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S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


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第36話 命ではなく、書類が先に走った

 白河レナから届いた三十二秒のログは、すでに保存してある。


 ファイル名は、白河レナ生存および未帰還者存在ログ。


 作業フォルダは、未帰還者帰還計画。


 久我蓮は、そのフォルダをもう一度開いた。


 対象者欄には、白河レナの下に、羽村サキと、氏名不明の未帰還者複数が並んでいる。


 画面の端には、ログの最後から切り出した静止画があった。


 血で汚れた白い探索スーツ。

 割れた肩部装甲。

 頬に走る細い傷。

 背後には、空のない黒い街。


 白河レナの横に、羽村サキが映っている。


 一瞬だけだった。

 だが、そこにいた。


 ナツが画面を見ていた。


「増えたね」


「はい」


「レナだけじゃ、なくなった」


「最初から、そうでした」


 久我は言った。


「こちらが見ていなかっただけです」


 ハルカが、低い声で言った。


「処理済み、じゃないね」


「はい」


「死亡確認済みでもない」


「はい」


「じゃあ、あの子たちは何?」


 久我は即答しなかった。


 生きている。

 死んでいる。

 未帰還


 どの言葉も、完全には合わない。


 だが、今使うべき言葉は一つしかなかった。


「帰還対象です」


 ログ上の転送先は、第零階層外縁。


 片瀬ユイはそこを、帰れなかった探索者たちが集まる場所だと言った。


 久我の作業フォルダでは、仮に死者たちの階層と置いている。


 正式名ではない。

 だが、今はその呼び方が一番近かった。


 久我は、風穴ランナーズの第二事故ログも同じ画面に並べた。


「完全に同じ事故ではありません」


 ナツが画面を見た。


「レナさんたちは飛ばされた。風穴ランナーズは閉じ込められた」


「はい。ただ、完全に無関係でもありません。どこか別の場所と、一瞬だけ重なった可能性があります」


「そこが、死者たちの階層?」


「まだ仮説です」


 そこで止めた。

 今は、仕組みを断定する段階ではない。


 ハルカは目を細めた。


「医者の言葉じゃないけど、今はそれでいい」


 ナツが、やっと息を吐いた。


「対象って言い方、冷たい」


「他に言い方がありません」


「あるでしょ。人とか」


 久我は画面から目を離さなかった。


「人として扱うために、対象に入れます」


 ナツは口を閉じた。


 久我は、新しい調査項目を作った。


 未帰還化の原因

 死亡処理の根拠

 死亡処理の利益

 帰還阻害要因

 座標復元手段


 ナツが眉を寄せた。


「三つ目」


「死亡処理の利益、ですか」


「うん。そこ、嫌な文字列すぎる」


「人間に向ける言葉じゃない」


 久我は、レナの音声ログから視線を移した。


「人間として戻すために、まず人間扱いされなかった理由を見ます」


「……言い方は冷たいのに、やってることは熱いの腹立つ」


「なぜ未帰還を死亡に変えるのかを調べます」


「そりゃ、隠蔽のためじゃないの」


「隠蔽だけなら、未帰還のままでも可能です。行方不明。調査継続。捜索中。いくらでも言い換えられる」


 ハルカが短く言った。


「死亡確認書を偽造してまで、死亡にした」


「はい」


 久我は画面に、白河レナ事故の時系列を出した。


 事故発生

 生体反応:微弱継続

 転送先:未定義

 削除前ログ:第零階層外縁

 未帰還

 二十七分後:死亡発表

 追悼配信

 AI音声メモリアル

 追悼グッズ

 スポンサー追悼文

 探索者安全基金


「死亡処理は早すぎました。早くする理由がある」


 ナツが椅子の背にもたれた。


「理由って、金?」


「可能性があります」


「うわ。最悪。たぶん当たり」


 久我は、画面に別フォルダを開いた。


 RENA MEMORY PROJECT

 白河レナ追悼配信

 限定アーカイブ販売

 AIボイスカード

 追悼アクリルスタンド

 メモリアルブック

 未公開写真集

 探索者安全基金連動キャンペーン


 あの追悼配信の時点で、気持ち悪いほど整っていたもの。


 今は、それを一つずつ開く。


     *


 最初に出てきたのは、スポンサー向けの事故処理画面だった。


 白河レナ大型深層攻略配信

 協賛契約

 死亡時特約

 追悼企画移行


 細かい条文は、ナツが読む前に目を滑らせた。


「死亡時特約って何」


「本人が死亡扱いになった場合、契約を追悼協力へ切り替える条項です」


「人間の言葉で」


 久我は、画面を二つに分けた。


 左

 未帰還

 捜索継続

 支払い保留

 契約未整理

 追悼企画:開始不可

 音声・肖像権:本人確認待ち


 右

 死亡確認済み

 保険処理開始

 契約整理可

 追悼企画:承認

 音声・肖像権:管理移行


 未帰還の欄には、赤い保留表示が並んでいた。

 死亡確認済みの欄では、それが緑色の処理可に変わっている。


 ナツは、画面の色を見て言った。


「赤が、緑になるんだ」


「はい」


「レナさんが生きて帰ったら、事故の真相を話せる。契約も責任も止まったまま。死んだことにしたら、保険も追悼商品も動く」


「そうです」


「帰ってきたら面倒。死んだら美談。しかもお金も動く」


「はい」


「最悪。中学生でも分かるくらい最悪」


 ハルカが低く言った。


「命より先に、書類が走ったんだ」


 部屋が静かになった。


 久我は、その言葉をメモに残した。


 死亡処理が早すぎる理由

 命ではなく、書類が先に走った


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