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S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


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43/59

第43話 配信は記録ではありません

 記録されていない映像が、記録の中から戻ってきた。


 久我蓮は、その一枚を画面に固定した。


 白河レナ事故現場。

 帰還ゲートの斜め上。

 白い探索スーツの背中。

 光に向かう直前の足元。


 公式アーカイブにはない。

 猫田ナツの保存版にもない。

 新人探索者の装備カメラにもない。

 切り抜きにも、スクリーンショットにも、誰かの実況にも残っていない。


 それなのに、地形復元図の中では、その角度だけが鮮明だった。


 ナツが、画面を覗き込んだ。


「これ、誰のカメラ?」


「不明です」


「不明なのに、なんで残ってるの」


「それを確認しています」


「冷凍食品の裏面みたいに言わないで。今すごい怖いこと起きてる」


 久我は返事をせず、別の地図を重ねた。


 一枚目。

 白河レナ事故配信の同接グラフ。


 配信開始時、四十九万人。

 深層ボス戦、九十一万人。

 帰還ゲート起動直前、九十三万人。

 配信停止直前、九十四万人。


 二枚目。

 ダンジョン地形復元率。


 ボス戦地点、七十八パーセント。

 同行者帰還地点、八十二パーセント。

 白河レナが足を止めた帰還ゲート前、九十六パーセント。


 久我は二つを重ねた。


 線は、気持ちが悪いほど似ていた。


 同接が増えた場所ほど、地形が残っている。


 ナツが、唇を押さえた。


「同接が地形を押さえてるみたいに見える」


「見えるだけなら偶然です」


「偶然って便利だね」


「便利なので、最初に疑います」


 久我は、次の地図を出した。


 風穴ランナーズ第二事故。


 久我が配信映像を救助地図に変えた事故だ。


 配信開始直後、事故現場の地形復元率は二十九パーセント。

 視聴者がスクリーンショットを出し始めた後、四十六パーセント。

 音響班が反響音を分析した後、五十二パーセント。

 久我の配信に人が集まり、同じ閉じ込め地点を見続けた時間帯で、七十一パーセント。


 そして、白河レナの声が入った地点。


『そこじゃない。下にいる』


 その周辺だけ、復元率が八十四パーセントまで跳ねていた。


 ナツの顔から、軽口が消えた。


「私たち、場所を特定したんじゃなくて」


 久我は画面を見た。


「特定したことで、場所を強くした可能性があります」


「見つけたから残ったのか、残ったから見つけられたのか、どっち?」


「両方です」


「最悪の答え方」


 瀬戸内ハルカが後ろから言った。


「人間で言わないで」


 久我は振り返った。


 ハルカは腕を組んでいる。

 いつも通り、眠っていない顔だった。


「座標が強い、薄い、残る、消える。言葉は必要。でも、それを人間にそのまま当てないで」


「はい」


「座標が薄い、で済ませないで。人間が薄いわけじゃない」


 ナツは何も言わなかった。


 久我も答えなかった。


 画面には、羽村サキの事故ログが表示されている。


 再生数、二百三十一。

 コメント、六件。

 保存されたミラー動画、一件。

 事故スレ、三十七レス。

 切り抜き、なし。

 スクリーンショット、二枚。


 地形復元率、十七パーセント。


 だが、サキが帰還ゲートの番号に気づいた一瞬だけ、二十六パーセント。


 さらに、羽村家の赤いマグカップの写真が公開された日。

 事故スレが掘り返され、サキの名前が何度も呼ばれた日。


 古いログのノイズの奥に、消えていた足場の輪郭が一つ戻っていた。


 ナツが、静かに言った。


「見られてなかったから、消えていいわけじゃない」


「はい」


「でも、見つけ直さないと、戻せない」


「はい」


「きついね」


「はい」


 久我は、反例フォルダを開いた。


 同接が多いのに地形が残っていない事故。

 再生数が少ないのに座標が残っている未帰還者。

 配信されていないのに、死者たちの階層に現れた可能性のある記録。


 反例を潰さなければ、仮説ではない。


 久我は一件ずつ見た。


 同接十万人の事故。

 地形復元率、十一パーセント。


 配信アーカイブは削除済み。

 切り抜きは事務所申立てで全削除。

 コメントログも残っていない。


 同接はあった。

 だが、誰も後から見られない。

 観測が残っていない。


 次。


 再生数八十九の低ランク事故。

 地形復元率、三十四パーセント。


 理由はすぐに分かった。


 事故直後から、家族が毎月同じ動画にコメントを書いていた。


 帰ってきて。

 今日も待っています。

 誕生日です。

 まだ、消しません。


 十二年間。


 ナツが鼻をすすった。


「これ、同接じゃないね」


「はい」


「数だけじゃない」


「継続です」


 ハルカが短く言った。


「呼び続けたんだ」


 久我はうなずいた。


 同時接続者数。

 コメント数。

 切り抜き数。

 スクリーンショット数。

 アーカイブ残存率。

 名前が呼ばれた回数。

 事故地点が語られた回数。


 全部が、同じものではない。


 久我は画面端に、強度順を仮置きした。


 配信中の同時観測が一番強い。

 次に、あとから見返せる動画、切り抜き、スクリーンショット、コメントログ。

 家族が名前を呼び続けた記録は、それより弱い。

 弱いが、ゼロではない。


 だが、方向は同じだった。


 見られた場所は残る。

 呼ばれた人間は、完全には消えない。

 記録が残れば、座標が戻る。

 記録が消されれば、地形ごと薄くなる。


 ナツが、両手で顔を覆った。


「え、私の保存癖、世界のバグに刺さってたの?」


「バグとは限りません」


「じゃあ何?」


「仕様です」


「最悪」


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