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S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


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55/60

第55話 死亡確認とは、配信が切れたことではありません

 事故当日の帰還ゲートログ


 画面左には、公式ログ。


 警告コード

 帰還ゲート認証不一致

 確認者:久我蓮

 状態:確認済み


 画面中央には、久我の削除前ログ。


 帰還ゲート予備認証回線

 切替履歴:一回

 切替時間:〇・八秒

 承認者:空欄


 その下に、中止申請。


 20:07:43 久我蓮:中止申請送信

 20:07:44 申請受付

 状態:承認待ち


 画面右には、黒峰が断罪配信で使った公式提供資料。


 資料提供:オーロラゲート広報部


 中止申請の行だけがない。


 久我は言った。


「俺は、帰還ゲート予備認証回線の不自然な切替を見つけました。承認者は空欄。切替時間は〇・八秒。中止申請を出しています」


 黒峰が補足する。


「私が断罪配信で使った資料には、この中止申請がありませんでした。提供元は、オーロラゲート広報部です」


 コメント欄が流れる。


 中止申請、やっぱり出てる

 公式ログから消えてる

 〇・八秒って最初のやつか

 これがゲート差し替えの入口?

 久我、止めようとしてたじゃん

 確認済みじゃなくて中止申請じゃん


 死者たちの階層で、白い線が一本、レナの足元へ伸びた。


 まだ道ではない。

 だが、黒い床の亀裂の中で、その線だけは消えなかった。


 サキがそれを見て言った。


「今、何か戻った」


 レナは、割れた壁の向こうを見る。


「久我さんが、始めたんです」


 久我は次の映像を出した。


 白河レナが帰還ゲート前で足を止める。


 左、公式アーカイブ。

 音声なし。


 右、ナツ保存版。

 レナの声が入る。


『このゲート、私の登録番号じゃない』


 そこで映像を止めた。


 レナの口元を拡大する。


 この。

 ゲート。

 私の。

 登録番号。

 じゃない。


 ナツの声が少し震えた。


「公式版では、ここが無音です。環境音の継ぎ目もあります。私の保存版には、レナの声が残っています」


 久我は下層ログを重ねる。


 白河レナ登録番号

 正規


 その下に、一瞬だけ浮く番号。


 未登録

 未分類

 転送先:未定義


「帰還ゲートは、白河レナのものではありませんでした」


 玄関の外で、ドアを叩く音がした。


 久我は画面から目を離さない。


「次に、死亡確認時刻です」


 時系列画像が表示される。


 20:42:11 事故発生

 20:42:13 配信停止

 21:09:34 公式死亡確認

 21:26以降 遺体再構成可能推定時刻


 赤い点だけが、ありえない位置に刺さっている。


「死亡確認は、物理的に早すぎます」


 黒峰が言う。


「事故発生から二十七分後。深層帰還事故で遺体再構成が可能になる時刻より前に、死亡確認が出ています」


 ハルカが続けた。


「配信停止は死亡確認ではありません。生体反応微弱継続なら、未帰還です」


 コメント欄が、初めて少し止まった。


 そのあと、短い言葉が流れる。


 死亡確認、何回見ても早すぎる

 未帰還を死亡にした

 ここから全部始まった

 帰還失敗なのに死亡確認

 久我が言ってたこと、ログ通りじゃん


 久我は、事故直後の削除前ログを表示した。


 白河レナ:未帰還

 生体反応:微弱継続

 転送先:第零階層外縁


「死亡ではありません。未帰還です」


 死者たちの階層で、壁に貼りついていた赤い文字が一枚剥がれた。


 死亡確認済み


 その文字が落ちると、下から細い文字が出る。


 未帰還


 レナはそれを見て、少しだけ息を吐いた。


     *


 次は、死亡確認書だった。


 画面に、白河レナ死亡確認書が出る。


 署名欄


 瀬戸内ハルカ


 その横に、現在のハルカの映像。


「私はこの書類に署名していません」


 声は冷たかった。


 それだけで十分だった。


 久我は、公式会見の切り抜きを流す。


『こちらが、白河レナ氏の遺体データです。深層帰還事故による身体情報崩壊が確認されており――』


 ハルカが映像を止める。


 三つの欄が画面に並ぶ。


 事故当日損傷

 魔力残留

 帰還事故再構成痕


「事故当日損傷。不一致」


 赤い表示。


「魔力残留。不一致」


 二つ目の赤。


「帰還事故再構成痕。検出なし」


 三つ目の赤。


 ハルカは言った。


「白河レナさんのものではありません」


 ハルカが、画面の表示名にカーソルを置いた。


 遺体データ


 その文字が消える。


 身体情報ログ


「遺体と呼ばないで」


 ハルカは、短く言った。


「この時点で、まだ帰還対象です」


 画面右に、羽村サキの名前が出る。


 D級探索者

 三年前:中層下部にて未帰還

 公社記録:遺体回収不能

 死亡推定


 久我は、羽村家の許可文を表示した。

 直接の写真は出さない。

 赤いマグカップだけを、小さく映す。


「公式が白河レナさんのものとして出した身体情報ログは、羽村サキさんの記録と高確率で一致しました」


 ハルカが釘を刺す。


「羽村サキさんは、白河レナさんのための証拠ではありません。彼女自身が帰還対象です」


 ナツが言った。


「名前を呼ぶなら、間違えないで」


 掲示板がざわめく。


 遺体が違う時点で死亡確認とは

 羽村サキ

 死亡じゃない。未帰還

 赤いマグカップの人だ

 家族に遺体回収不能って言ってたんだろ

 なのにデータだけ持ってたのか

 誰が保管してた?

 何のために?

 死亡処理用データ?

 地獄


 久我は、次の画面を開いた。


 死亡処理内部照合画面


 未帰還

 生体反応断片あり

 帰還座標断片あり

 死亡推定

 身体情報抽出済

 保険処理可

 権利処理可

 追悼利用可

 帰還対象外


 ハルカの声が低くなる。


「未帰還者を死亡者名簿に入れた瞬間、救助対象から外れる。その紙が、人を殺すこともあります」


 久我は言った。


「死を確認するための記録ではありません。死亡処理を進めるために保管され、流用されていました」


 コメント欄から軽口が消えた。


 死者たちの階層で、サキの腕に浮かんでいた灰色の番号が揺れた。


 死亡推定

 調査終了


 その二つの文字が薄くなり、かわりに白い線が足元へ伸びる。


 サキは、自分の手を見る。


「私の名前」


 レナがうなずく。


「戻ってきています」


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