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My Favorite Song ~異世界で破滅導くセイレーンになりました!?~  作者: 新城かいり
第一章

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34/69

34.飛翔


「そろそろ潮が満ちてくる頃です。急いでください!」

「え!?」


 結局、躊躇っている時間はなくなった。

 この洞窟の入り口は潮の満ち引きによって現れたり消えたりするらしい。そのおかげでこの国の人たちにも未だに見つかっていないのだそうだ。


 私たちはおっかなびっくり、ビアンカのそのひんやりと冷たい胴体に跨った。


「皆さん、準備はいいですか? しっかりと鱗を掴んでいてくださいね」


 ライゼちゃんがこちらを振り向き言った。

 私はドキドキと高鳴る自分の心臓の音を聞きながらビアンカのひんやりとした鱗をしっかりと握り締めた。

 私の前にはラグと、吹き飛ばされないようにとその胸ポケットに入ったブゥ。

 後ろにはセリーン。そして最後尾にヴィルトさん。……ちらりと後ろを見ると、彼はしっかりと目を閉じていた。


 先ほどラウト君がこっそり教えてくれた。

 ライゼちゃんたちと街中で出会ったあの時、ヴィルトさんはあの地下室で寝込んでいたらしい。

 それを心配したラウト君はひとり薬を買うために街に出た。

 だがすぐに後を追いかけたライゼちゃんと共にあのバッソとかいう兵士に捕まってしまったのだそうだ。


 ヴィルトさんをそんな状態にさせてしまったビアンカの乗り心地は一体どれほどのものなのだろう。

 でももう後戻りは出来ないし、したくない。


「よっし、ビアンカ出発だ!」


 先頭の乗るラウト君が岩の間から見える夜空をびしっと指差した。


「ビアンカ、お願いします」


 二人の声に答えるように、ビアンカはその大きな白い翼をバサリと動かした。


(うわっ……!)


 その一度の羽ばたきだけで重そうな身体がふわりと浮き上がるのがわかった。

 二度目の羽ばたきで、ぐんっと後ろに引っ張られる感覚と共に強い風が全身にあたりぎゅっと目を瞑る。

 気圧の急激な変化に鼓膜が悲鳴を上げる。

 なんとか目を開けた瞬間、眼前に広がったのは満天の星空と白く大きな月に照らされキラキラと輝く大海!


「うっわあ~!」


 その神秘的な美しさに思わず感嘆の声が漏れていた。

 先ほどの強い風も、今はまるで自分がその風になってしまったかのように心地よく全身を撫ぜていく。


「ねー! 気持ちいいでしょー!?」


 前方から聞こえてきたラウト君の大声に、私も大声で返す。


「うん、気持ちいー!」

「はしゃぎ過ぎて落ちるなよ」


 そんなラグの呆れたような声も、風と共に私の横を通り過ぎていく。

 眼下にはルバートの港を確認することができた。大きな船が何隻も泊まっている。


(本当ならあの船に乗って行くつもりだったのに……)


 まさかこんなふうにドラゴンさながらのモンスターに乗って空を飛ぶなんて思いもしなかった。

 薄い雲を追い越し、月に向かうようにグングン上昇していくビアンカ。

 さすがに肌寒さを覚えた頃、ビアンカはその翼を一度大きく羽ばたかせた。


「もう手は放しても大丈夫ですよ。あとはまっすぐ進むだけですから」


 そんなライゼちゃんの声を聞きながら、私はおっかなびっくり足元を見下ろす。

 そしてその吸い込まれそうな闇に、ぎゅっとビアンカの鱗を掴み直した。


「フェルクレールトに着くまでの間、一度も降りないつもりじゃねぇよな」


 ラグが自分の前にいるライゼちゃんに訊いた。


「何度か休憩を取りながら向かいます。私達は町には入れませんが、どこか途中で寄りたい場所がありましたら……」

「さすがに腹が減ったんでな、どこでもいいから一度町に降ろしてくれ」

「それならキャルムの町にしよう。美味い料理を出す店がある」


 そう言ったのはセリーンだ。

 彼女がライゼちゃんにその町の場所を伝えている間、私は自分も空腹だったことを思い出した。

 と、そのときだ。


「ブゥ?」


 ラグが小さく呟くのが聞こえた。


「なに? ブゥどうしたの?」

「……震えてやがる。おい、ブゥどうした。寒いのか?」

「ぶぅぅ~」


 返ってきたのはそんな弱々しい鳴き声。

 と、セリーンとの話が終わったらしいライゼちゃんがラグの胸ポケットを見て心配そうに言った。


「あぁ、とても怖がっていますね」

「怖が……!?」

「はい。きっとここまで高く飛んだことがないのでしょう。……ビアンカ、お願い。もう少し低く飛んでもらってもいい?」


 するとビアンカは緩やかに下降しはじめた。


「ブゥ、大丈夫か?」


 ラグの気遣わしげな声が小さく聞こえてきた。

 ――まさか、ビアンカと同じく翼を持ったブゥが高いところが怖いなんて思いもしなかった。


(ブゥのことも気になるけど……)


 私はセリーンの背後へと視線を送る。

 ヴィルトさんは深く眉間に皺を寄せやはり目を瞑っていた。……その大きな両手はしっかりと鱗を掴んでいて。


「そのキャルムの町までどのくらいかかりそう?」

「おそらく明け方までには着くと思います」


 私の問いにライゼちゃんが答えてくれたけれど、今は一体何時頃なのだろう。


(とにかく、なるべく早く着きますように……!)


 色んな意味を込めて、私は白く浮かぶ月に願った。



ここまでお読みいただきありがとうございます!

評価やご感想など頂けたら大変励みになります。


引き続き、物語をお楽しみ頂けたら幸いです。


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