21.険悪なふたり
結局、それらしきものが見えてきたのはセデを出て4日目の昼ごろだった。
「あれって街? もしかして、やっと?」
思わず立ち止って呟いていた。
草原の向こうに建物の屋根らしきものが確認できたのだ。
あれがルバートだろうか。
――ちなみに、ここまで野盗に襲われること2回。モンスターに襲われること10回以上。途中数えるのが面倒になって止めてしまったほどの敵と遭遇した。
その度ラグとセリーンの二人がすぐに撃退してくれるのだが、昨日の朝など起きた途端その目に飛び込んできたモンスターの死骸に、危うく吐きそうになってしまった。胃が空っぽだったのが幸いしたけれど……。
それにしても、二人とも相当戦い慣れているのが見て取れた。
上手くは言えないけれど、セリーンの場合動きに無駄が無く鮮やかなのだ。その剣さばきは時に優雅に踊っているようにさえ見えた。
ラグはセリーンと比べて大分荒っぽい戦い方だったけれど、とにかく素早く敵に反撃の隙を与えなかった。
彼はあれから一切術は使わず、例のナイフと自分の手足をフルに使って応戦していた。
日に日にセリーンの目が据わっていくのがわかったけれど、私は……おそらくはラグも敢えて知らないふりをしていた。
「あぁ、あれがルバートだ」
後ろにいるセリーンがまた一段と低くなった気がする声で答えてくれた。
私は、ほぅと息を吐く。
漸くここまで来られたのだ。我ながら良く頑張ったと思う。
こんなにサバイバルな生活は生まれて初めてだけれど、あんなに悲鳴を上げていた足も流石に慣れてきたのかそこまで気にならなくなっていた。
草の匂いのする風の中に、微かに潮の香りが混じったような気がして私の心は久し振りに浮き立った。
もともと海が好きなのもあるが、ここ数日山や草原ばかりを見ていたから尚更だ。
――なのに。
「ふぅ、漸く見えてきたか。思ったよりも大分かかっちまったな」
前を歩くラグがそんなふうにぼやくのが聞こえて、私の気分は急落する。
「ごめんね、歩くの遅くて」
「……」
(否定しないし~)
私がこっそり口を尖らせていると後ろから声がかかった。
「カノンはルバートは初めてか。……あぁ、田舎から出てきたと言っていたな」
「え? あ、はい」
「なら色々と見て回るといい。大きな街だ。服も流行りのものが揃っているしな、食事も」
「そんなヒマは無い。着いたらすぐに港に入る」
セリーンの台詞を遮るようにラグが抑揚の無い声で言う。
途端、彼女の眉がぴくりと跳ね上がった。
私はひとり肩を窄める。
「少しくらいいいだろう」
「良くねぇ。すぐに船を確保しねーと明日になっちまうかもしれねーだろ」
……二人のこんなやり取りはこれで何度目になるだろう。
流石に慣れてはきたが、私を真ん中に挟んだ状態での喧嘩は勘弁して欲しかった。
それでなくとも二人は身長が高くて、平均並みの自分が間に入ると体が小さくなってしまったような感覚に陥るのだ。
「そんなに急いでいるなら魔導術で今すぐ港まで飛んで行けばいいだろう。貴様程の力があるならそのくらい簡単なはずだ」
「冗談じゃねぇ、金輪際お前の前じゃ術は使わねーよ」
「ほぉ? ……私が貴様に斬りかかったらどうする?」
「術無しでもなんとかなるだろ」
「ちょ、ちょっと! 二人とも!?」
足を止め睨み合った二人を交互に見ながら私は慌てる。
きっと冗談だとは思うが、冗談に聞こえないくらいに二人の声には迫力があった。
「早く行こうよ! 私お腹空いちゃったし! ねっラグ、お昼食べるくらいの時間はあるでしょ?」
早口でまくし立てる。
すると二人の視線がゆっくりと私に移った。
「……港にある店ならな」
「ルバートの海鮮料理か。あれは絶品だぞ。私も久し振りだ」
そして何事もなかったかのように再び歩き出した二人に私はホッと胸を撫で下ろした。
(……でも、海鮮料理かぁ。いっぱい食べるぞ~!)
ここ数日まともな食事をとっていなかった私は美味しそうな料理を想像して、なんだか急に足が軽くなった気がした。
……でも、そう簡単に美味しい料理に在りつけるほどこの旅は甘くないということを、私はこのすぐ後に思い知ることになる。
「!?」
街の入り口だろうか、大きな門の前に立っている二人を見て私の身体は硬直した。
「カノン?」
足を止めた私の背後からセリーンの声がかかる。
でも何も反応できなかった。
私は、足が震えそうになるのを必死で抑えていた。
見覚えのある物々しい甲冑。
門の前に立っていたのは、嫌と言うほどに見た、あの兵士たちだった。




