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My Favorite Song ~異世界で破滅導くセイレーンになりました!?~  作者: 新城かいり
第一章

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24/70

24.願いの歌


  ねぇ なぜ争うの?

  どこかで誰かが泣いている


  ねぇ なぜ戦うの?

  どこかで誰かが叫んでる


  心はみんな同じ

  楽しいときは笑うし

  悲しいときは涙が出るよね


  ケンカをしたら仲直り

  そしてみんなで歌いましょう

  そうすれば ほら また笑い合える


  小さな頃そうしていたでしょう

  ほら 思い出してみて

  そうすれば 世界は少し変わるはず



 歌声が辺りに響いていく。

 全身が火照ったように熱い。


 髪が、銀に輝く。


 ――この歌を作ったのはいつだったろう。

 学校の授業だったか、テレビだったか、きっかけは忘れてしまったけれど、世界の悲しい歴史を知った私はその時の想いを歌にしたのだ。


 争いや差別の無い、平和な世界を願って。



  みんなで一緒に歌いましょう

  どこかで泣いている誰かに

  どこかで叫んでいる誰かに

  この歌を届けましょう


  その声は小さくても

  きっと大きな光となって届くわ

  そうすれば 世界は少し変わるはず


  こんなに広い世界が ほら ひとつになっていくよ



 セリーンの背中越しに兵士が剣を落とすのが見えた。

 その音と同時、それまで呆けたようにこちらを見つめていた人々が蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。

 剣を下ろしたセリーンの瞳が、私を捉えて大きく見開かれている。

 兵士がそのままがっくりと膝を着くのを確認して、私は歌うのを止めた。


 振り向いて、抱き合いこちらを見上げている姉弟に言う。


「早く、逃げて」

「あなたは……」


 少女が何かを言いかける。

 でもそこで、ガチャガチャという複数の音に気付く。

 騒ぎを聞きつけたらしい他の兵士たちが足音を響かせながらこちらに走ってくるのが見えた。

 少女は弟を支えながらすぐそこの狭い小道に消えていった。


 それを見届けると、気が抜けたせいか足がふらついて立っていられなくなった。

 その場に崩れ落ちる――寸前。


「こっのアホ! 何やってんだ!」


 そんな聞き慣れた怒声とともにひょいと身体が宙に浮いた。


(……え?)


「風を此処に……!!」


 途端、鼓膜が破れるようなすさまじい風の音に襲われた。

 間近にラグの怒った顔が見えて、でもすぐに目を開けていられなくなる。

 その強い風に乗るように私たちは空高く舞い上がった。




 風が弱まり薄目を開けた丁度そのとき、トンっという軽い音が聞こえた。

 彼が地面に降り立ったのだとわかりホッとしたのも束の間、それまで支えてくれていた手が離れ私はお尻から落下した。


「いったた……」


 お尻を摩りながら涙目で周囲を確認する。

 そこは、白い建物に囲まれた狭い路地だった。

 人通りは無く、建物の影で昼間だというのにひどく薄暗い。

 どうやら街からは出ていないみたいだ。


 そして、目の前に立つ人物を私は恐る恐る見上げる。

 予想通り、眉間に深い皺を刻んだ“少年”がこちらを威圧するように見下ろしていた。

 確実にご立腹な様子の彼に、それでもお礼を言おうと口を開きかけたときだ。


「何を考えてんだ! あんな場所で歌いやがって、どれだけの人に顔を見られたと思ってやがる!」


 ラグの甲高い怒鳴り声が建物の壁に反響する。

 肩をすくめながら彼が今小さな姿で良かったと思った。

 大きい方の彼に怒鳴られていたら、きっと何も言えなくなってしまっていただろうから。


「だって、酷いんだもん……。ラグだってそう思ったでしょ? あんな小さな子を」

「弱ぇくせにこの国に来たあいつらがいけねーんだ! そんなのにいちいち構っていられるか!」

「何か事情があったんだよ! ……それにあの子、銀のセイレーンとして処刑されるって聞いて……」


 それが単なる口実だとしても、知らんふりは出来なかった。


「自分が処刑された方が良いってのか? 随分とご立派だな」


 鼻で笑うように言われてムっとする。


「そんなんじゃないよ! 私だって、すごく怖かった」

「なら出しゃばったマネするんじゃねぇ! お前に死なれるとこっちが困んだよ!」


 再び強く怒鳴られて、私は視線を落とし唇を噛んだ。

 本当は、助けてくれてありがとうと言いたかったのに。


「……そう、だよね。ラグは呪いを解きたいんだもんね」


 口から出ていたのはそんな皮肉めいた言葉だ。


「あぁ、その通りだ。わかってんなら二度と余計なことに首突っ込むな!」


 ……彼は私を何度も助けてくれている。

 でもそれは彼が私の……銀のセイレーンの歌を必要としているから。

 きっと私が銀のセイレーンでなかったら、先ほどの騒ぎなど気にも留めずにさっさと通り過ぎていたのだろう。

 そう思ったら、急に悲しくなってきた。


 セリーンも私が止めに入るまでは街の人たちと同じようにただあの子達を見ているだけだった。

 ……私を見て驚いていた彼女。

 こうなってしまった以上、きっと彼女にももうお礼を言うことは出来ない。


 俯く私を反省していると取ったのか、ラグは深く溜息を吐いてそれ以上声を荒げることはしなかった。


「さぁて、これからどうするか。すぐにここまで追ってくるぞ。港も最悪封鎖されてるだろうな」


 ラグのその言葉に私は顔を上げる。


「船に、乗れないってこと?」

「出国にはそれなりの手続きが必要になる。おそらくそこは張られてるだろ。……とりあえず、暗くなるまで身を隠せるところを探すしかねーか」


 舌打ちをしながら苦々しく言うラグ。


 ――そうだ。今は感傷に浸っている場合じゃない。

 兵士に捕まってしまったらおしまいだ。

 ラグが術を使えない今、私の歌がまた必要になるかもしれない。


 私は暗い考えを無理やりに振り払い、気を引き締めて立ち上がろうとして。


「あ、あれ?」


 酷い眩暈に襲われ再びストンと座り込んでしまった。


(嘘でしょ。こんな時に、貧血……!?)




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