46.切ない想い
「ですがライゼ様、子供たちの親にはどう説明いたしましょう」
「私が呼んでいると。皆も順に呼ぶと、そう伝えてください」
「承知いたしました。それでは、早速」
私は小さく驚く。
今のやり取りだけでも、ライゼちゃんがこの国にとってどれだけ大きな存在なのかわかった気がした。
「ブライト」
「は」
一度背を向けたブライト君にライゼちゃんが声をかける。
と、再び振り返った彼は明らかに動揺した素振りを見せた。
ライゼちゃんが目を細め、優しく微笑んでいた。
「あなたにも、カノンさんの歌を聴いてもらいます。そうすればきっと、私がカノンさんをここへお連れした意味がわかると思うから」
「は、はい! そ、それでは、失礼いたします!」
ブライト君は赤く染まった顔を隠すように深く頭を下げると急ぎ去っていった。
それを見送りながら、私は顔が緩んでいくのを止められなかった。
(思った通り!)
ブライト君はやっぱりライゼちゃんに想いを寄せているみたいだ。
(あんな可愛い笑顔を向けられて、私が男だったら間違いなく好きになっちゃうもんね)
でも昨夜のライゼちゃんの反応からして、おそらく彼の片思いだろう。
ライゼちゃんは彼の気持ちに全く気付いていないようだった。
それをブライト君はおそらくわかっている。
立場上、婚約者のことも知らないはずがない。
そう考えると、彼の想いはとても切ない……。
(応援してあげたいな)
完全に部外者な私がそんなことを思うのは、お節介以外の何ものでもないけれど、まだ会ったことのない婚約者より断然ブライト君を応援してあげたいと思った。
(がんばれブライト君!)
「おい百面相、すぐに歌えるんだろうな」
「へ!?」
突然間近で聞こえたラグの声に驚く。
いつの間にか彼は私のすぐ傍にいた。
「百面相って……私そんな変な顔してた?」
「見ていて面白かったぞ」
頬に手を当てて焦る私に答えたのはセリーンだ。
かぁっと顔が熱くなる。
ラウト君は私の真似をしているのか頬を手でぐにぐにと動かし色んな表情を作ってヴィルトさんに見せていた。
ヴィルトさんは全く表情を変えなかったけれど、私は更に顔が熱くなるのを感じた。
そんな私たちを見て、ライゼちゃんがひとりクスクスと笑っている。
「で、歌えそうなのか? ……ぶっ倒れねぇで」
私にしか聞こえないような小声で、ラグがもう一度私に確認する。
昨日私が恥ずかしいと言ったことを気にしてくれたみたいだ。
「うん、大丈夫。……多分」
最後付け加えた言葉に、彼は一瞬不安そうに眉を顰めた。
でも。
(多分、大丈夫)
そんな気がした。
昨夜のラグの講義のお蔭だろうか。
依然緊張はあるけれど、昨日まではなかった妙な自信があった。
それに子供達の前で歌う歌はもう決まっていた。
おそらく今までに一度も歌を聴いたことのない子供達。
そんな彼らにぴったりな歌が先ほどから頭の中で流れていた。
「楽しんでくれたらいいなぁ」
「楽しむ? 歌を楽しむのか?」
私の何気ない一言に反応したのはセリーンだ。
ライゼちゃんも不思議そうな、でもどこか期待するような目で私を見ている。
――そうだ。子供達だけじゃない。
(セリーンもライゼちゃんも……ううん、ここにいる皆が、歌がどんなに楽しいものか知らないんだ)
私は少し得意げになって言う。
「うん! 歌って、とっても楽しいんだよ!」
歌のことを早く皆に知って欲しいと思った。




