11.傭兵
次にラグが向かった店の看板には、剣らしき絵が描かれていた。
(ゲームだと武器屋、だよね……)
ラグに続いて店内に入り、次の瞬間私は思いっきり顔を引きつらせた。
予想通り壁には様々な武器が飾られていた。でもそれだけではなかった。
店内の長椅子に強面の男たちが数人どっかりと腰を下ろしていたのだ。
皆、筋肉隆々。スキンヘッドの男もいる。
睨むような視線を一気に浴びて、危うく腰を抜かしてしまうところだった。
そんな中、ラグは表情ひとつ変えずに奥のカウンターへと向かう。
私は身が小さくなる思いでその後に続いた。
「ルバートまで護衛を頼みたいんだが」
カウンター奥で剣を磨いていた主人らしき男にラグは声を掛けた。
(あ、そっか。傭兵を雇うって言ってたっけ)
手を止めゆっくりとこちらを振り向いた40代ほどの主人。
後ろの男たちに負けず劣らず体格が良く、しかも強面で迫力があった。
なんだか前も後ろも屈強なレスラーたちに囲まれてしまったようで息が詰まる。
「希望のクラスは」
無愛想な低い声で訊く主人。
瞬間学校で言う「クラス」が頭に浮かんだが、おそらく階級の意味だろう。
と、ラグは後ろの男たちを一瞥して言った。
「この中で一番強い奴は?」
「そりゃ断トツこの俺様だ!」
主人が答えるよりも早くひとりの男が威勢よく立ち上がった。
大きな剣を背負ったその逞しい身体にはいくつもの古傷が刻まれ、いかにも傭兵といった風貌だ。
「何言ってやがる! この中じゃ俺が最強だろ!」
「ふざけるな! お前つい最近2ndになったばかりだろうが!」
「てめぇら俺を忘れてねーか!?」
続いて一人また一人と立ち上がり凄まじい形相で睨み合う男たち。
(こわい~!)
一触即発ムードにごくりと喉を鳴らす。だが、
「煩ぇぞお前ら。やるなら外でやれ。決めるのは俺だ」
主人が良く通る低音で静かに一喝すると、男たちは渋々と座り直した。
どうやら主人は男たちに一目置かれているようだ。でなければこんな店やっていけないだろう。
私はほっと胸を撫で下ろす。
フンと鼻を鳴らし、主人はラグに視線を戻した。
「生憎と今ここには2ndと3rdの野郎しかいなくてな。見ての通り皆同じようなもんだ。すぐに発つのか?」
「いや、出発は明朝だ」
「なら明日また出直すといい。運が良けりゃ1stが戻ってきてるかもしれん」
「わかった」
ラグは頷くと踵を返し扉に向かった。
私も慌てて後を追う。……視線がすこぶる痛かった。
「はぁ~」
外に出た私は体内に溜まった空気を全部吐き出すように長い溜息を吐いた。
まだあの何ともいえない男臭さが鼻に残っている。
明日あんなムキムキの人たちと同行するのかと思うと今から憂鬱な気分だ。
しかもラグはもっと強い人をご希望のよう。
(確かに強い人の方が安心だけどさ……)
私はもうひとつ小さく息を吐いてラグに訊く。
「ねぇ、ルバートって遠いの?」
「オレの足で2日くらいだ」
「そんなに!? 車は……馬車とかってないの?」
「アホか。あんなの貴族が乗るもんだ。目立ってしょうがねぇ」
「そうなんだ……」
がっくり肩を下ろす。
思い出したようにマメの潰れた足が痛み出した。
それを紛らわすために私は質問を続ける。
「ルバートってどんなところ?」
「港町だ。グラーヴェと同じくらい栄えてる。そこから海を渡る」
「海!?」
思わず大きな声が出てしまった。
「なんだ、お前の世界じゃ海が珍しいのか?」
ラグが怪訝そうに振り返る。
「ううん、そういうわけじゃなくて……」
「ならデカい声出すな。ったく」
そしてラグはまた前を向いてしまった。
(そっか、この世界にも海があるんだ)
今日ずっと山の中にいたせいか、この世界の海がすぐには想像できなかった。
……どうやら、この異世界で航海まで経験することになりそうだ。
(私、ちゃんと日本に帰れるの……?)
行き先の不安に、私はまたも深い溜息を吐いていた。




