13.エルネスト(♪)
ラグとは対照的に笑顔を微塵にも崩さないエルネストさん。
「相変わらず口が悪いね、君は」
「うるせぇ! 早くオレを元に戻しやがれ!」
一方的に怒鳴り散らすラグ。
私はわけがわからないまま、ハラハラとそんな二人を見守ることしか出来ない。
――わかったのは、二人はやはり知り合いであったということだ。
「ほら、君がそんなに怒るから彼女が怯えているじゃないか。女性には優しくしないと嫌われるよ」
子供を優しくなだめるように言うエルネストさん。
「ふざけるな! テメェのせいであれからオレがどんな思いをしたと……」
「だから約束しただろう? 彼女を連れて来てくれればその呪いは解いてあげるって」
「え?」
私は小さく声を上げていた。
(それって、どういう……)
「オレは約束なんかした覚えはねーんだよ! テメェが勝手に……」
「なら君は、ずっとあの場所にいたかったのかい?」
「……っ!」
ラグは急にグッと押し黙り、悔しそうにエルネストさんを睨みつけた。
そんなラグにふっと笑いかけ彼は続ける。
「君は今こうして自由だ。僕に感謝してもいいくらいじゃないか」
「これのどこが自由だ!」
「まぁいい、君はちょっと黙っていてくれないかい? 僕は今、彼女と話したいんだ。僕にはあまり時間がないからね」
そうしてエルネストさんのエメラルドグリーンの瞳が再び私の方に戻ってきた。
「あれからずっと大変だったみたいだね。足は、大丈夫かい?」
「え?」
言われて血の滲む足のことを思い出す。
「あ、はい。大丈夫です!」
微笑む彼。
その笑顔はやっぱりとても素敵でほわっと胸があたたかくなった。
「僕には君を見守ることしか出来ないけれど……カノン、君ならここまで辿り着けると信じているよ。彼と、一緒にね」
そう言ってラグの方に視線を向ける。
ラグはまだ彼のことを鋭い目で睨んでいる。
「あの! なんで私が『銀のセイレーン』なんですか!? ……なんで私なんですか?」
私はずっと疑問だったことを訊く。
私がこの世界に来てしまったのは偶然だったのか、それとも……。
と、まるで祈るようにエルネストさんは目蓋を閉じた。
「僕はずっと、銀のセイレーンを呼んでいた。そうして、君がここに現れたんだ」
彼は目を開き、もう一度私を見つめた。
その言葉は私の本当に欲しかった答えにはなっていなかったけれど、それでも私の心にスっと入り込んで、それ以上は何も訊けなかった。
――私を見つめるその瞳に、一瞬憂いの色が混じって見えたのは、私の気のせいだったろうか……?
「さて、そろそろ時間かな。……ラグ、そんな顔ばかりして、あまりカノンを怖がらせないようにね」
「うるせぇ!」
今まで彼の言うとおりに黙っていたラグが溜まりかねたように怒鳴った。
「消えるんならさっさと消えろ!」
そんな酷い罵声にもエルネストさんは顔色一つ変えず、にっこりと笑うとそのまま本当に消えてしまった。
「クッソ……!」
吐き捨てるように毒づくラグ。
いつも不機嫌そうな彼だけれど、ここまでイラついた姿を見るのは初めてだ。
(やっぱり二人は知り合いだったんだ……。ラグは名前を知らなかったってこと?)
訊きたいことはたくさんあったけれど流石に喋りかけられる雰囲気ではない。
どうにも気まずくて動けないでいると、彼の視線がゆっくりとこちらを向いて思わずビクリと肩が震える。
「おい、足出せ」
「えぇ!?」
いきなり低く言われて戸惑う。
「足、怪我してんだろ。治してやるからそこに座れ!」
「は、はいっ!」
有無を言わせぬ口調でベッドを指差され、私はすぐさまそこに腰を下ろし先ほど彼が買ってくれた靴を脱いだ。
何ヶ所か血の滲むその足を見て、ラグが顔をしかめる。
「痛かったんなら言えよな。ったく……」
ラグは文句を言いながら床に膝をつくと、私の両足に手を触れた。
……もしかして、魔導術で治すことができるのだろうか。
私は興味津々、彼の手を見つめる。
「癒しを此処に……」
ラグが囁くように言う。
すると途端、傷口がムズムズと痒くなった。
数秒後、ラグが手を離すと何ヶ所かあったその傷は跡形も無く綺麗に消えていて驚く。
「すっごい! 治っちゃった!」
ついさっきまで血の滲んでいた場所を摩りながら私は歓声を上げる。
「お前の持ってる治癒力を高めただけだ」
溜息混じりのその声にハっとして私は顔を上げる。
小さなラグがそこにいた。
「あ、ありがとう」
「このくらいの治癒、お前にも出来そうだけどな」
向こうのベッドに戻りながらラグが言う。
(私にも……?)
歌の力で、ということだろうか。
それより彼の怒りが治まっていることに気付いて、私は思い切って訊くことにした。
「ねぇ、ラグ」
「あ?」
「あの、エルネストさんのこと……なんだけど」
ベッドに仰向けになったラグに尻すぼみになりながら言う。
「あの金髪野郎、エルネストって言いやがるのか」
天井を睨みながら憎々しげに呟くラグ。
しかし声が高い分やはり迫力に欠けた。……本人には絶対に言えないけれど。
「ひょっとして、ラグのその呪いって」
「あの野郎にかけられたようなもんだ」
(やっぱり……!)




