表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/59

第44話 間違いを残すこと

 久我は、別の検証画面を開いた。


 メイズリンク社の帰還補助装置。

 白河レナ事故。

 羽村サキ事故。

 過去の低ランク未帰還事故。


 どれも、事故直前に外部モジュールが動いている。


 ナツが眉を寄せた。


「これ、前に公開した帰還補助装置の欠陥動画?」


「はい」


「帰還先をずらすやつ」


「正確には、帰還座標を正規ゲートから外します」


「冷たい言い方」


「人間で言うなら、帰り道を横へ滑らせる部品です」


「最初からそう言って」


 久我は、事故ログを重ねた。


 外部モジュール作動。

 登録番号不一致。

 帰還座標ずれ。

 配信観測あり。

 地形残存あり。


 次の事故。


 外部モジュール作動。

 登録番号不一致。

 帰還座標ずれ。

 配信観測なし。

 地形残存、ほぼなし。


 さらに次。


 外部モジュール作動。

 登録番号不一致。

 帰還座標ずれ。

 事故スレあり。

 ミラー動画あり。

 地形一部残存。


 ナツが、ゆっくり画面を指した。


「ずらしたのは装置。でも、ずれた先が残るかどうかは、見られてたかどうか?」


「そう見えます」


「じゃあ、欠陥装置だけなら、ただ消える。配信されてたら、変な場所に固定される」


「比喩としては近いです」


「今回はその比喩、だいぶ嫌」


 ハルカが低く言った。


「普通の死亡でも、普通の行方不明でもない理由か」


「はい」


 久我は、白河レナ事故の下層ログを拡大した。


 帰還補助設定:外部モジュールあり。

 転送先:第零階層外縁。

 観測密度:異常高。


 羽村サキ事故。


 帰還補助設定:外部モジュールあり。

 転送先:未定義。

 観測密度:低。


 だが、末尾の三桁が一致している。


 同じ穴に落ちた。

 ただし、白河レナは九十四万人に見られていた。

 羽村サキは、ほとんど見られていなかった。


 ナツの声が小さくなった。


「レナは見られてたから、残った。でも、そのせいで固定された」


「はい」


「サキは見られてなかったから、消えかけた。でも、完全には消えなかった。家族が呼び続けたから」


「はい」


 ナツは、画面から目を離さなかった。


「じゃあ、見ることは救助にもなるし、拘束にもなる」


 ハルカが言った。


「包帯と鎖が同じ布でできてるみたいな話だね」


 ナツが顔をしかめた。


「先生、たまに言い方が一番怖い」


     *


 黒峰ユウマは、三十分後に通話へ入った。


 顔色はよくなかった。


 背景は、いつもの配信部屋ではない。

 資料棚の前。

 照明も暗い。


「僕の過去配信データが必要だと聞きました」


 久我は答えた。


「必要です」


「断罪配信もですか」


「はい」


 黒峰は、一瞬だけ目を伏せた。


「消した方がいいと思っていました」


「消さなかった判断が、役に立つ可能性があります」


「僕の間違いが、ですか」


「間違いも記録です」


 ナツが横から言った。


「黒峰さんの配信、公式ログを画面に出してましたよね。あれ、公式側が後から消した行も、黒峰さんのアーカイブには残ってる」


 黒峰は唇を結んだ。


「僕が久我さんを責めた映像が、久我さんを助けるんですか」


「助けるというより、消された情報を戻す材料になります」


 久我は、黒峰の断罪配信と謝罪配信を同じ画面に並べた。


 断罪配信。

 公式提供ログ。

 確認者、久我蓮。

 状態、確認済み。


 謝罪配信。

 比較画像。

 中止申請行の欠落。

 訂正リンク。

 黒峰自身の発言。


『久我蓮氏を、断定的に責めるべきではありませんでした』


 コメント欄の流れも残っている。


 久我は、その下に地形復元率を表示した。


 黒峰が断罪配信で事故時刻を読み上げた場所。

 訂正配信で中止申請の時刻が示された場所。

 その周辺のログ欠損が、わずかに埋まっている。


 黒峰が呆然とした。


「僕が、間違えて、訂正したから」


「はい」


「事故地点の時刻が戻った」


「可能性があります」


 黒峰はしばらく黙った。


「間違いをなかったことにしなかったから、ですか」


「はい」


 ナツが小さく言った。


「消したら、なかったことになる。残して訂正したら、間違いごと道しるべになる」


 黒峰は、画面の中で深く頭を下げた。


「僕の配信データを渡します。切り抜きも、コメントログも、訂正前のものも」


「消さないでください」


 久我は言った。


 黒峰が顔を上げる。


「消したいと思っても、消さないでください。訂正を残してください」


「分かりました」


 その声は、前より少しだけ重かった。


     *


 鷹宮リョウの証言は、音声ではなく地図上に重ねた。


 リョウ本人は、久我の部屋にいない。

 別の場所から、短い文だけを送ってくる。


 白河レナがボス戦で踏んだ床。

 新人探索者を止めた位置。

 帰還ゲートへ向かう時の足取り。

 事故の七秒前、自分がゲートから離れた方向。


 リョウのメッセージは、削るような短さだった。


 俺はその時、レナを見ていなかった。

 天城の指示で、距離を取っていた。

 だから、あの輪の外にいた。

 俺が見ていれば、何か変わったのか。


 久我は返信しなかった。


 答えられない。


 代わりに、リョウの位置ログを地図へ入れた。


 事故直前、観測の輪から外れた点。


 その周辺だけ、地形復元率が落ちている。


 ナツが苦い顔をした。


「見なかった罪、みたいになるの嫌だね」


「罪とは言えません」


「でも、本人はそう思うよ」


「はい」


 久我は、リョウの証言を保存した。


 証言は、人を罰するためではない。

 帰すために使う。


 そうしなければ、天城と同じになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ