうなると、私も一緒にいないことに皆すぐに気が付くだろう。

 ……皆にどう説明しよう。

 私は急に落ち着かなくなって立ち上がった。


「早く来ないかな、ラウト君」

「お姉さん!」

「ぅひゃ!」


 暗闇からいきなり現われたラウト君に私は思わず飛び上がって驚いてしまった。


「ど、どうだっ」

「大変なんだ! お姉さん一緒に来て!」


 私の言葉を遮って、ラウト君が叫ぶ。

 彼のただならぬ様子に私はドキリとする。

 何があったのだろう。

 私はラウト君に強く手を引かれながら、迷うことなく前方に見える家へと走った。



 扉代わりのぼろぼろの布を上げ、ラウト君に続き私は中へと入った。

 中は敷物がほとんどなく、ほぼ地べたが丸見えの状態だった。そこに乱雑に鍋や皿などが転がっている。

 そして一番奥の隅に、ひとりの少年が横たわっていた。

 傍らで頼りなく揺れている蝋燭の明かりに照らされたその身体を見て、私は思わず口を押さえる。

 頬はやせこけ、服から覗いた腕や足は棒のように細かった。

 かろうじて胸が上下に動いているのを見てほっとするも、目の前の少年は明らかに衰弱しきっていた。


 彼が、クラール君……?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。