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My Favorite Song ~異世界で破滅導くセイレーンになりました!?~  作者: 新城かいり
第一章

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53.罪悪感


「あの神導術士にも、そう伝えとけよ」


 言いながらさっさと背を向け行こうとするラグを私は慌てて呼び止める。


「ちょっ、ちょっと待ってよ!」


 反論を予想していたのだろう、ラグが面倒くさそうに足を止め振り返った。


「なんだよ」

「もう出るって、だってまだ昨日来たばっかりだよ!?」

「喜んでもらえたんだろ。だったらそれでいいじゃねぇか。ここで帰っても誰も文句は言わねーよ」

「で、でも、まだ……」


 そう。まだこの国に来た目的――ライゼちゃんの願いを叶えてあげられていない。

 フェルクレールトの皆を助けて欲しいという、彼女の切な願い。


「お前は、本気でこの国を救えると思っているのか?」

「え?」


 ラグの冷たい視線にどきりとする。

 暑さとは別の嫌な汗が額に滲む。


「今日ガキの前で歌って。で? 次は大人の前で歌うつもりか」

「う、うん。……多分、ライゼちゃんはそのつもりだと、思う」


 ゆっくり視線を逸らしながら、私は答える。

 するとラグはいつものように深く溜息を吐いた。


「やめとけ。無理に決まってる」


 あっさりと否定されムっとする。


「なんで? 子供も大人も一緒でしょ? ラグは見てなかったから知らないかもしれないけど、今日来た子達みんなすっごく楽しそうだったんだよ!?」


 思わず大きな声が出てしまっていた。

 周囲の虫たちの大合唱がその瞬間ピタリと止んで、すぐに再開する。

 手の上ではブゥが不安そうに私たちを見上げていた。

 ラグが低い声で言う。


「大人とガキとは違う。生きてきた長さも、現実を見てきた長さも、な」


 その淡々としたセリフを聞いて、私は言葉に詰まった。

 それは、つい先ほど私自身が考えていたことだ。

 でもそれを認めてしまったら、ライゼちゃんの願いを今更否定することになってしまう。


「想像してみるんだな。下手すりゃルバートの二の舞になるぞ」


 途端、あの街で一人追いかけられたことを思い出し体に小さく震えが走った。


「で、でも、ライゼちゃんが大丈夫だって言ってくれれば、きっと皆信じてくれるはずだよ!」


 ――そうだ。この国にとってライゼちゃんの存在は大きい。

 きっと彼女の言うことなら皆信じるはずだ。

 今日のように、歌は素敵なものだと最初に皆に伝えてくれれば……。

 だが、ラグは肩をすくめ嘲るように口の端を上げた。


「どうだかな。神導術士といってもまだガキじゃねぇか。どれだけ信頼されてるんだか怪しいもんだな」

「そんな言い方……っ! ライゼちゃんあの歳でこの国の皆のために凄く頑張ってるんだよ!」


 ブゥが私の手から逃げるように飛び立っていく。

 ライゼちゃんの頑張りを馬鹿にされた気がして、どうしようもなく腹立たしかった。


「頑張ってるって、所詮ガキに出来ることなんざ限られてんだよ。お前だってそうだ。いい加減歌で人を救うなんて、それこそガキみたいな考えさっさと捨てちまえ」

「ガキガキって、子供にだって出来ることがあるでしょ!? ラグだって、ライゼちゃんと同じ歳の頃、戦争に出て一生懸命頑張ってたんじゃないの!?」


 言ってしまってから激しく後悔する。

 ラグの目つきが明らかに変わった。

 動揺、怒り、そして……。

 それは鋭く私を突き刺して、すぐに逸らされた。


「……とにかく、オレは明日ここを出る。こんなクソ暑いとこ、これ以上いられるか」


 そう言い捨て、今度こそ彼は行ってしまった。

 ブゥは私と彼とを見比べ少し迷うような素振りを見せてから彼について行った。

 残された私は、酷い罪悪感にかられていた。


(私、今なんて……?)


 ラグの目つきが頭から離れない。

 彼が一瞬見せた、まるで傷ついた子供のような目。

 そして、昨夜自嘲気味に当時のことを語った彼の表情が蘇る。


 ……なんて、無神経なことを言ってしまったのだろう。


 ついさっき、魔導大戦のことは当分口にしないと決めたばかりだったのに。

 後悔と自己嫌悪で涙が出そうだった。

 彼の神経を逆なでしそうで、今更謝りにも行けない。


(それに、どうすればいい? ライゼちゃんに、なんて言えば……)


 明日の朝には発つと言い切ったラグ。

 もう付き合いきれないという意味だろう。

 呪いを解くために私の……銀のセイレーンの歌が必要だと言った彼。

 でも彼なら、私がいなくても自力で他の方法を見つけ出せる気がした。

 セリーンがどちらにつくかは、考えなくてもすぐにわかる。


 ――明日、まだここに居たいと言えば、私はこの国に一人残ることになってしまう。


(もしライゼちゃんの願いを叶えてあげられたとしても、その後一人でエルネストさんを捜すなんて無理だよ……)


 前に進むことも、戻ることも出来ない。

 この場から動けない。


「どうしよう……」


 闇の中途方に暮れ立ち尽くしていると、再び近くの虫の声が止んだ。

 前方からこちらに駆けてくる足音。

 瞬間ラグが戻ってきてくれたのかと思ったが、違った。


「ラウト君?」

「ねぇ、お姉さん! もう帰っちゃうって本当?」


 暗闇から現れた少年からいきなり迷っていたところを突かれ、言葉に詰まる。

 でもラウト君の様子がこれまでと違うことに気づき、私は腰をかがめて彼と目線を合わせた。


「うん、ラグはそのつもりみたいなんだ。私はまだ帰りたくないんだけどね、お姉ちゃんとの約束があるし」


 そう苦笑しながら言うと、ラウト君は何か考え込むように視線を落とした。

 何だか彼はとても焦っているように見えた。

 いや、それよりもソワソワしていると言った方が近いだろうか。


「そうだよね、ラウト君だってお姉ちゃんのお願い叶えてあげたいよね」

「ねぇ、お姉さん。お願いがあるんだ」


 思い切るように顔を上げたラウト君の表情は、驚くほど大人びて見えた。


「ん?」

「僕の友達を、助けて欲しいんだ」


 それは周囲に聞こえないように注意した小さな声だったけれど、その瞳はまっすぐ真剣で、こちらが戸惑ってしまうほどの強い意志が感じられた。


「友達って?」

「一緒に来て!」

「ぇ、わっ……!」


 途端私は強く手を引かれ、つんのめるようにして真っ暗な森の中へと走り出していた。




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