45.魔導術士と神導術士
「銀のセイレーン!?」
ブライト君が私の方を見て素っ頓狂な声を上げた。
「って、あの、伝説の……ですか?」
その目には色んな感情が織り交ざっていた。
勿論その中に“破滅を導く者”への畏怖も見えたけれど……。
(どちらかっていうと「この人が?」って感じ)
頭の中に“銀のセイレーンは絶世の美女”というラグの言葉が蘇っていた。
私はどうにも居心地が悪く、とりあえず大分ぎこちないだろう愛想笑いを浮かべてみた。
そんな私を見てブライト君がますます怪訝そうに眉を寄せたのは、言うまでもない。
――テントの前に今全員が集まっていた。
セリーンは私のすぐ傍らに。ラグは近くの木に寄りかかりいつもの如く不機嫌そうに腕を組んでいる。その髪の毛ではブゥがぐっすりお休み中だ。
ヴィルトさんも一日寝て流石に全快したようで、つい先ほどラウト君と共にしっかりとした足取りで歩いてきた。
彼は元戦士なのだという。初めて出会ったときと同じ、今は十分にその風格が漂っていた。
「そうだよブライト! お姉さん歌うと髪の毛が銀色に変わるんだよね」
微妙なこの場の雰囲気を吹き飛ばすような元気な声に、私はびくりとする。
「えっ、あ、そうなんです。何でか自分でもわからないんだけど……あははは」
「ライゼ様、それが真実だとしてなぜこの地へ……!?」
ブライト君は空笑いする私からさっさと視線を外し、困惑するようにライゼちゃんに訊いた。
「カノンさんに歌っていただくためです」
「歌って……って、しかし銀のセイレーンの歌は破滅を導くと!」
「心配ありません。その伝説は偽りです。カノンさんの歌は、人を救うものだと私は確信しています」
その迷いの無いまっすぐな言葉を聞いて、ブライト君は一瞬絶句したようだった。
「で、では、他のお二人は……」
「私はセリーン。傭兵だ。護衛としてカノンと行動を共にしている」
素早く自己紹介をしたセリーンにブライト君は戸惑い気味に一礼した。
そしてその視線がラグの方へと移る。
「あの方は……」
「魔導術士のラグさんです」
「ま……!?」
ライゼちゃんの小さな、でもはっきりとした声にブライト君の目が驚愕に見開かれた。
私が銀のセイレーンだと聞いたときよりもずっと、その反応は大きい。
胸がざわついた。
「な、なぜ魔導術士などをここに!? ライゼ様、御気は確かですか!?」
その声は完全に裏返っていた。
――オレ達はこの特別な力を、戦争で使った。
昨夜のラグの言葉が蘇る。
見ると彼は、まるでこちらの話を聞いていないかのように目を閉じていた。
「神導術士であるライゼ様が、ま、魔導術士とこんなに近くに……こ、こんなことが……っ」
「ブライト。この方々は私の恩人だと言ったはずです。口を慎みなさい」
「し、しかし!」
主であるライゼちゃんの厳しい言葉にもブライト君は引き下がらない。だがその時。
「ねぇブライト! お兄さんね、空飛べてすっごいカッコいいんだよ!」
ラウト君の明るい声がまたもその場の雰囲気をガラリと変えた。
ポカンと口を開け、にこにこ顔の少年を見下ろすブライト君。
そして。
「魔導術士は、もう我らの敵ではない」
今まで黙っていたヴィルトさんの低い声に、漸くブライト君は口を噤んだ。
(“もう”、ってことは、以前は敵同士だったってこと……?)
ライゼちゃんが再び口を開く。
「ブライト。頼みがあります」
「は、はい!」
「この場へ、村の子供達をなるべく多く集めてきて欲しいのです」
「子供?」
思わず私は訊き返していた。
「はい。カノンさんにはまず子供達の前で歌って頂きたいと思っています」
それを聞いて私は正直ほっとした。
小さな子達の前でならそれほど緊張せずに歌える気がしたからだ。
(ううん、むしろ楽しく歌えそう!)
「だが、村から子供達が急にいなくなったのでは、ランフォルセの者らが気づくのではないか?」
「そ、そうだよね、それでもしここが……ライゼちゃんのことがバレちゃったら大変だよ!」
「それは、おそらく大丈夫です」
私達の懸念に低く答えたのはブライト君だった。
「気が向いたときにだけ見回りに来るような奴らなので……」
その言葉には明らかに怒気が含まれていた。
誰かに支配されているという感覚は、平和な国でこれまでぬくぬくと育ってきた私には到底わかりっこないけれど、彼がその人たちを嫌って……違う、憎んでいることははっきりとわかった。
そして、魔導術士が昔この国と敵同士だったという事実。
ラグのことも同じように憎んでいるのだろうか。
(ブライト君だけじゃない。もしかして、ライゼちゃんも……?)
ラグは今、どういう気持ちでこの地にいるのだろう。
彼は早くこの国から出たがっていた。
それは、単にエルネストさんがいないとわかったからではないのかもしれない。
見ると、彼はまだひとり目を伏せていた。




