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My Favorite Song ~異世界で破滅導くセイレーンになりました!?~  作者: 新城かいり
第一章

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15/69

15.二度目の朝


 廊下はパンの焼ける良い香りがした。

 その香りに誘われるように階段を降りていくと丁度女将さんが奥の部屋から出てくるところだった。


「おはようさん。良く眠れたかい? 朝食の用意が出来てるからね、食べておくれ」

「はい! いただきます」


 女将さんはにっこり笑ってカウンター奥へと入っていった。

 その部屋に入ると3組ほどの客が朝食をとっていた。皆旅人の様相だ。

 一番奥のテーブルにラグを見つけ、私は小走りで近寄り向かいの席に座った。


 黙々と食べるラグをチラ見しつつ私もバスケットの中から美味しそうに焼けたパンを手に取る。


「今日、強い傭兵さんいるといいね!」


 なるべく明るい声で言ってみると、ラグは視線を落としたまま口を開いた。


「そうだな。最悪、傭兵無しで行く」


 普通に答えてくれたことにホっとして私はそのまま続ける。


「そうなの?」

「昨日みたいな奴ら雇ったら逆に足手まといになるからな」

「はぁ……」


 私はパンをちぎりながら生返事をした。


(昨日の人たちが聞いてたら怒りそう……)


 なんとなく周りを気にしてしまう。


 本当に彼は自信家というか、怖い物知らずだと思う。


(確かに昨日の魔導術は凄かったけど)


 でも私はこのレヴールでの常識を知らない。

 魔導術は皆が皆使えるわけではないとラグは言っていた。

 ということはやはり彼はこの世界で特別な存在なのだろうか。

 それならその自信も性格も納得できる気はするけれど……。


「早く食っちまえよ」

「あ、うん」


 軽く睨まれ、私はちぎったままだったパンを口に運んだ。


(性格は、あんまり関係ないかな)




「出発前に確認するぞ」


 部屋を出る直前、ラグが腕を組み言った。


「傭兵を雇えた場合、オレが術士だってことは秘密にしろよ」

「え? なんで」

「この国では術士だってだけで結構目立っちまうんだ。余程のことがない限り、オレも術は使わない。わかったな」


 私は頷く。


 ――魔導術にとても驚いていた城の兵士たち。

 やはりこのレヴールにも国によって文化の違いのようなものが存在するのだろうか。


 そして私は自分のいた世界のことを思い出す。

 その違いによって様々な問題が起こり、時にそれは争いにまで発展してしまう。


(みんな同じ人間なのにね……)


 そういったニュースを耳にする度、いつも胸が痛んだ。

 でもそれはきっと、私が平和な今の日本に生まれ育ったから。

 戦地では皆、自分達の思想を信じて必死で生きている。


 この一見平和そうなレヴールにも、そんな国同士の争いが存在するのだろうか。

 そんなことを考えていると、ラグが念を押すように付け加えた。


「あと、お前は絶対に歌うなよ」

「はい! わかってます!」


 思わず手を上げそうになりながら返事をする。

 ……なんだか先生に厳しく指導されている気分だ。


(そんなに歳変わらなそうなのになぁ)


 なのにこの偉そうっぷり。


「そういえば、ラグって何歳?」


 階段を下りながら訊く。


「もうすぐ20歳だ」


(ってことは今19か。ありゃ、2つも年上だったんだ)


「お前は?」

「17、です」

「見たまんまだな」


(それはどういう意味でしょうか)


 なんだか馬鹿にされた気がしてこっそりむくれていたが、ラグの髪の結び目の影で黒い塊が揺れているのを見つけ、ついまた笑みがこぼれてしまった。




 宿屋を出ると昨夜は暗くてよくわからなかった町の全貌が見渡せた。

 今私達が歩いている通りを中心にこの町は広がっているようだ。と言ってもこの通り自体そんなに広いわけじゃなく、やはりあの城下町に比べると随分小さな町だとわかった。

 ほとんどが平屋のコテージのような家で、泊まった宿屋のような二階建ての建物は他には見当たらない。


 洗濯ものを小脇に抱えながら井戸端会議に花を咲かせているおばさん達を横目に、ふと昔家族で行ったキャンプ場を思い出す。


(みんな、私がいなくなってきっと心配してるんだろうな……)


 私がこちらの世界に来てからもう2日が経ってしまった。

 今まで無断で外泊などしたことない私を家族はとても心配しているだろう。


 ちくりと胸が痛む。

 やっぱり早く家族の元に……元の世界に戻りたい。

 改めて強く思う。


(そのためにも、早くエルネストさんの所に行かなくちゃ!)


 そんなことを考えているうちに、昨日の武器屋さんが見えてきた。

 剣の描かれた看板を間近に見上げ私はゴクリと喉を鳴らす。


(強くて、でもあんまり外見強そうじゃない人がいますように!)


 なんだか矛盾していることを祈りつつ扉に手を掛けるラグの背中を見つめる。――と、その背中が突然目の前から消えた。


 頭に疑問符が浮かぶ前に思い切り腕を引かれる。


(え?)


 途端バンっと大きな音がしてすぐ眼前を何か大きなものが吹っ飛んでいった。


「ぎゃっ!」


 そんな悲鳴と共に地面に豪快に尻餅をついた傭兵風の男を見て、今のが人だったのだとわかった。


 あのまま扉の前にいたら、完全に巻き添えを食っていたとぞっとする。


 ラグが私の腕から手を離すのに気づいて「ありがとう」と小さくお礼を言う。

 でも彼は吹っ飛んできたその男をただ冷たく見下ろしていた。


「いっててて……、こんのアマぁ! いきなり何しやがる!」


 男は顔を真っ赤にして扉の向こうに怒声を飛ばした。

 そして、扉を開けゆっくりと出てきた人物を見て私は驚く。


(昨日の女傭兵さん!)


 間違いない。スラリと長身で大きな剣を背負ったその姿。

 昨夜は暗くてはっきりとはわからなかったけれど、思った以上の美人さんだった。

 おまけに出るところは出て引っ込むところは引っ込んだナイスバディ!

 そして、その短い髪は燃えるように真っ赤だ。


(かっこいい……!)


 洋画にでも出てきそうなその麗しの姿に私は思わず見惚れてしまった。


 と、彼女は自分を睨み上げる男を見下ろし口を開いた。


「私はムサイ男としつこい男が大嫌いなんだ。私の視界から今すぐ出て行け!」


 一喝する彼女。

 その鋭い声は傍にいる私まで逃げ出したくなるような迫力があった。




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