19.ラグの災難
「呪い? ……あの可愛い姿がか?」
「はい。そうみたいです」
私が小声で頷くとセリーンは信じられないといった顔で前方を歩く少年を見つめた。
夕方近くなっても相変わらず喉かな風景の中、私は先ほどから彼女にぴったりと横につかれ質問攻めにあっていた。
ちなみに今ラグとセリーンとの距離は優に10メートルはある。
そこから少しでも距離が縮まるとラグから「寄るな変態!」と怒声が飛んでくるのだった。
それでもセリーンは隙を見ては何度も近寄ろうと試みている。
その度警戒心丸出しで怒鳴るラグを眺めながら、私はただ苦笑するしかなかった。
「あの子はいつまで見られるのだ?」
「えっと、多分、もうすぐ戻っちゃうと思います」
「なに! そんなに短いのか!? やはりもう一度……」
「だから近寄るなって言ってんだろ変態!」
「くそっ……! だが、ああして怒った顔もなんて可愛いんだ! あの無愛想な男と同一人物とはどうしても思えんな」
「あははは」
私が乾いた笑いを返していると、セリーンがふと思い出したようにこちらを見た。
「そういえば、お前達はどういう関係なんだ? 恋人ではないと言っていたが」
「え? あ~……」
私は言葉に詰まる。
なんと説明したらいいのだろうか。
下手なことを言えば私の事もバレてしまう。それはラグのことより更にマズい気がした。――と。
「おい! 傭兵に雇主を詮索するような権利は無いはずだぞ!」
ラグが勢いよくこちらを振り向き怒鳴った。
しかし残念ながらその姿で怒鳴られてもあまり迫力はなく、セリーンには全く効いていないようだった。
むしろ彼がこちらを向いてくれて嬉しかったのだろう、彼女は顔を輝かせ更に興味津々といったふうに声を上ずらせた。
「なんだ? そんなに言いにくい関係なのか!? ま、まさか、横恋慕の末に無理やり……!?」
「利害が一致しているから一緒にいる! それだけだ!!」
怒りが頂点に達したのか真っ赤な顔で叫ぶラグ。
「利害?」
「オレは早くこのクソムカツク呪いを解きたいんでな! そのためにある奴を捜してる。そいつも……理由は違うが同じ奴を捜しているんだ!」
そこまで大声で言い切ると、ラグはまたぷいっと前を向いてズンズン歩き始めてしまった。
そんなラグの小さな背中を見つめながら、そうかと気づく。
確かに私たちの関係は“利害関係”の上に成り立っている。
なんだか寂しい響きだが、事実なのだから仕方ない。
私は元の世界に戻る為に、エルネストさんに会わなければならない。
そのためにはラグの助けが必要で、ラグは呪いを解くために、私の「歌」が必要なのだ。
と、セリーンが何も反応しないことを不思議に思った私は傍らを見上げ、
「!?」
思わずその場から後ずさった。
「……呪いを解く、だと?」
「あ?」
地の底から這い上がってきたかのような低音にラグが再びこちらを振り向き、途端ビクリとその身を強張らせた。
そこには明らかに目が据わり、鬼気迫る表情の彼女がいた。
その身体から滲み出る殺気のようなものに私は身震いすら覚えた。そして。
「その素晴しい呪いを解いてしまうというのか!?」
彼女は悲痛なまでの叫び声を上げた。
それを聞いたラグの顔がこれでもかというほどに引きつる。
「絶対に阻止してやるからな!」
「あ、アホかあぁ~~!!」
拳を固く握りひとり闘志を燃やすセリーンに、ラグが悲鳴に似た怒鳴り声を上げた。
――どうやら、しばらくの間この三人と一匹での旅になりそうである。




