表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/11

第5話 死亡確認が早すぎる

 十秒で反応がついた。


 ――掲示板――

 《久我本人だろ》

 《見苦しい》

 《生存偽装とか最低》

 《レナを二度殺すな》

 《ログなんていくらでも作れる》

 《人殺しが被害者ムーブか》

 《未帰還って書けば生き返ると思ってんの?》

 《はい解散》

 《いや待て、タイムスタンプが変》

 《偽造にしては地味すぎるだろ》

 《もっと派手に作れよ》


 久我はスレッドを閉じなかった。


 叩かれることは分かっていた。


 問題は、叩きの中に検証が混じるかどうかだ。


 掲示板には、奇妙な種類の人間がいる。


 怒る人間。

 煽る人間。

 泣く人間。

 そして、数字を見る人間。


 数分後、その人間が現れた。


 ――掲示板――

 《これ死亡確認時刻おかしくね?》


 久我は画面を見た。


 続けて投稿が流れる。


 ――掲示板――

 《公式発表の死亡確認、事故から二十七分後だよな》

 《帰還事故で遺体再構成するには最短でも四十分以上かかる》

 《深層ならもっと遅い》

 《なのに二十七分で死亡確認?》

 《何を確認した?》

 《配信停止を死亡確認って呼んでない?》

 《いやそれはさすがにやばい》

 《検証画像作るわ》

 《仕事早すぎ》

 《お前ら仕事しろ》

 《これが仕事だが?》


 久我は、椅子に背中を預けた。


 検証班。


 配信文化が生んだ、妙な生き物たち。


 普段はサムネイルの時刻ズレや、配信者の発言矛盾や、背景に映った看板の位置から撮影場所を割り出している。

 たいてい迷惑だ。

 だが、数字には強い。


 十分後、画像が貼られた。


 黒背景に、一本の白い横線。


 その上に、四つの点が打たれている。


 ――ログ――

 事故発生。

 配信停止。

 公式死亡確認。

 遺体再構成が可能になる推定時刻。


 赤い点だけが、明らかに左へずれていた。


 死亡確認の点だ。


 ――検証画像――

 【白河レナ帰還事故 時系列】


 20:42:11 事故発生

 20:42:13 配信停止

 21:09:34 公式死亡確認

 21:26以降 遺体再構成が可能になる推定時刻

 ※深層帰還事故における標準復元プロトコル最短値で算出


 四つを並べると、誰でも分かる。


 死亡確認だけが、ありえない場所に刺さっていた。


 画像の下に、大きな文字があった。


 [画面]死亡確認が物理的に早すぎる。


 スレッドの速度が、一瞬落ちた。


 罵倒の列に、数字が割り込んだ。


 誰かが久我を許したわけではない。

 白河レナが生きていると証明されたわけでもない。


 ただ、殴る手が一度だけ止まった。


 ――掲示板――

 《ほんとだ》

 《これ死亡確認じゃなくて死亡発表じゃね?》

 《発表と確認は違う》

 《叩きたいけど数字が合わない》

 《久我が悪いとしても、死亡確認早すぎ問題は残る》

 《公式ログと削除前ログ、時刻が合わない》

 《待て、これ本当に久我だけが悪いのか?》

 《いや久我が偽造した可能性もある》

 《それはある》

 《でも公式側も変》

 《両方燃やせばよくない?》

 《落ち着け、火力で解決するな》

 《死亡確認、先に用意されてない?》

 《怖》

 《怖いこと言うな》

 《でも画像見たらそう見える》


 新しいスレッドが立った。


 ――掲示板――

 【検証】白河レナ死亡確認、物理的に早すぎないか?

 【疑惑】公式ログと削除前ログ、時刻が合わない

 【待て】これ本当に久我だけが悪いのか?

 【混乱】叩きたいけど数字が合わない

 【怖】死亡確認、先に用意されてない?


 久我は、何も書き込まなかった。


 自分で説明しすぎれば、火は自分に戻る。

 ログを読む人間が勝手に気づく必要がある。


 それが、記録の強さだ。


 個人の主張は燃える。

 数字の矛盾は残る。


 もちろん、久我への攻撃は止まらなかった。


 ――掲示板――

 《人殺しが無罪になるわけじゃない》

 《検証班は陰謀論に乗るな》

 《レナ様の死を利用するな》

 《でも公式は説明しろ》

 《久我は謝れ》

 《公式も出せ》

 《全員ログ出せ》

 《ログを出せ高校校歌》


 最後の投稿だけ、意味が分からなかった。


 だが、空気は変わった。


 ほんの少しではない。


 小さな亀裂が入った。


 公式発表に、最初の傷がついた。


 久我は保存していた音声ファイルを見た。


 まだ出せない。


 これを出せば、白河レナの声は一気に消費される。

 切り抜かれ、泣き動画に使われ、怒りの燃料になり、偽物扱いされ、また燃える。


 出すタイミングを間違えれば、彼女の声は証拠ではなく商品になる。


 久我は音声ファイルを閉じた。


 その時、端末に通知が届いた。


 非通知ではない。


 送信者名が表示されていた。


 天城セイジ。


 久我は、しばらくその名前を見た。


 メッセージを開く。


 本文は短かった。


 ――メッセージ――

 〉そのログを持っているなら、君もこちら側に来られる。

 〉彼女を伝説にしたいなら、黙っていろ。


 続けて、もう一文が届いた。


 ――メッセージ――

 〉生きて戻れば、彼女は事故の被害者になる。

 〉死んだままなら、彼女は永遠に英雄でいられる。


 久我は画面を見つめた。


 怒りは、すぐには来なかった。


 先に来たのは、理解だった。


 天城は、驚いていない。

 削除前ログの存在を知っている。

 そして白河レナを、過去形の商品として扱っている。


 彼女を伝説にしたいなら。


 久我は、音声ファイルをもう一度再生した。


『久我さん。私、まだ帰れてない』


 再生を止める。


 ファイル名を変更した。


 [画面]証拠一。


 それから、天城のメッセージを保存した。


 [画面]証拠二。


 白河レナは、死んだのではない。


 死んだことにされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ