第47話 白河レナ生存配信 準備中
準備は、その場で始まった。
久我は、ナツへ指示を出した。
「白河レナの死亡扱い切り抜きと、事故直前の保存版を分けてください。死を固定する記録と、生存を示す記録を混ぜないでください」
「了解。見るなじゃなくて、ちゃんと見ろってことね」
「はい」
「保存厨、仕分けに入ります」
「死亡と書かれたサムネイルは、別フォルダへ。タイトルに死亡、追悼、伝説、ありがとうが入っているものも分けてください」
「うわ、めちゃくちゃ多い」
「多いほど、固定が強いということです」
「最低の集計結果」
次に、黒峰。
「訂正配信を固定してください。断罪配信は消さず、冒頭に訂正リンクを追加。公式ログ比較を見やすくしてください」
「分かりました」
「間違いを残すことが、復元点になります」
「はい」
「それと、断罪配信内で読み上げた事故時刻に、正しい中止申請時刻を重ねてください。視聴者が同じ画面で比較できる形に」
「やります」
ハルカには、未帰還者リストを渡した。
「死亡処理済みでも、生体反応断片が残っている人を抽出してください」
「数が多い」
「はい」
「人間の名前で出して。番号だけにしないで」
「了解しました」
「あと、死亡確定と未帰還を混ぜない。死因欄の言葉を間違えると、また殺す」
「はい」
第二事故で救われた探索者たちは、自分たちの配信アーカイブを出し始めた。
閉じ込められた場所。
レナの声を聞いた時間。
久我の指示で開いた救助ルート。
救助前後のスクリーンショット。
久我は、それを帰還座標候補に重ねていく。
羽村サキについては、ナツが古いミラー動画を切り出した。
帰還前確認。
プリンの話。
登録番号違いに気づいた場面。
赤いマグカップの写真。
家族の許可文。
ナツが、作業しながら言った。
「死に方じゃなくて、帰る前の顔を出す」
「はい」
「サキさんが、プリン買うって言ってたところも残す」
「必要です」
「だよね。データじゃなくて、人だから」
「はい」
掲示板検証班は、名前を読み上げるためのスレッドを作った。
【注意】未帰還者の名前を間違えるな
【募集】古い事故配信・ミラー動画・スクショ
【整理】死を固定する切り抜きと帰還を助ける記録を分ける
【確認】見るのは死に様じゃない、帰る道
【保存】消すな。訂正して残せ
【重要】死亡扱いタイトルをそのまま拡散するな
【急募】帰還前の映像、最後の食事、家族が許可した記録
ナツが、画面を見ながら小さく言った。
「今度は、帰すために見るんだね」
「はい」
「レナを伝説にするためじゃなくて」
「帰還対象として観測します」
「言い方は冷たいけど、意味は好き」
久我は、白河レナの生存ログを開いた。
『久我さん。私は生きてる』
『でも、私だけ帰るわけにはいかない』
『ここには、死んだことにされた人たちがいる』
久我は、その下に実行手順を書いた。
一。
死亡固定記録の分離。
二。
生存および未帰還記録の集約。
三。
白河レナの帰還座標復元。
四。
羽村サキおよび未帰還者群の名前照合。
五。
観測方向の変更。
死亡から未帰還へ。
追悼から帰還へ。
伝説から生存へ。
保存。
その瞬間、管理局の警告ログが赤く光った。
首都ダンジョン管理局。
深層圧、微増。
白河レナ固定点、変動。
帰還座標候補、地上側へ伸長。
続いて、新しい警告。
新宿地下通路。
監視カメラ七番。
異常検知。
映像が自動で開く。
深夜の地下通路だった。
人は少ない。
シャッターの下りた店。
白い床。
案内板。
清掃員が一人、モップを押している。
その奥に、階段が映った。
本来、そこに階段はない。
一秒だけだった。
黒い石の階段。
壁には、壊れた配信画面のような四角い光。
手すりには、見覚えのない文字。
第零階層外縁。
次の瞬間、映像は元に戻った。
白い壁。
何もない通路。
清掃員が振り返る。
同時に、駅案内板が一度だけ乱れた。
出口案内。
乗換案内。
地下街案内。
その隙間に、一行だけ表示される。
白河レナ生存配信 準備中。
通行人のスマホが、同時に鳴った。
配信通知。
だが、配信はまだ始まっていない。
ナツが、息を止めた。
「久我さん」
「はい」
「これ、始まってる」
久我は画面を見た。
首都ダンジョン管理局の地図に、黒い線が一本伸びている。
深層から、地上へ。
久我は、その線を保存した。
ファイル名を入力する。
首都側漏出兆候_初回。
保存。
救出は、もう地上に触れていた。




